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第一話 「今日から俺は人柱公務員」

久しく書いてないのでリハビリも兼ねて。

 ここは市街一等地のさらにド真ん中に建つ高層ビルの目の前。


 見上げれば首筋を痛めそうな角度になるからどれだけ高いかは想像するしかないが、少なくともサンシャインシティよりは高いのではないか。


 背後を通る道は車がひっきりなしに往来し、またビル風によって迂闊に気を抜くとよろけてしまったりする。


 ここが今日から俺の職場になるなんて、全く想像の埒外だ。


 とにかく、物思いに耽っていても意味はない。約束の時間は待ってはくれないのだ。

 

 リノリウムを踏み鳴らす靴音は一人分。エレベーターまでの道のりは入り口付近にある案内板で把握している。無駄は無い。


 するとエレベーター前に二人の女性が居た。どうやら同乗する事になりそうだ。


 二人の女性は手を繋ぎ、その仲の良さを示している。だが、彼女たちの表情は、その繋がりとは裏腹にひどく堅い。


 とは言え、なんの関わりもない俺が悲壮感さえ漂わせる真剣な2人に声を掛けるわけもなく、エレベーターは目的の階に到着した。


 勿論、俺は降りる。だが意外なことにどうやら女性達もこの階に用があるようだ。


 まあ、気にしても仕方がない。俺はさっさとスタッフ用のドアを開け、更に事務室に繋がるドアをノックし返事を待つ。


「え?! あれ?! 嘘、もうそんな時間?!」


内部からドタバタと賑やかな音がする。


やがて開かれたドアの向こうには、うん。まさに『今まで散らかってたけど、ブルドーザー方式で隅っこに押し寄せてきました』感が惜しげもなく漏れ出した、片付けと呼ぶには雑すぎる光景だった。


そしてドアを開けた少女がにっこりと微笑む。


「ようこそ! 君が『特殊生活環境課』の新任さんだね! 私はアン! 名字はぁ……うん、君と結婚すれば君の名字になれるね!」


「お疲れ様でした。辞表は後日、改めて提出させていただきます」


「って、ぅぉおおおいっ?! 待って待って待って?! ファーストコンタクトでサヨウナラは寂しいじゃないかー!」


「私は特にそのように感じませんが」


「イ・ケ・ズゥ~♡ こーんな密室で美少女のおねーさんと2人っきりなんだよぉ? ほらぁ、イケない妄想とか膨らんだりしてなぁい?」


 ……うん、君が何者かはもう、どうでもいいや。今すぐ戻って前の上司に懇々と文句を垂れてやる。


 さておき、とりあえず何かしら反論しないとどうやら俺は勝手に少女の脳内で色香に惑わされた中年扱いにされてしまう、それはまずい。


「……失礼。ここは特殊生活環境課の事務室で合っているだろうか? 君、ここの責任者を呼んできてくれないか?」


「あら? えーっと……。うん、多分、私! ここの責任者! はい、これ社員証」


 いつの間にか制服の上着を脱ぎ、シャツの第二ボタンまで外しそうになってる少女は、ついでとばかりに胸元の社員証を見せてくる。

 ……低い身長に見合わぬ立派なたわわをお持ちのようで、遠心力で横揺れするのを利用してネームプレートをこちらに向けるという器用な芸を披露しながら。

 そこに書かれていたのは、


『新都区役所 特殊生活環境課 課長 アン』


 正直、見なかったことにして帰りたい。いや、今ならむしろ下着が見えそうになる姿をしていることを言い訳に、目を逸らしていたとして誤魔化せないだろうか。


 いや、薄々は察していたんだ。これは新設された課への栄転などではなく、むしろ人柱、生贄、実験台、その様な類の物であることは。


 前の上司は二言目には「大体でいいよ」が口癖のような男だった。公務員が使う言葉であろうか。


 いや、よしんば使うにしても、公務で使うべきではないだろう、ましてや市民課である。俺が相談側だとしたら、こんなこと言う担当者にはブチ切れる自信がある。


「……」


「あら、どうしたの? んーと、流麗(ながれ)くん? さっきまで辞表がどうとか言っていたのに、急にお口が貝になっちゃってぇ? まさか、本当にイケない妄想が膨らんじゃった?♡」


「 いえ、ただ――この部署に来た理由を、今、改めて思い知らされただけです。 上司に逆らうのは、不本意ですが公務員の倫理に反します。 後日、提出しようとした辞表は撤回させていただきます。 その代わり、最低限の業務は遂行しますので、その指示を」


「……ふふ。流麗君は、本当に面白いわね。 私、あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ。では――」


 言いながら背を向けていそいそと(勝手に)乱れた制服を正すと(加えて言うが本人がノリノリで脱ぎかけていただけだ)、振り向いた彼女の表情はまるで別人だった。


 その整った唇から紡ぎ出された言葉は。


「それでは、流麗澄夢(ながれすすむ)一般事務補佐。まずは着席。本日の相談者は一組。担当は私、アンが務めさせていただきます。貴方には研修も兼ねて、補佐としてついて貰う事になります。どうぞよろしくお願い致しますわ。よろしくて?」


 小首を傾げつつ花開くような笑みで告げるその姿は、まるで舞台役者の様に計算された動きとも見紛う、締まりと茶目っ気が融合した、高度な物だった。

アン: 「さ、次回予告ぅ!」

澄夢:「みんな! 次回はね、 流麗おにいさんが大活躍だよ! エルフ症候群のおねえさんたちと一緒に、 おにいさんが楽しく! 明るく! 問題解決のお歌を歌っちゃうぞ☆  次回! 第二話『みんなで歌おう、正しい寿命のお歌!』 にご期待ください!」

アン: 「ちょっ、流麗君?! 何そのテンション?! 私の方がヒロインなのよ?!」

澄夢: 「アン課長、貴女もどうですか? あのお二人の異常な美しさの悩みも、きっと歌で解決できますよ!」

アン: 「はぁ!? 誰が異常よ! あなたたち人間と違って、見た目が整ってるだけで別に病気じゃな…… あ、ごめんなさい、みんな! 今のは聞かなかったことにしてね! 次回、本当に相談者のお姉さんが出てくるよ!」

澄夢:「それじゃ、またねー!」

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