文化祭の出し物を転生屋にしたらトラック役の僕だけ取り残された
この作品は「なろうラジオ大賞5」参加作品である1000文字以下の超短編小説です。
僕らのクラスの出し物は転生屋。
まず、教室に入ってきたお客様を僕がトラックで轢くのだ。
もちろん本物ではない。ダンボールの底を抜いて中に入り、電車ごっこ〜、なんてやったことはないだろうか。
ダンボールをトラックの形にしただけで、あれと同じようなものである。
僕はダンボール製の愛車を身に纏い、お客様に優しくぶつかる。それから女神役のクラスメイトが剣や盾を渡し、お客様は異世界転生した勇者になりきって、異世界をイメージした教室内で一時の冒険を楽しんでいくのだ。
それだけの出し物の筈だった。
最初のお客様を轢いたとき、お客様は煙のように消えてしまった。
巻き起こるプチパニック。過呼吸を起こす僕。
何かの間違いであることを証明するため。また、僕を安心させるため。
もしかしたら、「本当に転生出来たらラッキー!」と思っていたりもしたかも知れない。
「俺を轢いてみろ!」
上気した顔でそう言うクラスメイトを、試しに二、三人轢いてみた。
全員煙のように消えてしまった。
彼らがどこに行ったのか分からない。異世界へ行ったのか、それともただ死んだのか。
とにかくこれ以上轢いてはいけない。そう方針が固まり始めた頃、教室の真ん中に魔法陣が出現した。
溢れ出す光。突如召喚された手紙。明らかに現代日本の物とは思えない羊皮紙製のそれは、消えたクラスメイトからの無事を知らせる手紙であった。
それだけならよかった。
『異世界、めっちゃ楽しい!』
そう書かれていたのがよくなかった。
抑圧された現代日本人の欲望を止められる者は、誰も居なかった。
そして、現在。僕の学校から人が消えた。全員もれなく異世界送りである。
うわあああああん!
あああああああん!
なんで皆僕を置いていくんだよ!
僕も連れて行ってよ!
ほら見てこれ。勇者の剣。頑張って作ったんだよ?
これもダンボール製だけどさ、ちゃんと剣に見えるように一生懸命作ったんだよ?
泣いてるよ? 勇者の剣。
僕が拗ねていると、再び出現する魔法陣。そこから現れる一枚の写真。
それは、異世界で集合したクラスメイト達の写真。サイン付き。
『異世界、サイコー!』
僕はもう、耐えられなかった。
愛車を教室の隅に置く。そして、僕は駆け出す。
ああ、体が軽い。今なら世界記録も狙えそうだ。
そうだ。僕の転生特典は俊足にしてもらおう。
そして、異世界で皆と――!
ぐしゃり。
僕の愛車は小気味良い音を立てて、僕の体に押し潰された。
うわあああああああああん!!
さみしい