第三十話 鬼畜なる教官
「六真君、この三日間で、君には魔力を強く感じてもらうわ」
「えっ……」
それは朝の自主訓練が終わった朝に突然、宣告をされたのである。
「でも……魔力については、あの修行でわかったんじゃ?」
「それはほんの少ししか貴方は理解出来ていると思うけど"深く"は知らないでしょ」
確かに……あの時は穂野江さんから手で魔力の存在を認識できたけど視認するにはまだボンヤリと視えるぐらいだ。
でも……どうしてこんな事を言ったのか。僕は理由を聞いてみる。
「その〜理由はなんですか?」
まぁ多分、見当はついている。
「最後の依頼が厄介なのよ……それもターゲットは魔道士。君には魔力が無い代わりに深く感じ取れるようにするわ」
う、やっぱり僕には魔法を認識できるけど使える事ができない……。
そうズバリとストレートに言われてガックリする。
だけど魔力を感じ取れなきゃ、今回の依頼を達成するのは相当難しいんだろう。
「分かりました。場所はあの神社。陀羅神社ですか?」
「いいえ違うわ……今から移動するよ」
パチンーーと指を鳴らすとそれに呼応したのか床が眩い光を放つ。
「う、うわぁぁ!!」
魔法陣が対象の二人を包み込み、体の感覚が消えていく。
もしかして敵か!と警戒するが。
「安心して。これは転送魔法"ワープリス"、誰にも迷惑がかからない場所に行くわよ」
ニッコリと微笑んでいるけど……。
「大丈夫じゃないだろぉぉーー」
ワープリスは二人をとある場所に向かっていった。
「う、うぅ……ん」
目的の場所に着いたのが僕はワープリスの光で目をパチパチさせていた。
「着いたわよ。ここで魔力を感じてもらうわ」
「ここは?」
目の前には、川がせせらぎ涼しく流れる音。そして小鳥がさえずり、自由な空にはばたく羽。風は肌をひんやりと冷たかった。
なんだろう、ここにいると呼吸が乱れていく。いや、しづらい。
「こ、ここですか……」
「大丈夫かしら。急に連れてきて困惑してるかもだけど早く慣れてもらう」
なんか……急に穂野江さんが手厳しくなったような、これも対象がそれほどの強者なんだと僕は真剣になる。
「それじゃスーツに着替えたら、すぐに始めるわよ」
「ハイ!」
そうして僕は、木陰に隠れて、服の下に着ているスーツに早着替えする。
木陰で着替えてる間にここがどんな場所なのか聞いてみる。
「穂野江さん、ここはどこなんですか?」
「ここは五寿山の中部辺りよ。ここで自然と対話し、魔力を感じとれるようにするわ」
「へぇ〜じゃどうして山を選んだんですか?海とかもあったと思うんですけど」
「それはね……」
説明を受け、自分なりに解釈するとそもそも山には色々な力が巡っているらしい。そこには正の産物、そして逆の場合もある。
だからここの方が修行の場として最適である。
海もしかりだが正より負の産物が強すぎるからあまり新人隊員にとって行かせる場所じゃないらしい。
それと山には、どんなに怪我をしてもすぐに薬草を探せるからやりやすいに尽きるとか。
「終わりました。穂野江さん」
「えぇそれじゃ始めるわよ。とっその前にこれを身に付けてもらうわ」
「え!?」
穂野江さんは両手に四つのダンベルを持っている。
「あの〜穂野江さん……それはいったい?」
「このダンベルを四肢に巻きつけてやってもらうわ」
するとテキパキと手足にダンベルを巻きつけられると一つの重みに身体が身動きできない。
しかも左腕が……ひきちげれる!
こ、これ何kgあるんだ!?力任せに左腕を上げても……無理だ。
「あ、の、穂野江さん……これ、何kgあるん……ですか」
「そうね。一つでざっと五十kgはあるわね」
「ご、ごじゅう!?」
驚きのあまり血の気が引いていく。つまり僕は合計二百もある重りに縛られてるのか。
「あの魔力についてこれは必要なんですか?」
「ん?それはもちろん。貴方はまだ肉体として未熟だからこれで一石二鳥でしょ」
んなわけないでしょ!?
「それじゃあ私は家に戻って生活に必要な物を取ってくるわね」
「は、ハイお願いします」
「後、もう修行は始まってるから頑張って。死ぬ気でね」
なんか不吉な一言があった気がするけど気のせいだろう。そうであって欲しい……。
穂野江さんはさっきのワープリスで家に戻っていった。
そうしてポツンと一人になってしまった僕。
『六真様、頑張って下さい!』
『適当にがんばれよぉ〜ふぁぁ』
天ちゃんふ健気にも応援してくれるが興味がないアバキの二人の反応がサイタイスに通される。
天ちゃんありがとう……ラバキ、コイツ〜!
そうして闘志を燃やし、修行を始める。
「一人になったけど、何も変化してないよな」
周りはいつも通りの自然の景色が広がり、変化していない……むしろ何を仕掛けたんだろう。
そう思考を巡らすが重りの締めつけの痛さで何も思いつけない。
「とりあえず……身体がこれに慣れるまで歩いてみよう」
足を一歩、踏み出した瞬間ーーピカッと地面が光りを放ち、爆発する。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
予想しない展開に体が吹き飛ばされ、ズザザァァと地面に引きずられる。
「クッ!敵の攻撃か!?」
警戒心を剥き出すが、辺りを見ても誰もいない。すぐに立ち上がり、次の攻撃に備えたがカチッと何かを押してしまった。
ヒゥ〜ルゥゥーーバリャァァ!!
強風が僕を二メートルも打ち上げ、雷が全身に駆け巡り痺れる。
強風と雷……さしずめ雷風が六真を包み込み、脳・肉体に負荷がかかり、ショートする。
幸い、咄嗟ともいうべきか本能が受け身をとっていたがそれでも魔法に耐性がない六真には致命傷である。
それでもすぐに目を覚ます。
「もしかしてこれが修行?……なんてこった、魔法の地雷原かよ」
フラフラと立ち上がり、ヤケクソ根性で唸り声を張り上げる。
「やってやるよ!チクショョョョ!!」
それから僕は、穂野江さんが仕掛けた特製の魔法地雷原に挑んでいくのであった。
トラップにはさっきと同じ雷風、爆発で身体を吹き飛ばされる。
水には呼吸ができないよう全身を固められた。しかも暴れようとしてもコンクリートに詰められたかのように動けない。
脱出に成功してもその次の地雷が反応し、闇による形成された重力が襲い、叩きつけられ、伸ばされるなど左右上下に引っ張られる。
そして追撃するかのように空から岩石が降り注がれ、死ぬ気で回避しても重力による圧で潰される。
最後に火は僕の体に纏わりつき、消そうと地面に転がったり、川に飛び込んでも消火できなかった。
「アッーーあぁ、ヴォぇ」
穂野江さんが仕掛けた地雷原は、僕の行動パターンを正確、いや完璧に読み取っている。完璧過ぎるほどにーー。
キモチワルイ。頭がイダイ、辛い。ダルい。シニタイ。眠いーー
「あれーー目がボンヤリしてみえない……」
六真が受けた属性ーー火・水・風・土・雷・重力の六つだった。
だがそれでも他の属性もあるがそれしか発動していない。人にとってむしろ身近なありきたりな物で日常に使っていることだった。
ぁぁーー眠い。
そうして僕は、意識が無くなり、ついに倒れた。
ーーーーあれ?
確かに僕は気絶したよな?
目を覚ますと白い世界が目の前に広がっていた。
「よぉ久しぶりだな」
あれアシュラさんだ。じゃあここは夢なのか?
「正解だぜ。まぁ俺はまだ出てくる気はなかったが穂野江の訓練内容には同情するぜ……」
なんか……アシュラさんが苦い顔をしてるような、もしかして同じ経験をしたのかな。
というかノンビリこんな事を考えて良いのかな僕……。
「突然来たがお前には絶対に強くなってもらわなくちゃ困る……だから」
僕は現実で同じく倒れているのダルさに起き上がれなかった。
「無理に立つな。すぐに終わる」
倒れている僕にアシュラさんは、僕の眼に指を躊躇いなくプスッと……刺した。
うぐぁぁ!あがぇぇ!!なんで……!?
声を出そうとしても、張り上げようとしても声音が鳴らなかった。
「最初は痛いが我慢しろ。魔力の瞳"魔目"を与えてやる」
魔目?何だそれ??
「まぁ簡単に言うと魔力の"濃さ・色"をもっと深く知れるようになる。それじゃ頑張れよ」
お前は、この特訓をしても魔力を感知することはできないが勘だけは養える。
だがそれでも足りねぇ。近いうちに来る試練を超えるためにもだ。俺の為にも、お前のためにもだ。
そうしてアシュラさんは用が終わったのかフラフラと手を振り、どこかに行ってしまう。
待ってどこにいくんだ!?と手を伸ばしたが睡魔が襲って力尽きた。
「ハッ!?」
目を覚ますと夕陽が僕を照らしていた。いつの間に時間が経ってたんだ。
立ち上がると全身に倦怠感、疲労による重みがある。
「グァァ……いでぇ」
体は、魔法によるダメージで痛みもあるがなぜか眼が痛い。針で少しづつ抉られた嫌な感じがする。
「ん?なんだあれ……」
ボンヤリと紅く光っていて文字が刻まれている円が視える。
「もしかして……」
足元にある適当な石を拾って、そこに投げるとボワァァと炎が舞い上がる。
「い!?これって……もしかしたら魔法の色によって属性が判るようになったのか!」
あれ?でもいつの間に覚えたんだっけ。確か誰かに授かったような。名前は魔目だよな。
「まぁ良いや!よ〜しこれなら」
トラップに嵌っても対策が練られるし、どんな魔法かで受け身も取りやすく慣れる。
そしてなにより【属性を知れる】事が一番でもある。
しかも、トラップはバラバラに、複雑に絡み合いランダムにばら撒かれ変化している。
「よし!いくぞぉぉ!!」
そのまま僕は魔目を実戦になっても馴染ませるようになるまで地雷原に突っ込んでいくのであった。
その頃、穂野江は数十mも離れた木のてっぺんで彼を見ていた。
「最初は動きが悪かったけど、急に良くなったわね」
穂野江は家に戻ったフリをして遠くから六真を見ていたのである。もちろん三日間、ここで過ごす準備はできていた。
彼女は全ての手段を使い、殺さない程度の罠を仕掛けていた。
六真の行動パターンを寸分間違えない動きを頭にインプットさせ、何も知らず罠に嵌め、操られる哀れな人形にしたが免れた。
そのように【心を折る】事を味わってもらおうと考えていたが想像を超えていた。
心を早めに折れば、強靭なメンタル、精神力を身に付けてられるはずだった。
だがーー
「楽しんでるの?この状況を」
地雷原の中、彼はこの狂ったマジックモアの中で唯一嗤いながら避け、魔力を的確に認識している。
なにより二百kgもあるダンベルをしているのに軽快な動きに変わっている。まるで進化している肉体と適応力。
「まさかアイツが干渉したの?なぜ……」
深く考えるが、今は六真を強くするために専念する視線を向ける。
「頑張って六真君。貴方が死なないように私が出来る方法で」
そうして彼を見守り、明日の訓練を考えるのであった。
どうも〜作者の蒼井です!
読者の皆様、大変遅くなりました。
創作意欲・想像力は出るのにそれを言葉に表すのに苦戦していたり、リアルで凹むこともあってか中々執筆ができずにいました。
それでも読者の皆様が読んで下さったり、待ってくださったり、興味をもって覗きに来てくれて感謝感激です!!
このまま頑張っていくので不定期ですがノンビリお待ちしていただけたら幸いです。
長々と書きましたがそれではまたお逢いしましょ〜う(^O^)/




