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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード5「カフェ・ノーラと危険な救助」

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4-1.フランコさん、ですか?




 クァドラが教えてくれた場所へ辿り着くと、シオはすぐに彼女が言っていたくぼみを見つけた。

 一見すると単なる壁だが注意して見てみると確かに細長くくぼんでいて、ちょうど人が一人二人は座れそうなスペースがあった。そこに這いつくばってみれば本当に奥へと続く道があって、さらにはそこを何かが這っていったような跡まであった。

 さすがにリュックを背負ったままでは中に進めない。なので中から食料と水、応急手当用の道具など最低限の物だけを取り出し、シオはその細く狭い道を這い始めた。

 自分は細身だから比較的余裕があるが、これが筋骨隆々な探索者――たとえばランドルフみたいな――だったらきっと通れないだろうな。そんな事を考えながら少しずつ進み、やがてその距離が二十メートルくらいに達しようかという頃、道が終わりを告げた。


「うわぁ……」


 道という名の孔から這い出した途端、シオの口からは思わず感嘆が漏れた。

 そこは直径二十から三十メートルほどの、半球状の空間だった。クァドラが口にしていたとおりまだ未発見のエリアなのだろう。普通なら一つ、二つは必ず設置されている魔導照明は一切なくてかなり暗い。けれども壁から天井にかけて一面がまるで星空の様にきらめいていた。

 それは表出した魔晶石によるものだ。腰に下げた僅かなランタンの灯りを反射して作り出す美しい光景に、シオは目を奪われた。


「まだ誰も手をつけてないと、こんなにもキレイなんだ……」


 迷宮の出来立ての頃はきっと、どこにでもこの景色が広がっていたのだろう。長い年月の間に人間によってどこの迷宮も表層は掘り尽くされているだろうから、こんな光景は滅多にお目にかかれない。自分の幸運にシオは感謝した。

 しばし呆然と見上げていたが、響いてくる何かを掘る音にシオは気づいた。音の方へ振り向く。すると、暗い空間の中で一箇所だけ光が漏れていた。

 目を凝らす。やがて人の背中が見えてきた。傍らに小さなランタンが置かれ、広大な空間に比べて心もとない光量の中、その男性は一心不乱に剣を壁に突き立てていた。


「……フランコさん、ですか?」


 よほど集中していたのだろう。シオが恐る恐る声をかけるとその背中がビクッと大きく震えた。シオ同様に恐る恐るその人も振り返れば、ランタンに照らされてその顔がシオにもハッキリ確認できた。中年らしいシワの刻まれた顔に口元を覆うヒゲ。間違いなく、フランコだった。


「誰だ、オメェは?」

「あ、ええっと……シオ・ベルツって言います。フランコさんが迷宮から帰ってこないのでギルドから依頼されて捜索に来ました。あの、フランコさんで合ってます……よね?」

「ああ、俺がフランコだよ。そう、そうか。しくったな、もうそんなに時間経っちまったのか」


 フランコは舌打ちをして乱れた髪をかきむしった。態度は悪いが特に怪我などした様子もなく、顔に疲労こそ見られるものの衰弱した様子もない。シオは軽く息を吐いて安堵した。


「こんな場所で何してたんですか?」

「決まってんだろ、魔晶石を掘ってんだよ。これだけ高品質な魔晶石、そうそうお目にかかれねぇ。掘らねぇ手はないだろ」


 言われてシオは壁に近づき、表出している魔晶石の表面を指先で撫でた。シオに魔晶石の鑑定眼など無いが、なるほど、確かに普段集めている魔晶石よりも大きく、透明度も高いような気がする。僅かな光にここまで反射することもない。ひょっとして、自分では目にしたこともない高値が付くのだろうか。

 フランコの傍らにある小振りのバッグを見れば、パンパンに膨らんでいた。これだけの量があれば果たしてどれくらいの額になるのか、見当もつかない。


「おい、オメェ、ギルドから依頼されて来たっつったな?」

「え? あ、はい。そうです。フランコさんと一緒に潜っていた人たちからギルドに通報がありまして」

「ちっ、余計な事を……」


 苛立たしげにフランコはもう一度舌打ちをした。大儀そうに息を吐き出して天井を仰ぎ、ブツブツと何かをつぶやきながら自分のバッグに視線を落とす。そしてシオの方を横目でジロリと見つめた。


「食料や水ももうほとんど残ってないんじゃないですか? 一旦僕と一緒にギルドに戻りましょう。皆さん心配してますよ」

「ハッ……いったいどこの誰が俺のことを心配するってんだ」


 そう吐き捨て、それから彼は「俺ぁ帰らねぇよ」とシオに告げた。


「ここに残るって言うんですか!? 食料とかはどうするんですか!?」

「食料なら――そこにあるだろうが」


 フランコは半笑いを浮かべ、ジトっと粘り気のある眼差しでシオを見つめる。

 魔晶石を掘るために逆手に持っていた剣を握り直す。そしてその切先をシオへと向けた。その動作に、シオは彼が何を考えているか想像がついた。それでも問わずにはいられなかった。


「……何をするつもりですか?」

「決まってるだろ、お兄さんよ? オメェが持ってきてる食料と水、全部こっちへ寄こしな」

「剣なんて向けなくてもあげますよ」


 向けられた剣先に集中しながら、シオは持っていた食料類をゆっくりと足元に置いて下がった。フランコは視線と剣をシオから外さずに近づき、それらを手に取って後ろへと放り投げる。緊張が流れたが、ひとまずは斬りかかられなかった事にシオは安堵した。


(ノエルさんに手を出した時点で分かってはいたつもりだけど……)


 こうも簡単に人に刃を向けてくるなんて。やっぱり彼女を連れてこなくてよかった。そう思いながらジリジリと下がってフランコから距離を取ろうとする。

 だが。


「どこに行くつもりだ?」

「……貴方が無事だって分かったので引き返そうかなって」

「逃げられると思ってんのか?」


 フランコが体勢を変えて剣を腰だめに構える。いつでも斬り掛かれる姿勢だ。シオもすぐに腰のショートソードに手を伸ばすが、フランコも脚を動かしてシオを牽制した。

「どうせ逃げたらこの場所を報告するんだろう?」

「そりゃあ……未発見の場所ですし」

「なら逃がすわけにゃいかねぇな。ここは俺が見つけた宝の山だ。誰にも譲らねぇ」


 フランコの瞳がギラギラと輝いていた。口の端だけを吊り上げたその不気味な笑みに、シオは彼の本気さを悟った。


「……分かりました。誰にも言いませんから、その剣を下ろしてください」

「そんな口先だけの言葉、信じる馬鹿がどこにいるんだよ。なに、逃げさえしなきゃ殺すなんて野蛮なことはしねぇさ。ただ、もうしばらく俺と一緒にここで生活してもらうぜ」

「いずれ誰かがここを探し当てますよ……?」

「だろうな。ギルドから依頼されて来たオメェが帰ってこなきゃ、また別の人間が探しに来るだろうよ。だからそれまでに目一杯ここの魔晶石を掘りまくってから換金する。カバンいっぱいに詰め込めるだけ詰め込めば、当分の間は遊んで暮らせる。それか新しい商売を始めてもいいな。いずれにせよオメェがここから出られんのは、俺が脱出して身を隠してからだ。運が良けりゃ生きて帰れるさ」

「そこまでしてお金が欲しいですか」


 確かにリュックいっぱいに詰め込めば、相当な額になるだろう。シオだってお金は欲しい。けれど、誰かを傷つけてまで手に入れるものじゃない。

 しかしフランコは、そんなシオの言葉を鼻で笑い飛ばした。


「ああ、欲しいね。どんな事をして稼いだって金は金だ。金がありゃ人生なんて簡単に変わる。こんな、いつ死ぬかも分かんねぇ仕事ともおさらばだ。安っぽい義手じゃなくってもっと立派な腕に付け替えることだってできるしな」


 そう言ってフランコは自らの左腕を掲げてみせた。防具で隠れてはいるが、鈍色に光を反射するそれは彼の言うとおり義手で、ずいぶんと使い込んでいるのだろうか、あちこちに傷が入っていた。


「ま、そんなわけだ。抵抗せずに大人しくしといてくれると俺も余計な体力を使わずに済む。お互い賢くいこうや――」


 ニヤッと笑ってフランコが一歩前に出ようとした、その時だった。

 足の裏から小さな振動が伝わってくる。最初はわずかに感じる程度だったそれが、瞬く間に大きな揺れとなって動くこともままならなくなるほどになっていた。


「な、なんだぁっ!?」

「これは……」


 地震とも違う、地面が砕けるような不吉な音が近づいてくる。やがて自分の足元に亀裂が入ったところでシオは怒鳴りながら横っ飛びに転がった。


「避けてくださいっっ!」


 こういった危機の経験は何度もあるのだろう。シオの声にフランコはすぐさま反応して飛び退き、シオの隣に転がってからすぐに体を起こした。

 直後。


「■■■■ッッッッッッッッッッッ――!!」


 地面を割って、細長いワーム型モンスターが頭上高くまで舞い上がった。





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