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第4話

その足音は私の部屋の前で止まったかと思えば、控えめにノックされた。


「はい。」

「お嬢様、お休みのところ申し訳ございません。至急ベレンに用があり、参りました。」

「入って大丈夫よ。」


おずおずといった様子で入ってきたメイドは思わず目を見開いてしまうくらい、酷い有様だった。廊下を走ったぐらいじゃこうはならないだろうと思わず口に出しそうになった。


「このような格好でお嬢様の前に出ることをお許しください。」

「それは気にしなくて良いのだけど…何があったの?」

「それは…」


目の前のメイドは言い淀み、ちらりとベレンに視線を向けた。

なんだ?私には言えないことなのか?無理に聞き出すつもりはないが、家のメイドが事故にあったレベルで髪と服を乱し、ところどころに生傷が見えたら誰でも心配するし、気になるだろう。


「ベレン。言えないならば理由を教えて欲しいわ。」

「いえ…今のお嬢様には話すべきことだと、勝手ながら判断いたします。これは使用人一同、そしてご当主であらせられます旦那様の一存でもございます。お嬢様の目に入れないようにとの指示でしたが…。」


今のお嬢様になら大丈夫でしょう、という言葉が後に続いた気がした。複雑だが、ベレンからの信頼はまぁまぁ勝ち取れているのだろうか。ベレンが目で合図すると呆然と立っていたメイドの背筋が伸びた。


「奥様が、お目覚めになり、お嬢様をお探しです。」


ガシャーン!!


その言葉と共に比較的遠い位置から何かが割れた音が響いた。

その音にメイドは怯え、肩を震わせていた。


一方、私といえば



「(え、オフィリアの母親って生きてたの!?!?)」



ゲームが開始される頃には既に死んでいたし、実際オフィリアの記憶も大分前を境に姿を見せていないため、てっきり死んだものだと思っていた。オフィリアの母親についてゲーム内では、オフィリアルートで唯一語られる。穏やかで優しい、花園をバックに微笑んでいるような回想があったはずだ。母が死んだからオフィリアは狂ったのだとネットでは考察されていた。


何時死んだのか等は記されていなかったが、目の前の傷だらけのメイドや遠くの何かが壊れた音と結びつくような人ではなかったはず。



「そう。今向かうわ。」

「え!?」

「お嬢様、落ち着いて聞いてください。奥様は今、病魔に冒されております。以前の奥様とはかけ離れている状態です。今お会いするのは危険です。今一度、奥様が落ち着いたら、」

「この数年会ってないということは、その病はずっと治ってないでしょう?それに、貴方…リリーといったかしら?」


私の言葉に目の前のリリーは目を見開き、頬を染めながら頷く。昔から人の名前を覚えるのは得意なのだ。


「リリーが来た時点で病は移らない類。ね?何も心配いらないわ。」

「ですが、お嬢様!」

「母の代わりに先に謝らせて。傷つけてしまってごめんなさい。」

「そっそんな!!お嬢様に頭を下げていただくようなことでは…!」

「痛かったでしょう?リリーは治療を受けに下がって。ベレンはルディに事情を話して一緒にお母さまの元へ。」


戸惑うリリーを置いて、外に出る。扉の外に立っていたルディは表情こそ替えないものの、何故出てきたと言わんばかりに私の前に出た。


「ルディ。お母さまの元へ向かうわ。その反応から見るに大体事情は知っているようね。」

「伺っております。だからこそお嬢様を奥様の元へ向かわせることは出来ません。これは侯爵様の御意向です。」


ここまで止められるとは思っていなかったが、痛いところをついてきた。お父様の命令だと言われれば、一娘である私には何もできない。あの我儘オフィリアも父のいうことは聞かざる終えなかったんじゃないだろうか。そもそもお父様の命令なんて知らなかったし、それとなく優秀な使用人たちが避けてたのだろうけど。


「それでも行くわ。お母さまが会いたがってるんだから、私も会いたいのよ。」

「まさかお忘れですか?」

「ルディ!!」


は?お忘れ?何を?と疑問に思うと、廊下の曲がり角の奥からつんざくような女性の声がした。


「邪魔よ!!!!私の娘に会って何が悪いの!?!?」


その金切り声を聞いた瞬間、記憶の扉を開けたように嫌な映像がフラッシュバックした。


「貴方が、貴方が男だったらよかったのに!!!!」


憎悪を顔に滲ませた女は右手を振り上げ、思いっきりオフィリアの頬を叩いた。


「お嬢様!!」


はっと意識を現実に戻せば、その金切り声はさらに近づいていた。ルディが私を隠すように前に立ち、ベレンが部屋に入るよう私の肩を優しくも確かに誘導している。

ベレンの手に手を重ね、穏やかに勤め微笑みかけた。


「大丈夫よ。」

「ひっ」



ぶち切れ寸前である。



後にベレンによってこの時の私の顔は嵐の前の静けさのごとく怖かった、と種明かしされることになるが、まだ先の話。


兎に角、ぶち切れ寸前というかほぼぶち切れている。あんなに幼いオフィリアに手をあげるなんて。それに、出された言葉から察するにくっだらない。くだらなすぎる。

オフィリア自身も今思い出した体験で、母の記憶を閉ざし、無意識に避け、記憶を美しかった時で止め、美化し続けたのだろう。


「ルディ、退きなさい。」

「しかしおじょ」


筋力で護衛である彼に適うはずもないが、ルディは私の顔を見て即座に道を開けた。


さらに近づいてきた足音と耳障りな声に、思い切り舌打ちをした。




「さぁ、お話合いといきましょうか。」



ぐるりと肩を回すオフィリアに、殴り合いの間違いではないのか?と思ったことは墓まで持っていくと決意したルディであった。


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