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第四十三話 作戦ーー謝罪と恨み

 DDOが密かに作ったとされる事務所にたどり着き、時間は午前十二時十分。


 僕らは三高みたか市にある敵が拠点としている廃ビルから離れて数百kmある事務所で待機していた。


 事務所には、隊員と見られる人が二十名程おり、右往左往しながら情報のやり取りをしていた。


 「敵の戦力である悪魔の数は?」


 「今回のターゲットである人物、他に敵の人数をこっちにもーー」


 「この地域にいる一般人は既に避難もしくは閉鎖はしているか!」


 などの言葉が交差していき、的確に状況を整理していっていく。


 そこにまとめられたこの会話での内容が書かれた紙一つのホワイドボードにビッシリと貼られている。


 僕はチラッとその紙を見たが一つも言葉を落とさず、しっかりと書かれてあった。


 「す、凄い……」


 「これも私達の任務のうちよ」


 そうして呆けていると人と人の壁をスラスラと抜けてこっちに向かってきる人がいた。


 穂野江さんはその人に気づき、敬礼する。


 「情報収集・監視の任務ご苦労様です。奏隊長」


 「今回も協力を感謝する、穂野江隊員」


 二人はビシッとした完璧な敬礼をするが、六真は一瞬の事で遅れて敬礼する。


 「ご、ご苦労様です!」


 ぎこちない敬礼、声が裏返りをする僕である。


 恥ずかしい……と心の中で呟き、今にも顔が熱くなりそうだった。


 自身の情けなさを直し、真剣な気持ちに切り替わる。


 「ウム、君が六真正士君だったね。本来であれば一般市民である君を巻き込んでしまい申し訳ない」


 深々と頭を下げられ、僕はアワアワと対応に困ってしまう。


 さっき穂野江さんが言っていた奏さんはDDOの隊長である。


 そんな人が僕にここで隊員がいるのに頭を下げれば、隊長としての威厳も関わるだろう。


 「あ、頭を上げて下さい!?僕は気にしてませんし、本来だったら貴方達に助けて貰えなかったと考えれば……」


 「それでもだ、君には学生として平穏な日常を過ごすはずがこちらの都合に巻き込み、本当に申し訳ない」


 奏は誠心誠意のある謝罪をし、自らの失態に悔いるがそれでも時は既に遅し。


 一人の人間の人生を狂わせてしまったのだ。


 罵倒、涙、怒りーーその全てを受けいれようと彼はここに立っている。


 だが六真はそんなことは気にしていなかった。


 なぜなら穂野江さんが事前に政府に保護を受けるよう勧めたが僕はそれを断った。


 自分の意志でここにいるからだ。


 「僕の我が儘でここに居るんですから……気にしないで下さい、奏さん」


 『そうか……感謝する』と口にするがそれは自分の不甲斐なさを悔やむ声をしていた。


 奏さんはキリッと目元を上げ、部下にアイコンタクトを送る。


 すると今まで任務の準備をしていた隊員が手を止め、各々の持ち場についていく。


 「これより任務の内容を伝える。時間が限られているので心して聞くよう」


 ゴクッと固唾を飲み込み、静かに作戦を聞く。


 「今回は敵組織【アンジカトス】の幹部である志麻妥哀奇の捕縛、魔界の門を閉じることだ」


 「"アンジカトス"……?」


 「アンジカトスーー奴らは強き者が自由を得り、悪魔と共に力による支配で世界を変えようとする組織よ」


 人間が悪魔と協力して世界を変えるだって!?そんな事ができるはずがーー


 「人間と悪魔が協力して世界を変えるなんて、悪魔の力を使ってまでするなんてそんなのただの"理不尽な暴力"ですよっっ」


 思わず声を荒げそうになるがグッと喉に堪える。


 「悪魔がそんな簡単に人間に普通協力しますか?」


 そう悪魔は人間の欲を糧にするが時として、血肉を求め、喰らうか魂をグラスに回し、飲み干す。


 己の愉悦の為に娯楽として飼い殺し、飽き捨て、本能のまま従う。


 そんな得体のしれない怪物がわざわざ人間の手を借りてまで世界を手にしようとするのか不思議だ。


 様々な疑問が頭に浮かんでくるが答えなどは誰も知らない。


 「言いたい事もあるけど聞いて、六真君」


 穂野江はアンジカトスに属していた人についてかい摘んで伝える。


 「その人達は秀でた能力を持ち、人としてずば抜けていたのよ。けどーー」


 穂野江さんが言うには、圧倒的権力者にその能力を妬ましく思った者に標的にされたのだ。


 自分が搾取され、自身は奴隷のように働かさせられた。


 どうすれば良かったのか分からなかったのもいれば助けを求めたが救われなかった。


 自分が壊れるまで、使い物になくなるまで、肉体と精神が崩壊するまでーー。


 自身が完全に無くなった時、気づいたのだ、弱者こそが"悪"であり、他者に頼らず、【個】として力を磨いた。


 個として力を求めた彼らを目につけたのが悪魔であり、その力の一端を貸し与えた。


 その代償は悪魔に要求するのに比例する。簡単にいえば寿命を捧げるなどして一種の超人になれるなど。


 倫理を外れ、狂った感覚を持ってしまった人間が強者が自由を創り、集ったのがアンジカトス。


 「そんな世界間違っていますよ!だって話し合ったり、抗議とかしたりとか……方法があるじゃないですか!!」


 「でもね六真君、彼らは[言葉]で解決する道より[力]による支配を望んだのよ」


 「それでもーー!」


 「現に自分達を搾取した者を殺害した事件も合ったのよ。こちら側で揉み消している」


 「……」


 これ以上何も言えなかった。自分が思っている程に闇が深い事に。


 「力で変えようとする相手にどうやって……」


 こっちと同じで悪魔を使役している、最悪は人間同士で殺し合いをしなければならない。


 「だからこそ私達、DDOがそういった脅威に対抗し、何の罪もない人を護る為に創設された組織なのよ」


 穂野江は真っ直ぐか眼を向け、自身の信念を貫こうとしている。


 僕はそこに彼ら、DDOの正義が見えた気がした。


 「ンンッそこの二人、私語は慎むように」


 六真らの会話が大きく聞こえてしまい、奏は咳払いをする。


 「すみません!」


 「申し訳ないありません」


 「話しを戻すがこの任務では魔界の門を閉じるのが第一ではあるが、志麻妥を捕らえなければならない」


 一人一人の目を合わせ、隊員達の覚悟があるかを確認している奏さん。


 「我々、隠密部隊は敵が逃走、門が強制に開かれた場合に備え見張る」


 僕は、手汗をかきながら一言一句、聞き逃しが無いように頭に叩き込む。


 「例外ではあるがDDOの正式な試験を受けていたが、緊急のため、六真正士氏に協力して貰った」


 急に自分の名前を呼ばれた六真は心臓が跳ね上がった。


 奏さんは『前に来い』と眼で伝えてるのが分かる。


 穂野江さんは『早く行きなさい』と背中を押す。


 六真はぎこちない足取りで奏が立っているホワイドボードの前の隣に立つ。


 「ろ、六真正士です、よろしくお願いします」


 拍手はなく、奇異的に視ている者やボソボソと隊員同士で話している。


 「へぇ〜彼があの……」


 「上層部は何を考えてるんだ?こんな悪魔に対して理解していない少年に」


 「関係無い人間を何故任務に参加させる?」


 好奇心、疑問、反対な者の声、視線が自分に向けられ僕はそれに耐えられなかった。


 「オイ!お前!!」


 そう言う声のざわめきから一人の隊員の男が怒気を孕んでいた。


 ズンズンと六真に近づく男は、見た目は三十代ぐらいであり、隊員として中堅のような雰囲気があった。


 その人は、目を血走らせ、すぐにでも胸ぐらを掴み、殴りかかりそうな勢いだった。


 「お前があの暴鬼を仲間にしたのか、アァ!!」


 「そ、そうですけどあなたは一体……」


 「アイツの性でオレの仲間はまだ意識を失っている、あの鬼をなぜ殺さなかったぁぁ!!」


 薄々は分かっていた。ラバキは僕と出会う前は色々な人達に迷惑をかけ、人間を殺めかけたことを。


 穂野江さんもあの時、ラバキの首を掻っ切ろうとしたがそれを止めたのは僕だ。


 だからその重みを背負うとしたのだ。


 「その件については、謝っても謝りきれません……だけど僕がしっかりと【責任】を取ります」


 その言葉が癇に障ったのか男は胸ぐらを掴み、拳を振り上げる。


 「この、ガキィィ"責任"を取るだぁ!簡単に言うんじゃねぇ!!」


 六真は目を閉じ、殴られる痛みを我慢した。


 「やめなさい。あれはもう片がついているはずよ、それに貴方の仲間だって覚悟はしていたでしょう」


 恐る恐る目を開けるといつの間にか穂野江さんは男の首筋にレイピアを突き立てていた。


 「……チッ」


 六真の胸ぐらを乱暴に離し、男は持ち場に戻る。


 そして穂野江はレイピアを鞘に収める。


 「各々言いたい事があるがここは任務に集中しろ、良いな」


 奏は隊員がこれ以上何もしてこないよう牽制をかける。


 僕は尻もちをつき、膝に力が入らなかった。


 「大丈夫かい、六真」


 「はい……」


 僕は元気のない返事をする。ーー言われる事は分かっていたはずなのに。


 「よし、それでは隠密部隊は敵の拠点を監視、六真、穂野江の二人は拠点に侵入してくれ」


 僕は耳を疑った、二人だけで敵の懐に侵入するだって!?


 「ま、待って下さい!?僕はまだDDO隊員の皆さんとは違って戦闘経験が少ないんですよ!」


 そうだ。穂野江さんはともかく僕はまだ実践を経験しているが他に比べて少ない。


 むしろ足を引っ張って任務が失敗に終わればーーとマイナス思考に走る。


 「哀奇は諸君を甘く見ている。だが自信がなければーー」


 『降りてもらう』と言われようとしたが穂野江が遮る。


 「大丈夫です。私達が引き受けます」


 迷いない言葉はまるで六真を信じている声、そして微笑みが心を安心させる。


 六真はその信じる声・笑顔に勇気を貰い、腹をくくる。


 僕は彼女の手を取り、首を振る。


 「ーー分かりました、やってみます」


 「よし、それではこれより任務を開始する!各自、気を抜くなよ!!」


 こうして作戦が始まっていった。


 敵拠点に侵入する前、奏は穂野江が秘匿された報告データを読んでいた。


 「彼が例の魔の力を持ち、死から生還。そして魔王と神の同等の力を保持している……か」


 ふむ……にわかには信じられないが彼女が嘘を言う訳がない。


 備考の欄には『彼の力はまるで、魔人の力に酷似、人格が変わる』と書かれていた。


 魔人……か、あの事件で処分されたのは聞いている。だがそんな力を彼はどこで手に入れた。


 しかも人格が変わる、それは彼自身が変容するのか暴走した時に出るものなのか?


 う〜む、実際に視ていないが油断はしない。


 魔人の力はまだ未知数ではあるが事件では半魔人化されたのは尋常ではなかったらしい。


 奏はサイタイスを起動し、穂野江に個人機密メールを送る。


 『彼から決して目を離さないように、もし害があれば処分せよ』


 『了解』


 そうして二人の短いやり取りは終わり、任務に戻っていった。

どうも〜作者の蒼井空です!

読者の皆さま、お久しぶりでございます。

いや〜大変遅くなってしまい申し訳ないですm(__)m

もう気がつけば夏になってお盆となってしまいました…トキガタツノハヤイナァ~

そんなんですが御心の広い読者の皆さまがそれでも待ってくださり本当にありがとうございます。

不定期ですがこれからも頑張りますのでよろしくお願いします!

長々と書きましたがまたお逢いしましょ〜う(^O^)/

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