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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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1-3.その特徴を思い出せない





 保管庫のドアを開けるとヒンヤリ、というよりも冷気と表現する方が適切と考える冷たい空気が流れ出す。実際この中は冷凍庫と同じくらい冷やされていて、肉だけでなく換金前のモンスター素材も多く保管してある。これのおかげで素材集めの都度、わざわざギルドまで赴かなくても良くて重宝している。

 さて。クレアが要求したのはゲァ・ピッグの熟成肉。果たしてどこに置いただろうか、と考えて、それから気づいた。

 ゲァ・ピッグの肉とはどんなものだっただろうか。おそらくは一目で分かるような特徴的な物だと推測できるけれど、その特徴というものを私は思い出せなかった。ここでも私の記憶力の悪さが出てしまって少々もどかしいのだけれど、思い出せないものはしかたない。

 エドヴァルドお兄さんも「思い出せないものを思い出そうとしても時間の無駄だ」と言っていた。なので素直に知っている人に尋ねることにしよう。ということで一度店の方へ戻り、キッチンに顔を出した。


「クレア」

「おう、持ってきてくれたか。んならそこに置いといて――」

「申し訳ない。ゲァ・ピッグの肉はどんな肉だったか忘れてしまった。教えて欲しい」


 正直にそう伝えると、クレアが少し驚いた顔をした。付き合いの長い彼女は、棚に皿置き場のラベリングをしてくれるくらいだし、当然私の記憶力の悪さは知っているはず。そんなに驚くようなことでもないと思うのだけれど。


「あ、ああ……せやったか。ゲァ・ピッグは普通の肉より白っぽくて霜が降るくらい脂のしっかり乗った肉や。他ン肉とは明らかに見た目ちゃうからすぐ分かると思うで。確か、保管庫の右にある棚の真ん中の段においてたはずや」

「了解。感謝する」


 保管庫に戻ると、クレアが言うとおりの特徴の肉が言うとおりの場所にあった。良かった。時間のロスは最小限で抑えられた。せっかくのお客様に不愉快な思いをさせずに済みそうだ。

 胸を撫で下ろしてクレアに肉を渡し、ホールへ戻るとクァドラさんはコーヒーを飲みながら隣に座るマイヤーさんたちと交流を深めているようだった。アルコールのせいもあるだろうがマイヤーさんたちの声も弾んでいて、見る限りクァドラさんも楽しそうである。シオも会話に加わって、今は彼が助けてもらった時の話をしているらしかった。


「――っていう感じで、急に襲いかかられたところを離れたところから一撃! 大怪我も覚悟しましたけど、おかげで無傷で済んだんです。ホント、すごかったですよ!」

「へぇ、ダークハイエナを一発でねぇ。あれって確かB-2ランクだろ? そいつを一撃ってことは、クァドラさんはB-1以上ってことか……っと、ワリぃ。他所様のクラスを予想するなんて、不躾だったな」

「はは、構わないって」頭を下げたジルさんにクァドラさんは軽く首を振った。「これでもA-3クラスのライセンスは持ってるんだ。とは言っても、ここに来てからはまだ日が浅いから迷宮構造やモンスターには詳しくはないんだけどな」


 話を聞く限りだと、彼女は最近この街に拠点を移したらしい。

 迷宮のライセンスは基本的に迷宮ごとに与えられる。なので別の迷宮でAクラス以上でも場所が変われば、少なくともB-3クラスから上げていかなければならない。にもかかわらずすでにA-3クラスまで上げているとなれば、十分な力量を備えた探索者なのだと推測できる。


「そうそう、さっき俺らで話をしてたんだけどよ、最近姿を見せ始めた十人くらいのはた迷惑な探索者グループの事、知ってるかい?」

「十人くらいの……? ああ、たぶん知ってるよ。窓口を占領して暴力沙汰も起こしたとかなんとかいうグループのことだろう?」

「ああ、知ってんのか。なら大丈夫か。他所から来たってんなら、ひょっとして知らねぇんじゃねぇかと思ったんだが」

「気遣いに感謝するよ。先日、私もそいつらに遭遇してさ。もう帰るところだったから被害は無かったけど、迷惑な連中だよな。ここは大きな街の割にはトラブルも少なくて、探索者にも優しい街だから過ごしやすいと聞いてはいたんだけど」

「外じゃそんな評価になってんのかよ?」

「誇らしい話じゃあるがな」マイヤーさんがボヤキながらジョッキを傾けた。「ま、実態はそんな特別良いもんでもねぇさ。迷宮都市なんて、どこも似たりよったりだと思うけどな」

「けど、他所の迷宮か……」


 ジルさんが不意に頬杖をついてため息を漏らした。少し赤らんだ顔で何処ともなく見つめ、独り言のようにつぶやく。


「同時期に探索者になった奴らの中には死んじまった奴もいるし、最近になって見なくなった連中もいる」

「万物は流転するし。なんでも少しずつ変化するもんだし」

「違いねぇ。この街も変わっていってるってことだろうな」

「もしこのまま連中が居座り続けて雰囲気が悪くなれば」マイヤーさんがジョッキの中身を一気に飲み干した。「一度、別の街に移ることも考えて良いのかもしれねぇな」


 少しさみしげにこぼし、ジルさんと同じようにぼんやりと虚空を見上げる。

 もし彼らがいなくなったら私は寂しく思うだろうか。もちろん他所の街に移らずにこの街に居続けてほしいけれど、マイヤーさんたちがその決断をした時にはそうありたい。

 そうであれば、私も変わっていっていると言えるだろうか。そんな思考にふけっているとキッチンからクレアに呼ばれて我に返った。

 もし、私も変わっているのであれば嬉しいことだ。たとえそれが牛歩のような進みであっても。自身の変化へ期待を抱きながら頭を切り替えて、私はキッチンへと向かっていったのだった。





お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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