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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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4-2.ようやっと見つけたでぇ





 今から遡ることおよそ十分。

 迷宮の二十一階層にたどり着いた私たちは、壁の窪みに身を潜めていた。


「……ようやっと見つけたでぇ」


 クレアが息を潜めつつも嬉しそうに声を上げた。

 私たちの視線の先にはハイ・アーマーナイト。重厚な、まるで昔の重騎士が切るようなフルプレートアーマーが一人で動いているのがアーマーナイトだけれど、今回のターゲットはその上位種。

 中身がなく鎧自体が本体というのは変わらないものの、よりスマートな外観で剣からは仄かな光が怪しく漂っている。どこかの国のおとぎ話に出てくる首なし騎士(デュラハン)というのが外見としては近いかもしれない。

 お供なのだろうか、傍らにはインモータル・ハウンドもいて周囲を警戒している様子。こちらから急襲するにも少し慎重さが必要かもしれない。


「ノエル、ちょいと頼みがあるんやけど」

「なに?」

「ウチが攻撃したらすぐに同じ場所に冥魔導でトドメさして欲しいんやけど、できるか?」


 背負っていた巨大なハンマーを握りながらクレアが希望を伝えてきた。

 合図さえくれれば対応は可能。ただしそれなりに困難。理由の説明を求める。


「ハイ・アーマーナイトは冥属性やろ? ウチの逸品制作クリティカル・プロセスが発動した場所に、ノエルの濃い魔素を宿した冥魔導で貫いたら、上手いこと魔素が馴染んで属性が強化できんかと思うてな」


 なるほど。理由は理解した。異存はないけれど、気を取られて少しクレアのことが疎かになる懸念がある。防御と回避に重点を置いて戦ってほしい。


「了解や。素材のためにそこまで命かけるつもりも無いしな。それにまだ理論のお試し段階や。ノエルも冥魔導使うんは最低限で結構やからな。負担にならない範囲で頼むで」


 承知した。AランクとB-1ランクのモンスターを相手にする以上、ある程度は魔導も併用しなければならないだろうけれど、鎧の一部とクレアから血を少し分けて貰えば多分大丈夫だろう。


「まずは二体を引き剥がす」


 窪みから身を乗り出し、腕を変形。十四.五ミリ弾を装填したスナイプモードに切り替え、せり出した照準器を覗き込む。

 徘徊していたハイ・アーマーナイトが、ピタリと動きを止めた。そしてこちらを振り向く。さすがはAランクモンスター。この距離でもこちらに気づいたようだ。

 だけど、遅い。


「――スイッチ」


 つぶやくと同時に、轟音を立てて弾丸が発射された。

 火薬と魔素によって加速された弾丸が旋回しながら直進する。一瞬で数十メートルの距離をゼロにし、着弾した弾が再び轟音を響かせると同時にハイ・アーマーナイトの体が吹き飛ばされ、地面を砂煙を上げて転がっていくのを確認した。

 そして私はバーニアを噴射した。

 予定通り二体のモンスターを引き剥がせた。この隙にインモータル・ハウンドを片付ける。

 瞬時に最高速に到達し、地面を蹴ることでさらに加速。点程度の大きさしか無かった猟犬の姿があっという間に眼前へと広がる。


「ガウアアァァ■■ッッッッ――!」


 咆哮を上げ、敵が私を迎え撃つ。鋭く長い牙を突き刺さんと大きく口を開け、高速で迫る私に向かって飛びかかってくる。

 首元に牙が迫る。それをステップとバーニアの噴射を利用してかわすと、すれ違いざまに左の拳を背中へと振り下ろした。義手化していなくとも十分な威力はあるそれがめり込み、口から飛沫を上げながらインモータル・ハウンドの体が地面で跳ねる。

 そこに銃の照準を合わせる。狙うは心臓。ほぼゼロ距離ゆえに外すことはない。

 銃弾が確かに敵の心臓を貫き、着弾の衝撃で獣の身体が弾け飛んでいく。普通ならばこれで終わりだけれど、残念ながら心臓が二つあるインモータル・ハウンドを相手にしている以上、戦いは続く。


「■■■■ァァァッッ――!」


 血を撒き散らしながら地面を転がりつつもインモータル・ハウンドが咆哮を上げた。何事も無かったかのように起き上がり、うなりながら私を赤い瞳で睨みつけてくる。けれどジッと私の様子を窺って、さっきのように即座に襲いかかってくるようなことはない。

 決して怖気づいたとかそういった類ではなく、敵の狙いは――


「……■■――」


 最初に弾き飛ばしたはずのハイ・アーマーナイトがいつの間にか私の背後に立っていた。そして剣を振り下ろしてくる。

 冥魔導を用いて音と気配を極力殺し、静かに斬りつけてきたその一撃を体をひねることでかろうじて回避。これだからハイ・アーマーナイトは油断できない。この敵が使うのが冥魔導であるがゆえに私は気づけたけれど、他の人間の場合は相当に直感が強いか、仲間に接近を教えてもらわなければ敢え無く斬り殺されてしまうのは必至だと思料する。

 それに加え。


「……■■■」


 剣戟の一つ一つが鋭い。モンスターではあるけれど、ナイトの名にふさわしい剣筋。このモンスターが元々は人間だと言われても納得できるレベルだ。

 薙ぎ、振り下ろし、あるいは剣だけでなくその硬い肉体を使っての打撃さえ繰り返してくる。私が少女の身なりをしているからといってそこに容赦はない。

 ステップを踏み、体をひねり、あるいは硬い義手を使って攻撃をいなす。冷静に対処すれば難しい相手ではない。とはいえ、ハイ・アーマーナイトばかりに意識を集中しておくこともできない。


「ガル■ァァ■■ッッッッ――!」


 がら空きに見える私の背後。そこを狙ってインモータル・ハウンドが仕掛けてきた。

 猟犬の名にふさわしい加速力。一度は開いていた距離を瞬く間に詰めて私の首筋に喰らいつこうと跳躍する。

 けれど。


「――自分の背中もがら空きやで」


 インモータル・ハウンドの背後で影のベールが剥がれ落ちる。

 私が掛けた冥魔導。その効果が切れて現れたのはクレアだ。猟犬が私という獲物を捉えようとするその瞬間を待っていた彼女は力強く踏み込んで、手に握っていたハンマーを思い切り振り抜いた。

 響く鈍い音。海を挟んで遠く離れた大陸ではかつてベースボールという競技が屈強な男性たちの間で盛んだったらしいけれど、彼らに勝るとも劣らない見事なスイングがインモータル・ハウンドの頭を捉え、ピンポン玉のように弾き飛ばしていった。

 猟犬が壁に叩きつけられ落下し、動かなくなる。インモータル・ハウンドが「不滅」の名を関しているのは、心臓が二つあることにくわえて硬い頭蓋を持つことにも由来する。しかしながら彼女の並外れた膂力の一撃には耐えられなかったらしい。

 さて。これでハイ・アーマーナイトに専念できる。

 攻撃をいなし続けてきたけれど、反撃に移行。振り下ろされた剣戟を、こちらが前進することで回避して懐に入り込む。

 左足のバーニアだけを噴射。加速された蹴りがハイ・アーマーナイトを壁に叩きつける。さらにそこへ、再び右腕を銃へと変形させて十四.五ミリ弾を叩き込んだ。


「■■……――」


 銃声が響き渡り、ハイ・アーマーナイトからはうめき声のような掠れた音が発せられた。だけれども貫通には至らず、鎧にへこみが見られるだけ。攻防に高いレベルを誇るからこそ、このモンスターはAランクであると私は認識している。

 もう一つ言えば、弱点らしい弱点もない。全身が硬い鎧で出来ていて、普通の人間のように関節部でさえも狙うべき場所にはなり得ない。

 それでも。


「クレア」

「ちょっち待ちや」


 彼女がいれば解決する。

 クレアの目を通してみれば、生きているモンスターであっても素材だ。素材を加工する時にどこを叩けば効果的か、彼女のスキル<逸品制作クリティカル・プロセス>が教えてくれる。


「――首や。左の首から肩に掛けて」


 了解した。なら当初の計画通り進めることで問題はない?


「ああ、予定通り頼むで。せやけど結構ピンポイントやさかい、ウチが攻撃叩き込んだところに寸分違わず一発お見舞いしてや」


 中々難しい注文だけれど、承知した。

 再びハイ・アーマーナイトが剣を構え迫ってくる。クレアを下がらせ、攻撃を私の方へと引き付けていく。

 クレアの腕前は持っているライセンス証以上のものがあるけれど、攻撃する場所が局所に限定されていると言った。ならなるべく当てやすくしておくのがベターと判断する。

 剣戟を左腕で受け流し、敵と体を入れ替える。無防備になったハイ・アーマーナイトの背後を取り、胸の辺りを狙って十四.五ミリ弾を再び叩き込めば、敵の上半身が前に倒れ込むようにして転がっていった。

 直後にバーニアを噴射して追いかける。地面を滑っていく敵を上空から踏みつければ、義足と鎧がぶつかる音が響いた。









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