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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード5「カフェ・ノーラと危険な救助」

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1-2.またのご来訪、お待ちしています


「かーっ!! これだから若ぇのは! クソっ、役に立たねぇなぁ! もういい! 他の職員に変われ! お前じゃダメだ!」

「他の職員は忙しい。現在対応できるのは私だけ」

「いいから変われっつってんだろうがっ! ……いいか、俺はな、ギルド長のランドルフにも顔が利くんだ。俺の機嫌を損ねたらお前、仕事を失うことになるぞ?」


 だから、事をこれ以上荒立てたくなかったら俺の言うことを聞け。酒臭い息を撒き散らしながらフランコが迫ってくる。

 のだけれど。


「分かった」

「よし、なら――」

「私もランドルフとは懇意にしている。呼んでくるので一緒に交渉してほしい」


 そう言って立ち上がった途端、フランコの心臓が跳ねる音が聞こえた。そして急に落ち着きを無くして私の腕を掴んできた。


「も、もう夜も遅いしな。アイツも寝てるさ。わ、わざわざ寝てるところを起こす必要はねぇ。今、この場でアンタが対応してくれりゃいいだけの話さ。な?」


 さっきとは打って変わって猫なで声でフランコは私を座らせようとしてきた。

 正直なところ、彼がハッタリを言っているのには最初から気がついていた。ランドルフの名前を口にした辺りから急に彼の鼓動が速くなって、目も泳いでいたから。

 しかしながらここで私が嘘に気づいているとバラす理由もない。


「大丈夫。彼はいつも深夜まで起きて執務にあたっている。呼べばきっと来てくれるから安心して欲しい」


 彼の制止を振り切ってランドルフを呼びに行く素振りを見せる。

 すると――


「だからお前が言われたとおり金を準備すれば良いって言ってんだろうがっ!」


 フランコが完全にカウンターから身を乗り出した。焦りと怒りか、声を大きく荒らげて私の肩、そして喉元に手をかけた。一連の行為を目撃していた隣のカウンターから悲鳴が上がる。けれど、心配はしなくていい。

 喉元に触れているフランコの腕を、私の義手がつかむ。少し(・・)力を入れてひねり上げると、隣の職員とは別種の悲鳴がフランコから上がった。


「ひぎぃ……は、離せ……!」

「ただ今の行為を、ギルド職員への暴行と認定。探索者規則第二条第三項違反とみなし、強制排除へ移行します――お引き取りください」


 彼の手に、最初に提示したお金と明細を握らせる。それから彼の腕をつかんだまま私もカウンターを乗り越え、バシバシと必死に私の腕を叩いてくるフランコを無視して引きずってギルドの扉を開けた。


「またのご来訪、お待ちしています」


 そして私は、彼を深夜の街へと放り捨てたのだった。





 お酒に飲まれて物事の道理を失ったお客様――もとい探索者に強制的にお帰り頂いてからは、ギルドは至って静かだった。

 深夜だからやってくる探索者たちも騒ぐ元気が無いというのもあるのだろう。みんな業務上の会話しかなく、文句を口にすることもないため業務は至極スムーズ。耳障りな物音も少ないため、私にとっても非常に快適な環境だ。別に私の行動がもたらした結果ではない。そのはず。

 日付が変わって時計の長針が二周りする頃になると、さすがにもう探索者たちもほとんどいなくなった。ポツポツと、疲労困憊で今にも倒れそうな人が重い足を引きずってやってくることはあるけれど、そういう方には朝まで休憩スペースで休んで頂けることになっている。そして、残念ながらそこまでたどり着けずに寝落ちしてしまった人をベッドに運ぶまでがお仕事。しかし私の力ならそう大した問題ではない。


「ノエルちゃんがいてくれて助かるわ。ありがとう」

「礼を言われることではない。これも職員の業務」

「でもいつもだったら、女手二人がかりでなんとか運んでるもの。探索者さんたちって大柄な人が多いでしょう? 二人どころか三人がかりでも大変なのに、ノエルちゃんのおかげでずいぶんと楽ができたわ。できれば毎晩ギルドに勤めてほしいくらい」


 そう褒められると、私も悪い気はしない。人間とは言えないこの体だけれど、戦争や戦闘以外でも役に立つのだと言われると、この体にも意味があるのだと思えて少し嬉しかった。

 さて。

 私の依頼された業務は翌日の朝八時まで。ではあるものの、朝の五時頃にもなるともう探索者たちはほとんど来ない。今も、朝からやる気に満ちているのか熱心にボードの依頼票を見つめている人間が一人いるけれど、私も他の職員も窓口に座っているだけ。やることはない。


「ノエルちゃん、もう今日は上がっていいわよ」


 そうして時間だけが過ぎて六時になろうかという頃、隣に座っていた職員がそう声を掛けてきた。だけれど、まだ契約の時間になっていない。


「大丈夫。探索者さんたちはみんな朝遅いから、しばらくこんなペースでしか人は来ないもの。後は正規の職員で回せるし、ノエルちゃん迷宮から通ってるんでしょ? 帰るのに時間かかるし、手待ちが増えたら先に帰してしまっていいってランドルフさんも言ってたから気にしなくていいわよ」


 そう。ならお言葉に甘えさせてもらおう。

 荷物をまとめ、いつもとは違う小さなリュックを背負う。それから残って業務をする職員たちに「お疲れ様でした」と声を掛けてペコリと挨拶をすると、彼女たちは手を振って見送ってくれた。やはりエドヴァルドお兄さんが言っていたとおり丁寧に挨拶をすると好意的に対応してくれる人間が増えるらしい。

 ギルドからまだ薄暗い街へと出る。夏が終わって短い秋も終わりに近いから、早朝の朝はかなり気温が低いものと推測する。それを示すように静まり返った街を歩く人たちは幾分厚着をして、寒そうに背中を丸めて歩いている。もっとも、私は暑さも寒さもほとんど感じないのだけれど。

 ギルドのすぐ隣りにある、迷宮の入口へ脚を向ける。と、そこで私は脚を止めた。


「……しまった。忘れていた」


 そういえばクレアにお遣いを頼まれていた。スイーツを作るための食材を朝市で買ってこいとのお達しを受けていたのだった。

 朝市は早い時間から営業しているけれど、当然まだこの時間だとやっていない。しかたない、街を散策して時間を潰そう。そう決めて体を反転し、静かな街を私は歩き始めた。

 街路に止まった小鳥のさえずりを聞き、橋を渡って街を流れる運河のせせらぎに耳を傾ける。やはり人が少ない時間の街は心地いい。聴力が異常に優れている私にとって、この程度の、普通の人間にとっては聞こえるか聞こえないかくらいの小さな音がする環境が私にとって最も落ち着ける。

 そうやって朝の街を楽しんでいると、ふと後方に人の気配を感じた。






お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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