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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード5「カフェ・ノーラと危険な救助」

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3-2.また会えるといいね



 回避は間に合わない。シオは直感で悟った。

 反射的に体が防御態勢に移る。両腕を上げ、頭部を守るようにして身を強張らせた。それでも腕の隙間から敵の姿を捉えようと無意識に試みる。

 迫りくる影のシルエットだけは把握できた。巨大な犬のような形の何かが飛びかかってきていて、大きく開けた口の中できらめく牙がシオの目にハッキリと映った。それがまもなく襲ってくるだろう激痛を想像させて、彼の体が恐怖に震えた。


「え……?」


 しかしその牙がシオに食らいつくことは無かった。

 敵がシオにぶつかる直前に銃声が鳴り響く。放たれた銃弾が敵を空中で貫き、跳ね飛ばされて転がった。

 倒れた敵はダークハイエナだった。B-2にランク付けされ、黒い体毛を利用して迷宮の暗がりで息を潜め、今のシオのように別のモンスターと戦い終えて緊張が解けた瞬間に奇襲を仕掛けてくるモンスターだ。もちろんこのモンスターの事はシオの頭にもあったが、トロル二体との戦いで完全に頭から抜け落ちていた。

 倒れたダークハイエナを見れば、まだ息がある。が、撃ち抜かれた場所から血は流れておらず、代わりに傷跡から煙が立ち昇っていた。

 傷口周辺の毛が燃えて橙色に輝き、敵から漏れる苦しげな息遣いが聞こえてくる。そこにダークハイエナを撃ち抜いた人物のものと思しき足音が聞こえ、シオは振り向いた。

 近づいてくる人物は女性だった。背丈は女性にしては大きく、シオよりも頭半分ほど高い。元は南方からの移民なのか浅黒い肌をしており、紅いつややかな後ろ髪をアップにまとめている。

 シャツとズボンの上に胸当てと手甲だけを着けたシンプルな装備で、その両手には大振りのハンドガンが握られていた。シオが使うよりもずっと大きな口径のそれを彼女は口笛を吹きながらクルクルと指で回して腰のホルスターに仕舞い、シオの横を通り過ぎた。

 そして。


「……!」


 彼女が指をパチンと鳴らす。その瞬間に倒れていたダークハイエナの全身から凄まじい焔が舞い上がった。

 シオの背丈よりも遥かに高くまで焔が立ち昇る。煌々とした光とともに発せられる激しい熱が、離れているシオの皮膚をジリジリと焼く。しかし自分よりもずっと近くでその光景を眺めている女性は涼しい顔をしていた。

 やがて一分もしないうちに焔が収まっていく。焔が消えた後には毛皮も肉もなく、煙を上げる骨と牙だけが残っていた。どうやら彼女の焔魔導による攻撃だったようだが、それにしてもとんでもない威力だ。初めて見る人だけど、高位の探索者だろうか。焔が消えてもしばらくの間シオは呆然とダークハイエナの骨を眺めていた。


「君、大丈夫かい? 怪我はないかな?」


 まだ熱いだろうダークハイエナの遺体から、ひょいっと熱さを感じさせない手付きで牙の部分だけを拾い上げると、女性はシオの方を振り向いてニッと笑った。女性ではあるがどこか男臭さを感じさせる仕草で、しかしハッとさせるような美人でもあった。豪快さと女性らしさがミックスされたその笑顔にシオも赤面して、だがすぐにブンブンと頭を振って過った邪念を追い払うと、気持ちを落ち着けて礼を口にした。


「は、はい。おかげさまで。ありがとうございました」

「なぁに、偶然さ。ちょうど通りがかったところで、ダークハイエナが君の背後にいるのに気づいたからさ。ひょっとして、余計なお節介だったかな?」

「とんでもないです! トロルに気を取られて全然気づいてませんでした……」


 本当に良かった、とシオは心の底から安堵した。これで怪我でもして帰ろうものなら、ノエルやクレアからなんて言われるか。と、同時に戦闘に夢中で周りが見えてないなんてまだまだ未熟だな、とシオは肩を落とした。

 するとその頭に女性の手がぽんっと乗っかった。


「ま、怪我がなくて何よりだよ。それに、そう落ち込む必要はないって。トロルとの戦いを見てたけど君も十分すごかったよ。ここに一人でいるって事はB-2クラス以上なんでしょ? 君くらいの歳でアレだけ動けるんなら将来有望、有名探索者として名を馳せるのは間違いないね!」


 ガシガシと頭を乱暴に撫でつつ励ましてくる。胸が目の前に迫ってきてシオは顔を赤くして逃げようとするが、女性はお構いなしに豪快に笑いながら撫で回すばかりだ。

 結局シオはなされるがままだったが、しばらく撫でてようやく気が済んだらしく、彼女はシオに手を出すよう指示するとその手にダークハイエナの牙を握らせた。


「だ、ダメですよ! お姉さんが倒したのに……」

「良いって良いって。別に私はそいつを目的に来てるんじゃないし」


 返そうとしたシオだったが強引に握らせられて、女性も退く様子がない。なので申し訳ないな、と思いつつもありがたく頂くことにした。


「それじゃ私は行くとしよう。この先も十分気をつけて」

「あ、そうだ! ええっと……すみません。この人、見かけませんでしたか?」


 牙を仕舞おうとしたところでシオはリュックに入れていた紙を目にし、慌てて女性を追いかけ尋ねた。ひょっとしたらフランコを目撃してないか、と思って期待してみたが、すると女性は「そういえば」と、口元を撫でた。


「それっぽい人を見たような気がするね」

「ホントですか!? どこでですかっ!?」

「ええっと、ね」女性が指先を頭に当てた。「この階層の、こっからちょうど反対側くらいの所になるかな。左手側に休めそうなくぼみがあったんだけど、そこで座って休んでた人がいたよ。たぶんその人じゃないかな?」


 話を聞いてシオの中で期待が膨らんだ。


「どれくらい前ですか?」

「もう結構前だよ。半日は経ったかな? 三十分前くらいに見た時はもういなかったけどね」


 それを聞いて少しシオは落胆したが、それでも初めての重要な目撃情報だ。しかもフランコはちゃんと生きている。

 ともかくも行ってみよう。シオがお礼を口にしようとして、けれどそれより先に女性が「そうそう」とさらなる情報を教えてくれた。


「そのくぼみの所をよく見ると、細ーい通路みたいなのがあったんだよね」

「通路、ですか?」

「そ。這ってなんとか通れるくらいの。ギルドの地図にも乗ってなかったと思うし、もしかしたら未発見の場所かもしれない。何があるか分からないし、そこまで興味もなかったからスルーしたけど、ひょっとすると君の探してるその人もその奥に潜ってるかも。だからそこも覗いてみたらどうだい?」

「分かりました! 見てみます。ええっと……」


 改めて礼を述べようとして、シオは言い淀んだ。助けてもらったわけであるし、できれば名前を聞いておきたいと思ったのだが、自分から聞くのはなんだか気恥ずかしくて、ついモジモジしてしまう。

 そんな彼を見て女性はクスッと笑った。シオがますます身を小さくし、そんな彼に女性は「可愛いなぁ、もう」と笑いながら自分から名乗った。


「クァドラだよ。知り合いはみんなそう呼んでる」

「色々と助かりました。ありがとうございました、クァドラさん」

「お役に立てたんなら良かったよ。んじゃ、縁があればまた会えるといいね、シオ(・・)くん」


 後ろ手を振りながら颯爽とクァドラは去っていった。その後ろ姿を眺めながらシオは「カッコいいなぁ……」とつぶやき、けれどすぐに首を横に振った。


「見とれてる場合じゃないや。教えてもらった場所に行ってみよう」


 リュックを背負い直し、ここまで来た道を小走りでまた戻っていく。初めて得られた有力な手がかりに胸を弾ませ、期待感がこみ上げてくる。だから、そちらにばかり気を取られて彼は気づかなかった。

 名乗ってもいないのに、クァドラがシオの名前を知っていたことに。




お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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