第五十三話 居酒屋
田辺先生がパチンと指を鳴らし、教室から姿を消したその後、六真は先生を追おうとしたがもうどこにもいなかった。
「おう!?六真、いつの間にいたんだよ!」
「陣……あ、あぁごめん」
「忍者かよ」
そうか、陣は本当に視えていなかったのか。
「それで補習はどうなったんだ?」
「プリントを貰ったよ、帰ろ」
僕は田辺先生からもらったプリントを陣に見せる。
「ふぅ〜ん、そうか」
少しだけ陣は目を細めて怪しそうにしていたが鞄を持つ。
「じゃあ俺ん家にいこうぜ!」
「そのことなんだけどを……陣、やっぱりごめん」
僕はパンっと手を合わせて謝る。
色々と忙しく六真はゆっくりと落ち着きたかった。
それと1週間も家を空けていたから掃除とかアルバイトの予定を調整しなければならない。
「ほんっっとうにごめん!」
「おいおい、俺の親も心配してたんだぞ!」
「必ず予定を空けとくから……このとおり!」
「ハァ……分かった。でも今日ぐらいは奢らせろよ。たこ焼きでいいか?」
「うん、ありがとう」
そうして六真と陣は一緒に下校し、帰りにたこ焼きを頬張って帰った。
帰り道、僕はあることを思い出す。
陣のおじさんとおばさんに電話しとかないとなーー
六真が中学の時に両親を亡くした際に育ててくれた恩がある。
高校に行かず働いていくと決めたと伝えた時に陣の両親はこう言ってくれた。
『高校に関しては気にするな。六真くん、心配せず私たちに任せなさい』
そんな暖かい言葉だった気がする。
陣の家ではお世話になっていたがさすがに甘えられてはいられなかった。
六真の両親が遺してくれた貯蓄で家に住み、一人暮らしをすることにした。
一人暮らしをする時に最低限の日常生活を送れるように家事を仕込んでもらった。
『六真くん、やっぱり私たちのことは心配せずここにいていいのよ』
『自分で社会についての勉強もできるし、家事とかもできるようになったから大丈夫ですよ』
陣のお母さんは心配性らしく引き留めようとしていた。
まぁ色々あったけどなんとか生活は成り立っている。
そんな風に考えていたらもう家に着いていた。
ガチャーー
「ただいま……」
返事をするけど誰も声をかけてこない。
「分かってても言わないとだよねーー」
六真は靴を脱ぎ、上がっていく。
まずはキッチンと部屋を軽く掃除してそれと電話でアルバイト先に謝罪とかーー
制服を脱ぎ、ワイシャツの袖をまくってあれこれ考えながら作業する。
「ーーオ、イ」
「うん?なにか聞こえたような」
「オイ!六真、あの件を忘れてんじゃねぇぞ!!」
「うわ!?ラバキか……あの件」
サイタイスから今にも怒りが爆発しそうな声が発せられてビクッとする。
「オレが特訓やら土の巨人を倒すのに手伝ってやったろ!その礼をもらってねぇんだがなぁ〜」
「そうだったね、でもなぁ」
鬼って何が好みなんだろ?
絵本とか伝承だと酒や肉を好んでいるらしいが本当にあっているのか分からない。
ラバキに聞いてみよう。
「ラバキってお酒とか飲むの?」
「よくわかってんじゃねぇか!!」
僕が答えたのが正解だったらしくジュルリとヨダレを垂らすラバキ。
お酒かぁ〜う〜ん……
お酒を用意したいけど僕は未成年で買えないし、葉柄さんに頼もうかな。
「あの〜ラバキさん、お酒に関してはもうちょっと待って」
そう言うとギロリと酒好きの鬼に睨まれる。
「【今すぐ】だ。い・い・な」
「わかった……」
「よ〜し、そんじゃあの居酒屋にいくか」
鬼の頼みを聞くが六真は疑問に思う。
「い、居酒屋なんて行けないよ!ラバキは鬼なんだし、もし騒ぎになったら」
「あ〜だこ〜だ言ってねぇで早く行くぞ」
サイタイスから無理やりでてきたラバキは六真の首根っこを掴みズルズルと引きずる。
「ち、ちょっと待ってよ〜」
六真は呑兵衛の鬼に引っ張られながら家を出ていった。
「でっ……なんでここなの」
新潟では人の流行が盛んになっている第二の東京とも呼ばれている万米市にやってきた。
流行りの食事処や服、日用品そしてマニアな商品を扱う店もある有名な場所である。
「ここにオレたちしかいけねぇ所があんだ」
「へぇ〜……ん?"オレたち"しかってラバキ、それってもしかして」
ラバキに重要そうな事を聞こうとしたがズンズンと人混みの中を進んでいく。
「置いてくぞ〜六真〜」
「ま、待ってよ〜」
ラバキの背中を追って人混みの中をしばらく進んでく。人のざわめきが僕の耳に聞こえてくる。
様々な店が明かりをつけて客は楽しく喋り飲み食いをしている。
「ジュルーー早くあったまんねぇとな」
ヨダレを腕で拭い、さらに歩くスピードを速める。
「お、おいラバキ。いったいどこにいこうとってうわわ!」
六真はラバキに行き先を尋ねようとしたが酔っぱらいにぶつかりそうになって慌てて避ける。
進んで行く内にドンドン人通りが少なくなるとラバキは暗い路地裏に入っていく。
僕も着いていく。
一体どこに向かってるんだ?
路地裏に入ってまっすぐ進むと左に曲がってまた左に進む。右に行くと思えばまた戻る。
まるで迷路に入っているかのようだ。
「なぁラバキ、もしかして迷った?」
「黙ってついてこい」
「……」
そう言われて黙って歩く。
三十分ぐらい経ったと思う。目的地が分からないままラバキについていく。
「や〜っと着いたか、クックッ」
路地裏を出ると目の前にあるのはどこにでもある居酒屋だった。
「ここがそうなの?」
「早くうめぇ酒を呑まねぇとな」
ラバキは遠慮なく店の戸を開けて入ろうとする。
「ちょっと待っーー」
六真はラバキの腕を掴もうとしたが遅かった。
店には人間しかいない。もし鬼が来たと騒ぎになるはずだ。
終わったーー
「いらっしゃい。あら、ラバキちゃんじゃない」
「よぉ〜女将、妁灯酒を百本急ぎで頼むぜ」
「はぁ〜い、ラバキちゃんのお隣にいるのはお連れさんかしら?」
「ど、ドウモ」
このお店の主人だろう、その人は女性で大人の魅力を醸し出し、薄ピンクの唇に惹きつけられ、瞳は全ての男の心を乱す。
その人に見つめられると心臓が高く鳴り続ける。
「フフッ……可愛い坊や、緊張しちゃって」
「あっ」
唇をスルスルとなぞるように指を触れ、主人はその触れた指を口紅みたく優しく塗っていく。
そして包み込むように塗っていくと舌ですくい舐め取る。
その所作を視た男は心を奪われていくだろう。僕は一瞬のうちに惹かれてしまう。
「女将、サキュバスの色気が漏れてんぞ」
「ごめんなさい……貴方のお連れさん、純粋な瞳をしていて美味しそうだったから♡」
「あ、あ〜」
六真の頭の中では眼の前にいる【エモノを襲え】という欲を刺激されてしまった。
「オイ、起きろ六真」
バチンーー
「いでっ!?あれ、僕は何を?」
ラバキの張り手を食らって目を覚ます。
フラフラと立ち上がると狭まっていた視野が戻ってくる。
するとこの光景を静かに見ていたのであろうお客さんが『ゲラゲラ』と笑いの渦が巻き起こる。
「おめぇらぁ〜またママの魅了にやられちまった野郎がいんぞぉ!!」
「ママの魅了にやられたヤツァ抗えねぇからな、ボウズ!恥ずかしくねぇぞ」
『ガッハッハ』とそれを観ていた客は酒のツマミにして会話を愉しむ。
僕は恥ずかしさで顔を真っ赤に茹で上がる。
そんな事をつゆ知らず、ラバキはさっさと出されたであろう酒を呑んでいた。
は、はずかしいーー帰りたいよぉぉ
「女将、コイツを雇ってみたらどうだ?役に立つだろ〜」
もう酔っぱらっているのかラバキは勝手な事を言う。
「ラバキ!?そんな勝手に」
「そうねぇ〜……誰かの手も借りたいぐらい忙しいしもし良かったら頼もうかしら」
「えっ!?」
「ねぇロクちゃん、お願いしてもーーイイ?」
手を握られた六真は弱々しくOKの返事をしてしまう。
「ありがとう、ロクちゃん♡」
臨時ではあるが六真は女主人が営む居酒屋を手伝うことになった。
どうも〜蒼井空です!
読者の皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
雪が溶けて暖かい日差しが射し込んできましたがまだまだ寒い日があるので体調には気をつけて下さいね(´・ω・`)
それと本作である"人魔転生ーー黙示録"がもう少しで【PV5000】に届きそうです^_^
これも読者の皆さまのお陰です、本当にありがとうございますm(_ _)m
これからもムリせずがんばっていくので応援してくれるとありがたいです。
それでは長々と書きましたがまたお逢いしましょ〜う(^O^)/




