第四十二話 疑い
「ゥ……ウゥ……」
僕は目を覚ますとそこは、薄暗い部屋の中であった。
窓にはところどころに切れているカーテンがかかっていたが街の光がチラチラと差し込んでいた。
目が暗闇から徐々に慣れていき、上半身を起こして周囲を見渡す。
ここはどこなんだ?
壁も天井もボロボロだし、廃墟みたいだ。
注意深く観察をしていくが何か重大な事を忘れている気がする。
「ん?そういえば何か、忘れてるような気がする」
その原因を思い出そうとすると自分は確かーー
「ダイダラボッチっていう巨人と戦って、洗脳を解呪する札を貼ったら背後から刺し殺されていたはずだよな」
そこまでは覚えているがその後の記憶がない。
思い出そうとしても頭に霧がかかっていてハッキリとしない。
それよりも自分が生きている事に驚きを隠せない。
病衣を脱ぎ、六真は無数に刺された体を触ったがどこもその跡は無くなっていた。
本来なら致命傷であるのがすっかりなくなっている。
もしかして穂野江さんと天ちゃんが全力で治してくれたのかな。
二人に感謝を伝えたいがどこにもいない。それよりここがどこかも分からない。
「オ〜イ、穂野江さ〜ん?どこにーー」
ベットから立ち上がり、探そうとしたら、カツンーーカツンーーとヒールが床を鳴らす音が近くから聞こえる。
「六真君、目を覚ましたのね。良かったわ」
「良かったぁ〜穂野江さんと天ちゃんの治療魔法のお陰で治してくれたんですよね!ありがとうございます」
「そう……ね」
穂野江さんの目を見てお礼の言葉をかけたが浮かない顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「…………ごめんなさい」
悲しそうな瞳で彼女は懐から拳銃を取り出した。
「な、なにを!?」
六真はすぐさま銃を彼女の手から叩き落とそうとしたが。
う、動かない!!
手首と足首がまるで縛りつけられ、身動きを封じられていた。
「これって魔法で創り出した鎖なのか!?魔目には反応していなかった!」
「そうね、確かに君の魔力を感知する眼の精度は上がっていても視えなかったでしょう」
そんなーーだったら。
『スゥ~』と余計な力を抜き、酸素を全身に巡らせ筋力を増大させる。
「これでぇどうだぁぁ!!」
視えない鎖を強引に引き千切ろうと試みるが力を入れればいれる程、ギリギリと血管を締めてくる。
「無駄よ。強引に千切ろうとすれば、それに反発して、自分の首を締めるわ」
ならばとサイタイスでラバキを召喚しようとする。
「君のサイタイスはこちらで回収してる」
やっぱりこっちの考えも読んでいたのか。
「ぐぅぅ……」
僕はうなだれるように力を抜くと四肢が赤く腫れ、へこんでいた。
「それで良いの。君はーー」
ガチャーー
冷たい銃口が六真の胸の心臓に当たり、いつでも撃ち殺せる距離だ。
「君は本当に【人間】なの」
ドクンーード、クンーー
心臓が不規則に鳴り出し、汗がブワァッと吹き出していく。
恐る恐る穂野江さんの顔を見ると、冷酷な眼で僕を見おろす。
「良いから正直に答えなさい。君は【人間】なの」
グッと銃を突きつけ、『早く答えろ』と急かしてくる。
僕が《人間》じゃない?違う……僕は人間だ!六真正士なんだ!!
それ以下でもそれ以上でもない。
「僕はハァ、ハァ、人間です!」
六真は震え上がる声を出しながら、張り裂ける思いで言葉を絞りだす。
「そう、ならこうするしかないのね」
「ッ……」
六真の胸から銃を離し、額に銃口を向ける。
「クッ、そんな……穂野江さん!!」
必死に訴えかけても彼女はゆっくりと、トリガーに指をかけていく。
これが彼女のだした答えなんだーー
僕はここで死ぬのか。
夢でみたあの感触が浮かび上がる。
抵抗する気力も無くなり、瞳を深く閉じる。
僕は罪悪感を穂野江さんに植え付けないように頬の肉を噛み、堪える。血が流れ出ようともーー
「さようなら……六真正士……」
でも何故だろう。彼女に殺されるのは決して不安はなかった。
バァァーーン!!
辺りには銃による重轟の発泡音が耳に響いていく。
……。
「……あれ、死んでない、僕は生きているのか?」
僕は瞳を開くと弾丸は命中せず、後ろを振り向くと壁に小さな穴が空き、パラパラと粉塵が出ていた。
「ごめんなさい。また君を試すような真似をしちゃって」
「ーーはぁぁぁぁ」
僕の中にあった緊張感が口から漏れ出していく。それと同時に視えない鎖から開放される。
「どうしてこんな事を?」
「組織の命令でね。貴方が本当に"味方"なのかをね」
「僕は味方ですよ!でも『人間なのか』っていうのはどういう意味なんですか」
「それはまぁ、脅しみたいなものよ。人の道を外してないのかのね」
サイタイスによる彼の心臓のブレもなかった。私からも嘘を言っても風には視えない。
ひとまずは奴じゃないと信じられる。
「そ、そうですか」
彼女の声からは『それ以上は聞かないで』というような物を感じ、とても聞き出せなかった。
「それとこれを返すわね」
穂野江さんから手渡されたのは僕のサイタイスとDDO隊員のスーツだった。しかも新品のようになっていた。
「ありがとうございます、穂野江さん」
「私にお礼を言わなくても良いわよ。それよりも早くスーツに着替えなさい。後ろを向いてるから」
僕は急いで病衣を脱ぎ捨て、スーツに体を通していく。
スーツに着替えていながら六真はある事を聞く。
「そういえば僕が寝ている間、何日経ったんですか?」
「そうね、あれから二日が経っているわ。タイムリミットは後三時間しかないわね」
そ、そんなに眠っていたのか僕は……ん?後三時間しかないだって!?
サイタイスで時間を確認すると午前十二時を指していた。
「じゃあ今すぐ向かわないと!あっでも敵の場所が分からないんじゃ」
「大丈夫よ。ここは敵の拠点からさほど遠くないから」
「い、いつの間に……というか敵の名前と目的は何なんですか」
「敵対組織の一人。名前は志麻妥哀奇、目的は魔界の門を開くことよ」
スーツに着替え終え、サイタイスを起動し、魔界について調べようとディスプレイに映し出し、見やすくする。
『魔界ーー別名・悪魔の世界。
邪気に満ち溢れ、悪行を重ねた人間が堕ちていく場所である。その中では邪なる心を糧とする邪悪な悪魔が跋扈しているため生者は決して、安易に、踏み込んではならない。
もし踏み入れてしまえば命は助からないーー』
う……文章を読んでいく内に魔界とは人が想像する地獄とはかけ離れた場所であり、恐怖心が掻き立てられる。
だが魔界の門を開くのは決して簡単なことではないだろうに哀奇という人はそれを可能にし、開こうとしている。
「魔界の門ってそんな簡単に開けられる代物なんですか」
「いいえ、何百万の魔に長けている呪師が何千年もかけてやっと具現化できるぐらいよ」
それは途方もない時間をかけねば成功しないことが判ったがそれでもなぜこんなに早められたのか疑問が浮かぶ。
聞きたくはないが一応聞いてみる。
「どうやってそんな短期間で門を顕現させられるようにしたんです」
「それはね、供物を捧げたのよ。情報によると赤子の純粋な死体、悪に染められた心を持つ人間の魂を宿した血による儀式を行ったとね」
「……」
「悪魔と同じでそれに見合う条件なら門の一部を顕現させ開き、強大な悪魔を呼び出そうとするのが私の考えね」
こんな所でそんな悪魔を顕現したら、間違いなく人間は根絶やしにされ食い潰すだろう。
僕は逃げ出したい気持ちで溢れ、込み上げるが必死に抑え込む。
穂野江さんは僕の気持ちを察したのか手を握る。
「六真君、今からでも遅くはないわ。この事を全て忘れて政府による保護を受けなさい。そうすれば安心して暮らせるわ」
穂野江は優しく六真にとって最善である"逃げ道"を用意している。
もしここで逃げてしまえば僕は多分、一生後悔するだろう。
穂野江さんの提案を僕は首を横に振った。
「分かったわ……もう何も言わないわ。それじゃあ、ある場所に向かうわ」
「はい、穂野江さん」
こうして六真は穂野江についていき、目的地に向かった。
敵拠点にむかう数分前、僕は二人の仲魔を召喚する。
「六真様、良かった……本当に良かったです……」
天ちゃんは僕をギュッと抱きしめ、ポロポロと涙を流す。
「心配かけてごめんね、天ちゃん。それにラバキも……」
「たくっお前が死んだらあの世で文句を言いに行こうとしたぜ。それと油断してんじゃねぇよ!」
ポカッと頭を殴られたが手加減してくれたのかそへほど痛くはなかった。
「やっぱり手厳しいなぁ〜」
それもそうだ。あの時、ダイダラボッチの攻撃を避けてから札を貼れば良かったのに僕は慢心して命をないがしろにしたのだ。
僕は二度と同じ轍を踏まないように決意したのだ。
どうも〜作者の蒼井空です!
いよいよ夏も近づき、蒸し暑い日々が続きます。読者の皆さんは熱中症に気をつけて、こまめに水分補給をして下さいね。
不定期とはなりますが首を長くしてお待ち頂けたら幸いです。
そして読者の皆様が読んで下さり誠にありがとうございますm(_ _)m
これからも程々に頑張りますので応援よろしくお願いします!
それではまたお逢いしましょ〜う(^O^)/




