第三十六話 襲来する大地の化身・ダイダラボッチ
「な、なんだあれ……」
ドスンーードスンーーと足を踏み鳴らし、地面が揺れ動き、ソイツは現れた。
目の前から数m先に現れた巨人は森を荒らし、そこに生きている動物は逃げ出し、怯える声が聞こえる。
「穂野江さん!?あ、アイツはなんなんですか……!」
『【大地の化身・ダイダラボッチ】、本来は自然の摂理を護る存在であり、現世に表立って顕現はしない。自然を大切にしない、荒らす者には罰を与えるーー』
サイタイスからの説明が続いているがそれでも現状に混乱し、耳に入らない。
「まさか……敵があの御方を支配したというの?人の手では操れるはずないのに」
穂野江さんは面を食らったかのように少し狼狽えていたがすぐに冷静さを取り戻す。
「六真、逃げなさい。アレは貴方では対処は不可能よ。急いで山を降りなさい」
彼女は腰に携えたレイピアを引き抜き、目の前の巨人を見据える。
ま、まさか一人で戦うつもりなのか!?あんな自分よりも数万倍もある巨人に。
「駄目ですよ!僕も戦います!!」
そうだ、この三日間と神様からの修行で多少なりとも戦う力を手に入れたんだ。足手まといにはならないはず。
僕は穂野江さんを一人だけここに残す訳にはいかず、構えを取るが。
そうね……貴方(六真君)は優しいね。でもごめんね……。
穂野江は彼に逃げるよう指示を出したがそれを聞かないため、強硬手段を取る。
「君をここで死なす訳にはいかないの……だからごめんなさい……」
ヒゥゥンと僕の足元から魔法陣が刻まれていく。
これってまさか転送魔法ワープリスか……本当に一人で戦う気なのかよ!
「ダメだよ、穂野江さん!まさかとは思うけど……あの時の事を責任に感じてるのかよ!!」
悪魔から僕を守りきれていなかった事をまだ引きずっているのだろう。そんなの今は気にしてない。
「言ったでしょ。私が貴方を"護る"って」
その顔はまるでここで死んでも良いと受け入れている。そんな顔だった。
「ッ……穂野江さん!!」
六真はワープリスから離れようと彼女の所に駆け寄ろうとしたがガンッと視えない壁に阻まれ出られくなっていた。
「クソっこの……破れろよォォ!!」
僕は視えない壁を乱暴に殴り続ける。
何度もーー何度もーー手の甲が血で真っ赤に染まり、流れるくらいに。
「こうなったら!スゥハァーー」
息を吸い込み、左・右足を弧を描くように開き、膝を曲げ、全集中力を左腕に注ぎ、脇腹まで引く。
「一点鐘!!」
地面を蹴り上げ、視えない壁に渾身の一点鐘を繰り出したが弾き返された。
「ぐっな、なんて硬さだよ……」
六真が鍛え上げた一点鐘では打ち破れない程の強靭な硬さである。
そうして僕はガクッと膝を崩し、頬に涙が溢れて、こぼれ落ちる。
自分では無理だと確信していた。魔目で……視認しているから。それでも彼女の力になりたかった。
悔しい、自分が不甲斐ないばかりに僕は心の中にそんな無念が残る。
チクショウ、また彼女に護られるのかよ。僕は強くなったんじゃないのかよ……クソォォォォ!!!!
ワープリスが起動し、僕の身体を包み込み安全な場所に飛ばすはずだったが。
パリンッとガラスが割れる音が耳に響く。
「クク……そう簡単に逃がしませんよ」
彼らの前に現れたのは西洋風のフードを被り、顔を隠した男だった。
「どうも初めまして。私の名は志麻妥と申します。と言っても君たちはここで死にますがね」
うやうやしくお辞儀をしたがイヤらしい笑みを浮かべていた。
まるでこっちの命をすぐに刈り取れるような視線に僕は背筋が凍える。
「まさか貴方がダイダラボッチ様を操ったというの!?なんてことを……」
グッとレイピアの柄を握り締め、有無を言わせず志麻妥の首を貫き跳ね飛ばそうとする。
「これで終わりよ……」
冷酷にレイピアを突き出し、首を掻っ切ったーーはずだった。
「おぉDDOとはなんと恐ろしい組織なんでしょう」
なんと志麻妥は生きていたのだ。確実に貫かれたはず。
「おやおや、おっかないですね。何もそう焦らなくても良いものを」
互いに視線が合い、一歩も譲らせない剣幕を感じさせる。
「私が手を下さなくとも、あの木偶の坊が処理してくれますよ。全く……コイツを洗脳するのに部下を多くも失いましたが利用価値はありましたよ」
僕は絶句していた。この男が従えていた部下を、人の命を軽々しく道具のように扱った事に……。
「貴方、人の命を何だと……」
彼女の目つきがドンドン鋭くなり、殺気が漏れ出ている。
「それとこれは魔法で創り出したホログラムですから、私に攻撃しても無駄ですよ。後はここに結界を貼りましたからここからは逃げられませんよ」
そう言う志麻妥はどこか優越感に浸り、勝ちを確信していた。
自分達の計画に邪魔なネズミが消えるのだとそう喜ぶ言葉が孕んでいた。
「それではさようなら。生き残ればまた会えるでしょう」
『ハッハッ……』と高笑いをして、ホログラムは役目を終えて消えていった。
「やるわよ、六真。あの御方を鎮めましょう」
いつもの優しい穂野江さんから打って変わり、厳しい【命令】に似た言葉を下す。
「ハ、ハイ!」
僕は覚悟を決めるーー自分よりも強大な力を持つ巨人。
「ウォォガァァァァ!!」
敵の罠に嵌められ、鉄の檻に閉じ込められた二人は【大地の化身・ダイダラボッチ】に挑むのであった。
どうも〜作者の蒼井空です!
読者の皆様、大変長らくお待たせして申し訳ないです…
(T_T)
言い訳にもなりませんがイメージはあるのにそれを書く意欲が全然沸かなくてこんなにも遅くなってしまいました…(;´д`)トホホ…それでも程々に頑張りますので応援よろしくです。
毎度ながら読者の皆様が私の小説を読んで下さり本当にありがとうございます。
長らく書きましたがそれではまたお逢いしましょ〜う
(^O^)/




