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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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5-1.誰かが襲ったってことですか?





 重い足取りで私とシオは、カフェ・ノーラへの帰路を歩いていた。


「今回も……残念でしたね」


 シオから掛けられた言葉にうなずく。

 私の両肩にはそれぞれ頑丈な麻袋が抱えられていた。そしてシオの手には、それよりも幾分小さな袋が握られている。

 麻袋に入っているのは死体。そしてシオが握っている袋には、銃や剣、ライセンス証などの捜索対象者の遺品が入っている。ランドルフからの依頼を受けて行方不明となった探索者の救助に向かったけれど、すでに対象となっていた二人は死亡していた。

 ちら、と横目でシオの様子を窺う。こうして死体を回収してくるのは何度目か分からないくらいで、彼もさすがに死体を見て嘔吐することはなくなった。けれどやはり無視できないくらいには精神にダメージを及ぼしているようだ。


「気にする必要はない。おそらく私たちに依頼が来た時点で死んでいた」

「かもしれませんけど……」

「迷宮に潜るのは危険。モンスターに喰い散らかされるケースがほとんど。だから死体であっても、戻ってきたことに感謝してくる遺族も多い」

「そう、なんですね」


 励ましたつもりなのだけれど、シオの返答はどこか上の空だ。誰かの心情を正しく慮るのは、やはり難しい。もっとも、もはや鈍い疼痛さえ覚えない私からすれば、その人間らしさが羨ましいと思う。

 しかしながら彼も弱いわけではない。翌日には気持ちを持ち直しているし、上手く感情を処理できるようになっているのだと思う。だから私から声を掛けるのならば。


「店に戻ったら、クレアに甘いお菓子を作ってもらうようお願いする。甘い物には魔法が掛かっているとクレアもロナも言っている。食べればきっと元気になる」


 魔導ではなく魔法。それが果たしてどんな古の秘術によるものなのかは知らないけれど、いつも摂取している人たちに悪影響は見られないどころか食べながら幸せそうにしているし、シオが食べてもきっと効果があるのだろう。

 そんなことを考えていると、シオが私の方を見ていた。そしてクスッと笑った。


「何となくノエルさんが何考えてるか分かります」

「変なこと言った?」

「いえ。面白いなとは思いますけど。でも……気を遣って頂いてありがとうございます」


 とりあえず私の気遣いは伝わったらしい。私は面白いことを言ったようで――自覚はないのだけれど――なんにせよシオに笑顔が戻ったのは良いことだ。仕事柄仕方がないことだとはいえ、やはり沈んでいるより笑ってくれている方が望ましい。

 表面上だけでも立ち直ったシオの様子に胸を撫で下ろしながら迷宮内を上へと進んでいく。モンスターとの戦闘は極力回避しながら十階層へたどり着き、シオもすっかり慣れた入り組んだ道へ入り、最後の細い通路を通り抜けると、店の姿が目に入った。

 一見何も変わったことはない。店に明かりはついていて、何度もモンスターに壊されては修理してるのですっかり傷だらけになったドアもキチンと役目を果たしている。

 だというのに、私は違和感を覚えた。


「シオ、止まって」

「へ? どうしたんです?」


 人差し指を口に当て、首を傾げたシオに向かって静かにするよう要請する。その仕草で私の危惧が伝わったらしく彼の顔にも緊張感がにじんだ。

 足音を殺し、静かに店に近づく。シオが戦闘態勢に入り、私も義手を変形させ、さらには拘束用の冥魔導を待機状態に。いつでも発動できるよう備えておく。

 耳をそばだてながら店の周りをグルリと回る。人の何倍も優れた聴力を持つ私を以てしても私たちの足音以外の物音は聞こえてこない。


「……ノエルさん、これ」


 シオが窓ガラスを指し示した。そこにあったのはガラスの亀裂だ。それも一枚だけでなく、隣の窓も同じように割れている。

 店で使っているガラスは割れにくい上に、割れても砕け散らない特殊なもの。普通にぶつかったりする程度ではまず亀裂は入らず、それにヒビが走っているということは硬いものが相当に強くぶつかった証拠だ。

 私たちが不在の時にモンスターが襲撃してきたのだろうか。しかし、その場合だとドアが壊れているはず。濃い血の匂いも漂っていて然るべきなのだけれど、その匂いもない。


(いや――)


 改めて匂いを嗅いでみると、かすかに血の匂いも感じた。その強さからして、せいぜいがちょっとした切り傷程度と思われる。が、かすかであってもその匂いは私を不吉な想像に駆り立ててくる。


(もし……)


 クレアが中で倒れていたら。あの日の、エドヴァルドお兄さんのように動けなくなっていたら。クレアの探索者としての実力はよく知っている。この階層のモンスターに遅れを取るようなことはなく、この階層独特の、深層にいるような強いモンスターがやってきたとしても彼女ならある程度は対抗できるし、無理だと思ったらあっさり退避するはず。

 けれど、何事にも絶対はない。まだ見てもいない中の様子が私の頭に勝手に作り出されて、そこではクレアが壁にもたれてぐったりしている。その瞬間、血の気が引いていくのを感じ体から熱が消えていって、苦しくなった胸をつい私は押さえた。


「ノエルさん」

「大丈夫。問題ない」


 私は、弱くなったのかもしれない。昔、戦争中だった頃はこんな不安など微塵も覚えなかったのに。これは私が兵器として劣化した、ということと思料する。けれど、これが私の選んだ生き方の結果であれば当然のものとして受け入れたいと思う。

 呼吸を整えて玄関口に回る。これ以上慎重になる必要はない。私の背後でショートソードを手に持ったシオに目で合図する。

 そして、私たちは店の中へと踏み込んだ。

 扉を蹴破り吹き飛ばす。物音がしないから中に誰もいないことは予想できていたけれど、店内の様子は想像以上の状態だった。

 慣れ親しんだカフェ・ノーラの内装。いつもは客がほとんど来ないためテーブルは常に整然と並んで、ピカピカに磨き上げれている。けれど今の店内は完全に崩壊していた。椅子やテーブルはあちこちへ転がり、砕けた破片がいくつも床に散らばっていた。


「ひどい……どうしてこんな……」


 シオが思わずといった様子でつぶやいた。すっかり荒れ果てて、さながら戦場跡地だ。しかしながらクレアの姿はない。頭を過っていた、動けなくなった彼女の姿がなくて私は少し安心した。

 それはそれとして、いったい何があったのか。この状態からして明らかに戦闘があったと推察できるけれど、それにしては妙。モンスター独特の匂いの痕跡は無いし、獣の体毛らしきものも無い。それに――


「これって剣の傷跡……?」


 シオが壊れたテーブルを調べていると、明確な剣戟の痕があった。クレアは剣も使えるけれど、メインはハンマーなどの打撃系の武器だ。彼女自身が剣を使った可能性は低いと考えると、つまりは――


「誰かが……人間がここを襲ったってことですか……?」


 ――そういうことになる。







お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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