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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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3-2.ウチには想像できへんかったわ






 やはり彼が研究所の人間だった。しかもその口ぶりと、五人もの護衛をつけていることから推測するに重要な人物だと思われる。


「こちらこそ宜しくや。ゴルトベルガーはんは研究の責任者か何かかいな?」

「そうなるかな。とはいえ、こんな危険な場所だからね。研究員としては僕だけさ。後は護衛と作業員、それと雑用係くらいなものだよ」

「はー、しっかし地下の底にこもって研究とは酔狂なことやな」クツクツと皮肉っぽく喉を鳴らすアルブレヒトに、クレアは感嘆してみせた。「お兄さんはどっかんアカデミーの偉い先生なん?」


 ランドルフは地下の研究施設がアカデミーとは無関係とは言っていた。だけれど、事情を知らなければ研究と聞いて真っ先に思い浮かべるのはアカデミーであり、クレアの質問は至極当然のもの。

 だけどアルブレヒトは、その質問を聞いた途端に明らかに不機嫌になった。


「まさか! あんな物事の道理も理解しない連中と一緒にしないでくれたまえよ」

「あら、それはえろうスマンかったな」

「奴らは僕の研究がどのくらい価値があるか分からないんだ! そんな人間と混同されるのはとてもとてもとてもとても不愉快で侮辱に等しい……っと、コホン……まあ、なんだ、失礼。君がそんな僕の事情を知るはずはないね。取り乱してすまない」

「いや、こっちも事情は知らんと失礼な事言うてしもうたみたいでスマンなぁ」謝罪の言葉に、アルブレヒトの表情が少し緩んだ。「しかし、ずいぶんとアカデミーを毛嫌いしとるけど、いったい何があったん? ああ、繊細な話やしな。別に話した無かったら構わんで。こっちは単なる好奇心やし」

「構わないよ。そんなたいした話じゃない。アイツら、僕の研究が気に入らなくてアカデミーから追放したんだ。おまけに、研究成果も全部取り上げた上で勝手に破棄までしてくれたんだよ。幸い、研究内容は頭に入ってるから問題はないけど、いきなり研究室にやってきて問答無用でそのまま追い出されてね。酷い話だと思わないかい?」


 彼の話を信じるならずいぶんとアカデミーも荒業に出たらしい。まるでギルドや警察の踏み込み調査のようである。

 先程怒りを示した後ですぐクレアに謝罪したように、アルブレヒトは理知的な人物だと現時点では評価している。そしてアカデミーは彼のように理性的で理知的な人柄の人間が多いと考えていたのだけれど、話を聞く限りだと彼がいたアカデミーはそうじゃなかったように聞こえる。


「なんや、穏やかやない話やな。いったい何をしとったねん?」

「なに、ちょっとばかし実験に人間を使っただけだよ」


 彼は事もなげに、とんでもない匂い(・・)のすることを言った。


「まさかやと思うんやけど……人体実験かいな?」

「そんな大げさなことじゃない。ちょっとそこらにいる物乞いや孤児に試薬を投与して観察してたってだけだよ」

「……」

「詳しくは話せないけれど、僕の専門は魔素による事象や物体への影響を調査することでね。高濃度の魔素が人体へ及ぼす影響を知りたかったから実際に試してみたんだよ」

「……それで、どないなったんや? その人らは」

「残念なことに、無加工で与えるには濃度が高すぎたみたいでね。全員その場で昏倒して病院に運ばれたよ。ああ、もちろん彼らには全員補償金は支払ったし、死人は出てないよ? まあ、一生病院の世話になる人間もいたけれど、それだって彼らの生活を考えれば早いか遅いかの違い程度さ。むしろ生涯食べるのに苦労しないだろうから、結果的には人助けになったと言っても過言じゃないね」


 自慢げ、というわけではないけれどその口調から判断するに、彼は些細な失敗と考えてるらしい。その事にクレアは口をつぐんでシオも引いてしまってるのだけれど、彼は気づいた様子は無い。

 さらに。


「だって言うのにアカデミーの連中、ひどく問題視してくれやがってね。あの程度の失敗を恐れていったい何が生まれると思ってるんだろうね? まして、犠牲になったのはしょせん(・・・・)物乞いに孤児。彼らが犠牲になる程度(・・)で今後とてつもなく素晴らしい価値が生まれるんだ。技術の進歩に多少の犠牲は仕方ないというのに、まったく……理解できないことだよ。そう思わないかい?」


 同意を求めるようにアルブレヒトは店内を見回した。だけれどシオや彼の護衛たちが愛想笑いをするばかりである。

 人を何人も病院送りにし、しかもホームレスや孤児を人とさえ思っていない言葉選び。

 私も別に人の命が平等だとは考えていない。仮に価値をつけるとするならば、何が何でも死なせてはならない人間はいるし、逆に必ず死なせねばならない人間もいる。

 そしてそれは国や立場によって変化するもので、けれど、それでもそこらの石ころのように気安い値段に見定めていいものじゃない。エドヴァルドお兄さんも言っていた。「人間の価値に差はある。だが、その最低価格は他の人間がどうこうできるほど安いもんじゃない」と。

 先程、私は彼を理知的な人間と判断した。しかしここでその判断を改める。彼は理知的でも理性的でもない。危険な狂人と位置づけるのが妥当と再度評価する。


「へー、おもろい考えやな。ウチには想像もできへんかったわ」


 クレアは笑みを浮かべながらそう相槌を打っているけれど、あの表情の彼女はとても不快感を覚えている証拠だ。それを示すように、カウンターの奥で彼女の手にあるレンチがクルクルと回っている。シオや護衛たちも落ち着かない素振りを見せ始め、どうやら店内の雰囲気は悪そうだ。

 と。


「それは大変だったね」ロナがコーヒーをアルブレヒトに差し出した。「ま、生きていればいろいろあるし、理不尽だと思ってもそれがいい方向に転ぶこともあるのが人生さ。今の仕事にたどり着いたように、ね?」

「それもそうだ。ありがとう、頂くよ」


 笑顔を浮かべながらロナが上手くとりなしてくれたおかげで、その気まずそうな雰囲気は一瞬で終わった。さすがだと感心せざるを得ない。護衛たちもみんな胸を撫で下ろしていた。


「しかし……僕らが言えたことじゃないんだが、迷宮内で店を構えるとは恐れ入ったよ。いくら上層の方とはいえ、危なくないのかい?」

「もちろん危険」

「しかも、女性三人と男性一人。失礼ながらとてもモンスターが襲ってきても対応できそうにないんだが……他にも専用の人間を雇っているのかい?」


 私が返答したにもかかわらず、アルブレヒトはクレアに向かって問いかけた。そんなに彼女の事を気に入ったのだろうか。とはいえ、もう彼女らしい心配りを受けられる可能性はゼロに近いのだけれど。


「否定。残念ながら護衛役を雇えるほどの儲けは出ていない」

「なら、何か魔導的な結界でも張っているのかな?」

「肯定。しかしそれで寄ってこないのは弱いモンスター。襲ってくる数を減らす役目は果たしているが、完全には防げない」

「それならばどうやって?」


 私たちだけで十分対処可能なのだけれど、それを言ったところで信じはしないと推測される。人間は見た目での判断が相当に占めていて、思い込みだろうが認識はそう簡単に覆らない。

 なので。


「――こうやって」


 百聞は一見にしかず。私はその場で腕を変形させ、十四.五ミリ弾を迷わず発砲した。

 それとほぼ同時に、壊れそうな勢いで入口の扉が開いた。そして飛び込んできたのは、濃い茶色の影だ。が、私の放った十四.五ミリ弾によってすぐ店の外へと弾き出されていった。

 今の一撃は影の胸の辺りを貫いた。その確信がある。にもかかわらず弾き飛ばされたモンスターはすぐさま店の中へと舞い戻ってきた。

 低く唸り声を上げ、胸から血を垂れ流して駆ける。赤い瞳が私を捉え、撃ち抜かれた恨みを晴らそうと言うのだろうか、口を大きく開けて喰らいつかんと跳躍した。


「シオ」


 けれどその牙が私に届くことはない。

 シオが私の横を駆け抜け、飛びかかった敵を蹴り飛ばす。不意打ちにも近いその一撃はモンスターの顔面を捉え、店の床でバウンドして転がっていく。

 そこに。


「ふっ――!」


 天井付近まで舞い上がったシオが、剣を敵の胸へと突き立てた。体重の乗った一撃。それがあっさりと敵の体を貫通して床に縫い止め、少し四肢をばたつかせた後で完全に動きを止めた。

 銃口を倒れたモンスターに向けながら近づく。なるほど、インモータル・ハウンドだったか。このモンスターは心臓を二つ持つ特殊な肉体をしていて、心臓を貫いたと思ってもすぐに起き上がって油断した相手に食らいつく、そんな厄介な敵だ。

 名前には「不滅」の意味が入っているけれど、別に不滅というわけでもない。現に私の目の前にいるモンスターは完全に死んでいる。こうして二つの心臓を潰せば倒せる敵だ。

 さて。

 これで私たちを理解して頂けただろうか。アルブレヒトへ振り向こうとすると、そこに拍手が鳴り響いた。






お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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