5-4.私はこれを片付ける
部屋に到着すると同時に放ったミサイルの爆炎を背に、私は倒れたシオの体を抱え上げた。
左腕は不自然な向きに曲がって、頭部からの出血は多量。脚からもそれなりの出血が見られるし、控えめに言っても重傷と表現して差し支えない。
けれども、生きていてくれた。間に合った。シオの体からは間違いなく温もりが伝わってくる。胸の奥で疼いていた震えるような痛みはどこかに消えて、空いていた穴を埋めるように暖かさがあふれてきた。
これが、安堵。言葉として知っていたその感情を実感し、私の表情筋が自然と動いていく。
「ちょ、ちょっとぉ! 止まってよぉ……! あいったぁっ!」
振り返れば、降りる途中でパージしたアレニアが、十五階層と繋がってる孔から放り出されて悲鳴を上げていた。
「あいたたたた……ちょっと、ノエル!」
強かに打ったらしいお尻をさすりながらアレニアが抗議してくる。
彼女の抗議は妥当。申し訳ない。だけど軽量化のおかげで間に合った。
「だからって途中で放り出すなんてひどくない……って、シオ!?」抱えたシオを目にしてアレニアが駆け寄ってきた。「シオっ! 大丈夫!? ねぇっ、目を覚まして! ノエル、シオは……?」
「大丈夫、生きている」
生存を伝えると、シオの体にすがっていたアレニアが大きく息を吐いて崩れ落ちた。目を見ると涙が滲んでいる。当たり前だけど、気丈に振る舞っていても彼女も相当に心配してたみたい。
「よかっ、たぁ……! このバカ……」
「だけど容態は重傷。出血もまだ多い。アレニアにはシオの応急手当をしてほしい。それと」私は右を向いた。「レオポルド・フランコ。彼の救出と手当も依頼したい」
まだキチンと容態は確認できていないけれど、さっき僅かに彼の脚が動くのが見えた。
ギルドからの救助依頼の対象者でもあるし、何よりも、シオが頑張って一人でもここまで守り抜いた人間だ。生きているなら見捨てることなどできるはずもない。
「オーケー、任しといて。でもノエルはどうするつもり?」
「私は――」
「■■■■■ッッッッッッ――!」
シオをアレニアに渡していると、ミサイルによって立ち込めた煙を突き破って敵が姿を現した。
「これを片付ける」
「■■、■■■ッッッ――!」
音が大きすぎてもはやノイズでしかない咆哮に私は顔をしかめざるを得ない。音量調節ができないものか、と考えていると、ロックワームはその頭をまっすぐに私に叩きつけてきた。
だけど、避けることはしない。
開けた大きな口が私を飲み込もうとしてくる。無数の鋭い牙をきらめかせ、私に激しく激突。勢いそのままに、私ごと壁に頭を突き刺す形で静止した。
「げほっ、ごほっ……! ノエル……? ノエルっ!!」
「大丈夫、問題ない」
直前で避けたアレニアが咳き込みながら私を呼んだ。だけど飲み込まれてはないから安心して欲しい。
敵の大質量のせいで壁にこそ押し付けられているものの、私の手足はまっすぐ伸びて敵の顎を押し広げている。敵もさっきから何とか口を閉じようとしてくるけれど――
「貴方の希望は叶わない」
ここで敢えて飲み込まれてみるのもアリかもしれない。そんな考えが過ったけれど即座に却下。消化液でベトベトになるのはさすがに私としても遠慮したい。
なので片腕で敵の上顎を支えながら、右腕を変形。ガトリングモードになった腕を正面に向け、私はつぶやいた。
「――スイッチ」
瞬間、凄まじいマズルフラッシュが敵の口内を照らした。轟音を響かせ、弾丸が次々に体の奥へと飲み込まれていく。
「■■■ッッッッ!?」
ロックワームが、さっきまでとは逆に口を開こうともがく。体をくねらせて私から逃れようとしてくるので、ならその期待に応えてあげることにした。
敵の口から抜け出す。そして力付くで敵の口を閉じさせるとバーニアでその頭を持ち上げてから私は放り捨てた。
「……うっそぉ」
アレニアの声を聞き流しつつ横倒しになったロックワームを見下ろす。シオたちが頑張って傷つけたのだろう。全身のあらゆるところから血を流している。だけどまだまだ元気な様子であり、器用に体をくねらせるとまた元の体勢に戻って私を見上げた。
これなら都合が良い。私は再び銃口を敵へと向けた。
再度銃声が鳴る。マズルフラッシュを浴びながら弾丸がほぼ全てロックワームに着弾していることを確認。並のモンスターであれば孔だらけになっているはず。だけどさすがはロックワームと言うべきだろうか。分厚い肉と粘液で濡れた表皮に衝撃が吸収されて肉体を叩いているだけだ。
けれど、それも予想通り。そして私の狙い通りにロックワームは完全に私をターゲットとして定めたらしい。
「■■■■ッッ!!」
近くにいるアレニアたちには目もくれず一目散に私へと向かってくる。怒りは頂点に達したようで、大口を開けて今度こそ齧りつこうとしてくる。けれど、わざわざ汚れるために喰われてあげる必要性は皆無。バーニアを噴射してかわすと、そのまま私は十五階層へ伸びる孔へと飛び込んだ。
敢えて速度を落としながら飛行して振り返ると、ロックワームは自分で作った孔を拡張しながら追いかけてくる。どこまで行っても逃さないつもりらしいけれど、壁に体を打ちつけながら登ってきて痛くないのだろうか、などと考えてしまう。
だけれど、それも無駄な思考。どうせもうすぐ痛みすら感じなくなるのだから。
孔の中を飛び続け、程なく十五階層に到着して広い空間に飛び出す。するとロックワームもその勢いのまま飛び出して頭を天井にぶつけた。
さすがにロックワームに飛行能力はないので崩落した岩石と一緒に落下して、盛大に土煙と轟音を撒き散らす。が、ダメージは無いようで、すぐさまさすがの頑丈さで体を起こし私を威嚇するように顔を向けてきて。
そして、そこで動きを止めた。
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