第四十六話 悪霊
「グァァーーユルザナイ、ユルザナイ!イギデいるものがぁぁ!!」
「ガァァーーガッガガ」
「グゥゥアァァァァ」
そいつは影から現れていき、まるで命あるモノを憎んでいた。
眼を血走らせ、怨嗟の声を発する。
「う!?な、なんだこれ……体が冷たい……」
心臓がドクドクと激しく鳴りやまず、本能が『ここから逃げろ』と囁く。
それでも逃げることは出来ない。
ガチガチーーガチーーガチガチーー
上下の歯を震わせる。
「マズバァァオバエノガラダヲぉぉぉ寄越せぇぇ!」
口元から涎を垂れさせ、生者の肉体を欲するように飛び掛かる。
「く、くる!?」
その物体がこっちにめがけて飛んでいき、避けようとする。
すると、避けようとしてもまた執拗にこっちを噛みついてくる。
「クッ!しつこいぐらいに噛みつこうとする、なんだよコイツ!?」
サイタイスを開き、この悪魔の情報を検索する。
『【悪霊・オンレイキ】死んでしまった人間が邪気に染められ、人間を憎むようになってしまい悪霊となった。人間に取り憑き、自分がまた生者としてと切望する』
邪気に染められた霊……つまりはそれを取り除けば勝機がある!
でもそんな力を僕は持ってはいない。
そう六真には魔力を持たず、ましてはその対抗手段は最低でも物理によう攻撃だけだった。
こんな時に穂野江さんが居れば……と思うが今は哀奇との戦闘でこっちに手を回せない。
「どうすれば良いんだ!」
必死に頭をフル回転にして、この状況を突破する【鍵】を探す。
「六真様、私を呼び出して下さい」
ディスプレイから天ちゃんが表示される。
「天ちゃん、出来るかい!?」
「はい、この苦痛に塗れる人の子を救いたいのです」
召喚したいのは山々だが天ちゃんを守りきれる自信が無い。
オンレイキは三体いるがまだこの暗闇に潜んでいるかも知れない。
「大丈夫です。六真様ばかりに頼る訳にはいきません。私の力をーー」
そう瞳を閉じ、両手を握り優しく深く礼をする。
六真はしばらく考えるがそんな事をしている時間も無い。
「……分かった。天ちゃんお願いするよ」
「ありがとうございます。六真様」
そして天ちゃんを召喚しようとするがオンレイキはそんな暇を与えない。
「グァァ!!ゾノガラダヨゴゼェェェ!!」
オンレイキは六真の腕を噛み千切ろうとする。
「クッ!避けられるか!!」
サッと腕を引いたが、引っ掻き傷ができてしまった。
「な、くぅぅぅぅ」
負ったのは切り傷ぐらいなのに痛みが神経にヒリつくように走る。
「新鮮な血ぃぃ美味ジィィ」
ベロベロとだらしなく六真の血を一心不乱にしゃぶりついている。
「おれ、オレボ、ヨご、ヨゴゼェェェ!!」
「ギャァァァアァァ」
その二体は飛び散った血を嗅ぎつけ、舐め始める。
い、今のうちに召喚を!
手が少し震えるが天ちゃんを召喚システムを起動する。
『召喚システム起動ーー【天使・エンジェル】……召喚します』
金色の翼をはためかせ、瞳には全ての者に安寧させ優しく微笑みかけている。
「憐れにも邪に穢された魂に……我が主よーーこの子らに慈悲を与えたもうて」
「「「グゥゥアァァ!!!???」」」
主に願いを込めた聖なる天の遣いによる光により、オンレイキは照らされる。
まるで苦しんでいるかのような声だったが邪気の膜がチリチリと消えていっている。
「よし、この調子だったら」
そのまま浄化すると思っていた。
「ヤベロヤベロォォ!ゾのヒガリぃぃいい!!」
天ちゃんの光を本当に嫌がっているのか、後ろに下がっていく。
ほ、本当に大丈夫なのか!?
自分がやっている事が正しいのか疑問に思っている六真であるが天ちゃんは首を横に振る。
「六真様、そのお気持ちを抑えてください。あの方達を救えます。ですからーー」
自分の力を行使しているのに精一杯のはずなのに安心させるために僕の手に天ちゃんは添える。
「分かった……」
僕はオンレイキが浄化されるのを眺めていたがそんな簡単にいかなかった。
「グゥゥゴ、ゴのうっとおジイモノがァァ」
オンレイキの一体がその苦しみを解かれたいのか天ちゃんに向かってくる。
「ま、不味い!天ちゃんは僕に任せて集中を!!」
六真は天ちゃんの前に飛び出し、オンレイキに攻撃する。
「な、すり抜けたのか!?」
拳が空を切るように見えたがそれは違った。
「ヌゥゥゥ??ナンダ、ガラだへん」
殴られたオンレイキは体をあちこち見るが何ともない。
「ん?ちょっとだけどアイツの感触があったような気が……」
「六真様、あの者には私の力により体を実体化させております!何かもう一押しを」
つまり天使の光に照らされ、本来では邪気が障壁としての役割を担っていたが今は剥がされている。
「よし、このハンドガンの攻撃なら」
標的に狙いを定める。
「グガァァザゼナイ!!」
「ごめんなさいーー撃ちます」
邪気に染められてしまい悪霊となった者に魔弾を撃ち込む。
しかし六真の中にある良心がそれを遮る。
この人は哀奇にただ利用されてるだけのなんの無関係のない。
もしこれを撃ってしまえばあの人の魂はどうなるのだろう。
照準が微妙にズレてしまい、ただの威嚇射撃になってしまった。
「ズギアリィィィィ!!」
口をかっぴらき、僕の腕を噛もうとした瞬間。
「オイ!ボッとしてんじゃねぇ、殺されてぇのか!!」
僕はその声で我に返り、オンレイキの脳天であろ箇所に弾丸を撃ち込む。
「クギャァアァァァーー」
引きつらせた声を張り上げ、口から鼻がひん曲がる悪臭を吐きながら動かなくなった。
「ハァハァ」
息がーー肺に空気が伝わらない。
「ご、ごめん。ラバキ助かっ」
「気ぃ抜いてんじゃねぇ、謝るヒマがあんなら早くソイツらを倒せ!!」
「分かった」
そう言葉を発する六真ではあるが戦いにはまだ慣れていない。
むしろ命のやり取りをしする経験が少なすぎるのである。
人としての迷いか、戦いでの正しさかそれはまだ分からない。
それでもまずはこの状況を何とかして終わらせ、自分の成すべき事を真っ当しよう。
「六真様、ご無事でしたか!申し訳ありません」
「いや、大丈夫。それよりも後二体は?」
「はい、後少しでーー」
と天ちゃんが言おうとしたが。
「な、ナガマヤラレだ。オデラもナガマヨブぅぅ」
「な!?」
「そ、そんな」
浄化されている二体のオンレイキは仲間を呼び出すと言いだし、辺りを警戒する。
ゴボゴボとまた新たなオンレイキが現れる。
「まさか影からまた現れるなんて……」
「この数では私の光での浄化は難しいです……六真様……」
こちらに引き寄せられたのかドンドンと増えていっていく。
サイタイスによる計測によると十ーー百ーー千。
もはや目視では数え切れない程に増えていき、最終的には千三百体とサイタイスに表示される。
「こ、こんなにいるなんて……とても僕達じゃ対処できない」
まさに数の暴力とはこの事だろう。
こんな数をまともにやり合えば、自分達がやられてしまいかねない。
撤退も視野に入れるがそれは出来ない。
逃げ出してしまえば魔界の門が開かれ、人間の世界が悪魔に脅かされる。
そんな事はーー出来ない!!
僕は前に立ち、天ちゃんに指示をだす。
「天ちゃん、僕がオンレイキ達の相手をするからその間にーー」
「それはできませんーー私もご一緒します」
はぁ〜上手くカッコつけたかったのに。
天ちゃんに祭壇の破壊を命じようとしたが心を読まれているのかそれをさせてくれなかった。
「オイオイ、オレも忘れちゃ困るな」
「ラバキ……でもお前は」
ラバキはダイダラボッチとの戦闘で邪気を利用して自らの本能を無理に呼び起こしたその性で骨や皮膚にダメージが残っていた。
「なに、お前とオレでやりゃあ何とかなるだろ」
「そうは言っても……」
「だぁぁもうアレコレ考えるな、やるしかねぇんだろ主」
「わかったよ、本当にラバキは凄いや」
そうしてラバキを召喚し、千三百の悪霊と対峙する。
「よし、行くよ。二人とも!」
「オウ、いっちょ暴れてやろうじゃねぇかぁぁ!」
先陣を切り、悪霊の巣に飛び込むラバキ。
「私は御二方の手助けをします、ご武運を」
「頼む天ちゃん、ウォォォォ!!」
そうして悪霊との戦いが始まる。
バァンーーバァンバァン!!
「ウオラァ!ドラァァァァ!!」
激しい銃撃と怒号の飛び交い。
「ぐぅアァァ」
「ギィィャァァ」
悪霊の悲鳴が響き渡り、その飛び散った血が二人の人間と鬼に塗られていた。
「グゥぁぁ」
連戦に続く悪霊との戦いで六真はとうに疲弊を通り越していた。
「六真様、ウックゥゥ」
天ちゃんの回復による治療で何とか戦い続けられたがそれも長くは持たず、汗を垂れ流す。
「ハァハァ、まだ終わっちゃあいねぇぞぉぉ」
ラバキは威勢良く自身を鼓舞するが限界も近い、まだダイダラボッチによる力の回復が間に合っていない。
銃弾も後ーー十発……良く持った方だよな。
奏さんが言った通り渡された装備のハンドガンの状態は銃身が焼き尽くすほんのわずかだった。
これ以上の連射をすれば銃が駄目になってしまう。
まだサイタイスで確認すると四十九体しか減っていなかった。
「ここでは終わる訳にはーー」
「ウグゥゥてこ、テコズッダがツイにそのカラダァァヨゴゼェェェ!!」
「いかないんだよぉぉ!!」
六真は目の前に現れる敵を一体ずつ確実に葬っていく。
脳天をかち割り、噛み千切り、引き裂く。
たとえ自身の四肢が引き千切れようとも止まる事を知らない。
「ヴァァァァァァ!!」
「ま、マジぃなぁ……アイツ、ハイになってやがる……」
「うぅろ、六真さまぁぁ」
二人の目には六真は死を恐れぬ"獣"に視えただろう。
そのぐらいに彼の決意は堅く、強さでもある。
「後ーー何体だぁぁ」
「ギッギィィィィィ」
オンレイキは怯えていた。この人間にある自分らには無い執念の深く獲物を狩る眼を。
そうして悟る。これ以上すれば"死ぬ"と。
すでにこの人間に取り憑け無いと判断した安っぽく枯れたと思った脳が危険だとほのめかす。
「逃がすかーー」
「ダ、ダズげでーー」
そう命乞いをしたオンレイキの一体は踏み潰され、地面に淀んだ液体が流れる。
「ヒィ、ヒィアァァーーーー!!」
命乞いしたオンレイキを盾にして背中を見せて逃げようとするモノに六真は無慈悲に貫く。
「ぐ、グルナァァァバケモノォォ」
反撃してこようとするモノには手をもぎ取り、拳を顔面に何百とも打ち込む。
そうした時間を延々と冷酷にこなしていく。
「次はぁぁどいつだ」
そうして周りを見渡すともうオンレイキは全滅しており、その屍の上に立っていた。
「もう終わりだ、いい加減目ぇ覚ませ」
「あれ、もう、終わった」
「六真様!?すぐに治療を」
手を伸ばした天ちゃんの腕を取らずに六真は歩き出す。
「祭壇ーー壊さなきゃ、はやく、はやく」
目に焦点が合っていないまま魔界の門を開こうとする祭壇に向かって歩き出す。
早くーー破壊しなきゃ。あの人が引き受けている内に……アレ、あの人は??
戦っているはずなのに何も音が聞こえない。
そうして不意にあの人がどうなっているか見る。
「穂野江さん……?」
そう六真が哀奇と戦っている穂野江の方に向くと彼女はーー倒れていた。
どうも〜作者の蒼井空です!
読者の皆さま、大変投稿が遅くなってしまい本当に申し訳ないです……m(__)m
それでも興味を持って覗いてくれたり、まだかなと待ち続けてくれた読者の皆さまには感謝しかありません(T_T)
これからも頑張っていくので暖かく見守ってくれれば大変ありがたいです。
そして皆さま、後少しで今年が終わってしまいます。
来年はどんな事になるかは分かりませんが頑張っていきましょう!
それでは長くお書きしましたがまたお逢いしましょ〜う(^O^)/
良いお年を〜!




