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第十一話 武と心の基

 「ほらほらぁ!どうした、足がおぼついてるぞ!!」


 「くっ!?」


 その日、タケミナカタさんから呼び出され急に「お前に武を教えてやる!」っと言われ、流されるまま一対一の稽古をしていた。


 その頃には、タケミナカタと六真による実践稽古が始まっていた。


 タケミナカタさんが言うには「俺は教えるのが苦手だからな!実践にやって身体に染み込ませてやる!!」っと豪語された。


 くそっ!反撃できない……。


 押されている六真は、タケミナカタの足技に翻弄され、手も足も出ないでいた。


 そして今の現状が繰り広げられていた。


 自分には、武術の基礎も分からず実際に組手をさせられている。


 近くには、もしもの時があった場合に穂野江さんがついている。


 「こんなのありかよ……」


 小声で吐き捨て、素早い蹴りを回避しようとする。


 だが体や目はタケミナカタの攻撃に追いつかず、まともに受けてしまう。


 さらには……


 「オラオラ!!急所を防がねぇと不味いぞぉ!!!!」


 的確に金的、目、背中を集中的に狙ってくる。


 タケミナカタさんは、組手が続く事に気性が荒くなっていいるのかやけに俊敏に磨きがかかっている。


 僕はなんとか防ぐ手立て、もしくは反撃を狙ってみるがそれも見透かされている。


 「俺にカウンターを決めようとしているがまだだなぁ」


 「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 唸り声を上げ、必死の拳を振り上げる。


 だが現実はそう甘くない。


 素人丸だしのジャブを躱され、腹に重く乗った膝が襲かかる。


 「う……ぐはぁ」


 ドサッと膝から崩れ落ち、嗚咽を吐きながら痛みを逃がそうとする。


 「オイオイまだ寝んねにははぇぞ」


 タケミナカタさんが胸ぐらを掴み、空高く放り投げる。


 (うっ動けない……ちくしょぉぉ)


 そのまま落下し、地面に落ちる僅か数ミリで脇腹を蹴られてしまった。


 ボキッと嫌な音がした。骨が……折れた。


 「まだ……立てるだろ」


 「ひぃ!?」


 タケミナカタさんは恐ろしい鬼の顔をし、背中が凍りつきそうだった。


 逃げたい、けど逃げられない。


 何故ならもう僕は、戦意を失ったからだ。


 「そこまでです。タケミナカタ様」


 穂野江さんは、タケミナカタさんの前に立ち、レイピアを首元に近づけていた。


 「おっと……すまねぇな。つい熱くなっちまったな」


 ケラケラと笑いながら、あっけらかんとした態度だった。


 「よしっ休憩だ。六真は、怪我が治ったらまた始めるぞ」


 「ㇵ、ハイ」


 掠れた声で返事をした僕はそこから意識が無くなった。


 どれくらい寝ていただろうか。


 重い瞼を見開く。


 「おはよう。六真君、身体は大丈夫?」


 「はい、治りましたけど!?」


 彼女の顔が眼の前に現れたのだ。


 そしてこのフカフカしていて柔らかい感触はもしかして……。


 「えぇっと、すみません。膝枕してもらって……」


 「これぐらい良いわよ」


 フフっと微笑み、僕は顔が熱くなっている。


 「それよりどうだった。タケミナカタ様との稽古?」


 「えぇっとまぁ……圧倒的でしたね。何と言っても神様ですから」


 「そうね。神様だから強いけどでも貴方は、強くなっているわ」


 「そうですかね……強くなっているのか疑わしいですけど」


 と悲観的になっているのを察したのか穂野江さんは、ここで修行していた頃を話してくれた。


 「私ね。タケミナカタ様とは一度も勝てなかったのよ」


 「あのひとに勝とうとしてたんですか!?」


 驚きのあまり腰を抜かす。


 「そうね、誰でも勝てっこない事は解りきっているわよね。けど……私にはどうしても勝たなきゃいけないの」


 「どういう事ですから?それ」


 「だって悔しいじゃない。あの人に一矢報いてみたいじゃない」


 そう自信がたっぷりと面を向かって言う。


 「貴方は今していた組手は、とても大事なのよ」


 「大事……ですか」


 「えぇ、これからの戦いでは敵は勝つためには手段を選ばない奴も出てくるわ。貴方も薄々分かってるんじゃない?」


 確かに改めて思い出すとタケミナカタさんは、急所しか狙ってこず、ましてや実践形式だった。


 「そうですね。そんな意味が有ったなんて」


 「そして貴方はあの時、恐怖を感じたわよね」


 「ウッ……はいそうです」


 倒れていた時に顔にハッキリとでていたのだろう。


 図星をつかされ、頭をガックリと項垂れる。


 「誰でも恐怖を感じることはあるけど、でも貴方はきっと乗り越えられる。信じているわ」


 背中をポンポンと叩かれ、激励をくれた穂野江さんに僕は勇気を貰った。


 「はい!とりあえず頑張ってみます!!」


 「えぇそれで良いのよ」


 「休憩は終わりだな。じゃあそろそろ始めるぞぉ〜」


 急に後ろからタケミナカタさんの声が聞こえ、心臓がドキンッと跳ね上がる。


 「ビッッッックリしたぁぁぁぁぁぁ!!」


 あまりに唐突に現れ、後ろを振り返る。


 「おぉ驚かすつもりはなかったがまぁ……とりあえずやるぞ六真!!」


 「はっはい!!」


 両者は、構えをとる。


 だが結果は同じだった。


 六真は、ガードと回避を織り交ぜているが全く反応ができておらずモロに受けていく。


 「オイオイ何も変わってねぇなぁ。このままじゃあさっきみたいに潰されるぞ!!」


 手加減のない攻撃に六真は、身体中に痛みで泣きそうになるが我慢する。


 六真は実際にはもう身体には、武道としての基礎は、もう完成していたのだ。


 そこでの実践稽古では、もう完璧な土台はできていた。


 だが後は目が相手を捉える事に慣れる事だけだった。


 タケミナカタの実践稽古には意味がまだある。


 それは武としての道に歩む者には二つある。


 一つは、真っ直ぐとした道をずぅぅっと駆けていく道。


 二つは、どちらもを学び取り入れ独自の戦闘スタイルを作る道。


 だがその【道】には弊害がある。


 それはどっちも中途半端に終わってしまうことだ。


 だから全ての技を六真に叩き込み上げ、最強の武を会得させようとした。


 そして今がその時。


 だが六真には猛攻をしのいでいる時にある文字が浮かび上がる。


 【諦める】の文字が。


 だがそんな事で穂野江さんに啖呵を切った自分に嘘をついてしまう。


 息が上がり、心臓がドクンドクンと不自然に鳴る。


 「ハァァァァァ……」


 鼻から空気を吸い、口から吐き出す。


 落ち着かせ、タケミナカタを見据える。


 「そうこなくちゃな」


 不敵に笑うタケミナカタは、構えを取り直す。


 喉は、カラカラで乾き、耳が遠くなっているのか音が小さい。


 汗はぐっしょりと尋常ではないほど隊員スーツが濡れている。


 「いくぞ!!」


 「おう!!」


 「「ハァァァァァ!!!!」」


 両者が一斉に地面を踏み抜き、走り出す。


 拳と脚が近づきぶつかり合うと思ったが拳は、届かなかった。


 「ぐっ!?」


 「フッ」


 今までの渾身の一撃を込めた拳が後少しだったのに腹を蹴られてしまった。


 「くっ悔しいなぁ……届いたと思ったのに……」


 「悪くはなかったな。だがお前に敬意を払いこの技を魅せてやる」


 脚で胸を掴み、頭から直角で落とされる。


 その技は、タケミナカタのオリジナルでもある幻の【山嵐】だった。


 こうして六真は気絶してしまった。


 「六真くん!!」


 穂野江は、慌てて飛びたそうとする。


 ゾワッとあの嫌な感触が肌に突き刺さる。


 「くっ!?」


 タケミナカタは異変を感じ、後ろに下がる。


 いつからか六真は、立っていた。


 気絶している六真の体から黒色のオーラが滲みでていた。


 (まさか!?あの時の奴が出てくるの)


 穂野江は焦り、レイピアを取りだし、タケミナカタは問いかける。


 「穂野江、これがお前が言っていたあれか?」


 「はい。そうです!気をつけてください何が起きるかわかりませんから!!」


 (あの青年には、何も感じなかったはず……俺も勘が鈍ったな)


 タケミナカタはない内心悪態をつき、二人は戦闘態勢をとっていたが黒のオーラはいつの間にか消えていた。


 「何だったんだありゃあ」


 「は、はい」


 二人は、冷や汗をかきながら六真を運び出した。

どうも〜お久しぶりです作者の蒼井空あおいそらです。

やっとリアル事情が落ち着き、投稿することができました……

またボチボチと再開して書いていくのでノンビリとお待ちいただけると幸いです。

それではまた逢いましょ〜う

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