第二十三話 己の変化
学園に向かうため猛ダッシュで駆け抜ける六真。
「ウォォォォォォ!間に合えぇぇ!!」
生徒玄関に入り、うち履きに素早く履き替える。
外履きは、強引に自分のロッカーにぶちこみ教室に向かう。
ダッダッダッと戦車が走り出すように廊下を走り出す。
階段をたったっと軽快に駆け上がる。
サイタイスで時間を確認するともう八時四十四分。
(間に合え!!」
教室の戸が見えてきた。
ガラッと勢いよく開けるがキンコーンカンコーンとホームルームのチャイムが鳴る。
「お〜い六真、遅刻だぞ」
ニッコリと笑っているが担任の明美先生が額に青筋を立ている。
ガタガタと震えが止まらない……!
「ハイ……すみません……」
「もっと余裕をもって来るように。それじゃあ席につけ」
トボトボと自分の席に着くと隣の席である才場陣が声をかける。
「オイオイ、六真どうしたんだよ。遅刻なんて珍しい」
「あ〜……ちょっと寝すぎちゃって」
何だそりゃと明美先生が立っている教卓に視線を向ける。
「よぉ〜し、お前ら席についたな。それじゃあお前らに転校生を紹介する。入って良いぞ」
「転校生?」
「お前は遅刻して知らなかったけど今日はウチに転校生が来るって話でどこももちきりだったぞ」
「へぇ〜」
陣は小声で耳打ち、好奇心を煽られる僕。
ガラッと教室の戸が開くとそこには見知った顔だった。
銀髪のロングヘアーをなびかせ、左目に紅と右目にシルバーのオッドアイ。スラッとした身体をして顔は有名なモデルさん。
穂野江さんだった。
「穂野江夏です。父はアメリカ人、母は日本人の両親です。これからよろしくお願いします」
ニッコリとお淑やかな笑顔で伝える。
しかも僕に向かって……なんて思い過ごしだよな。
そういえば家に帰り、制服に着替えて穂野江さんがいる和室に行ってもいなかった。
代わりにテーブルにメモがあり、目を通すと『少し早めにでるから。また後で』の伝言があったことを思い出す。
「可愛い〜なにあれモデル?」
「美人すぎるだろ!お近づきになりてぇ〜」
などの男女のクラスメートがザワツキ始める。
「お前ら、静かにしろぉ」
手をパンパンと鳴らし生徒は黙り、辺りに静寂が訪れる。
「オォ!六真、すげぇ子が来たな!!」
「あっ……あぁ」
まさかここにまで来るなんて……と絶句する。
修行していたあの頃、穂野江さんから聞いたが政府が独自で創設した悪魔に対抗する人間を育成する特殊学園があるらしい。
しかもそこには選ばれた人間、どんな分野で優秀な成績、成果を残した者にしか入学許可を許されない場所。
そんな所から転学してくるなんてと驚いていた。
「六真、お前……もしかしてあの子と知り合いなのか?」
「まぁ、ウン」
「なんで教えてくれなかったんだよ〜」
妬みがましい声を出す陣。
(僕もここにくるなんて知らなかったんだよ!!)
内心、悪態をつくがそれをポロッと心の声を出さないようギュッと我慢する。
「よし、それじゃあ穂野江の席は六真の前が空いてるからそこに座ってくれ」
「はい。わかりました田辺先生」
こちらに向かってくるが口をパクパクさせながらこっちに何かを伝えてくる。
『よろしくね。六真君』
多分こういったと思う。
陣は『ヨッシャ!』と小さくガッツポーズをして喜んでいた。
美人な子と一緒になったからである。
いつも通りの生活が始まった。
「ねぇねぇ、穂野江さん。アメリカではどんな暮らしをしてたの?」
「穂野江さん、今日俺等とカラオケい行かね?」
いつの間にか穂野江さんの席は大名行列をなしており、いつもよりザワついていた。
「えぇアメリカはでは……」
「ごめんなさい。誘ってくれてありがたいけどまだ学園の手続きがあって無理なのよ」
と淡々とクラスメートの質問を返していく。
その捌きに僕はまるで記者会見をしているかのように思えた。
「ねぇねぇ穂野江さん。どこに住んでる?」
「えぇそれは……」
まずい!?どこに住んでいるのかと言った女子の一人が聞いてきて僕は焦る。
何しろ僕の家に居候しているわけだ。
これが学園に知り渡ったら……。
男子からは目の敵で女子からはあらぬ噂を流される。
そんなことがあっては僕の精神が保たない!
穂野江さんが口を開き、言おうとする。
「ここより近いアパートで一人暮らしよ」
「へぇ〜偉いね。お父さんとお母さんは?」
「父と母は両方とも、海外出張で忙しいから」
「へぇ〜」
そう返答して、僕はホッと一息するが穂野江さんの表情からなんだか暗い顔をしていたのは気のせいだろうか。
十分休みが終了するチャイムが鳴り、他の生徒は他にも質問したかったそうだが蜘蛛の子を散らすように各々の席に着く。
そこからいつもの授業が始まる。
だが僕は暇そうな顔をしながら黒板に書かれた文章をノートに書き写す。
心の中で『早く帰りたいなぁ』と思いながらウンザリした気持ちで授業を受けている。
すると前の席に座っている穂野江さんがチラッとこちらを見つめている。
ん?なんだろう……身体が震えてるような……。
『ちゃんと真剣にやりなさい』
視線による覇気を纏った有無を言わせないメッセージが送られる。
気持ちを切り替え、姿勢を正す。
一〜三限まで一人の鬼監視に睨まれ、胃がキリキリする授業をしていた。
その三限の授業では穂野江さんは先生顔負けの問いと答えを出していた。
四限の体育。内容はサッカーだった。
ワクワクする人間とその反面、運動が嫌いな人間の2つの派閥が出来ていた。
もちろん僕は後者である。
体育教官の先生は厳しく「早く準備運動始めろぉぉ!チンタラするな!!」と声を張り上げる。
「面倒くせぇ……」
「ヨッシャやるぞぉ!!」
まさに陰と陽の二つである。
だが僕は内心、苦にはならなかった。
そうして本番のサッカーが始まる。
「クソっ!?コイツいつの間に!!」
「邪魔だ!お前!!」
ドリブルやシュートは出来なくともパスやブロックなどのカバーやディフェンスが出来ていた。
しかも息は上がってはいない。
むしろ三十分も走り出しているのに疲れが出ていない。
いつもなら五分も満たずにギブアップしている。
なのにこんな結果を出している。
そうして四限が終わった。
結果として我ながら大活躍していたと思う。
「お〜い六真、お前凄かったな」
「いや……そんなことないよ陣。君のほうが大活躍じゃないか」
「それでもだよ。お前なんであんなに動けたんだ?どこかで特訓してたのか」
「まぁそうだね」
「それにしてもお前……雰囲気変わったな」
「そうかな?」
「そうだよ」
なんだか陣はホッとしている。
「まぁ、これからもその調子でいてくれよ」
そうあの時、才場陣にあっていなければ今頃……。
「おう!」
そうしていつもの一日が終わった。
どうも〜作者の蒼井です!
寒い冬ではありますが読者の皆様は、しっかりと暖をとってくださいね(*^^*)
【人魔転生ーー黙示録】は不定期に話を投稿していますので気長にお待ちいただけると助かります!
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それではまたお逢いしましょ〜う(^O^)/




