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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード4「カフェ・ノーラと過去の亡霊」

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4-1.誰かがモンスターに襲われてる!

 私がハンネスと接触してから数日が経過した。

 だけれどもその間の日常に何か変化があったわけではない。

 店で静かに客が来るのを待ち、飛び込んできたモンスターを撃退して素材を剥ぎ、時々魔晶石集めに迷宮内へ繰り出すといういつもどおりの時間を過ごしただけ。ギルドに電話してサーラにも尋ねてみたが、ハンネス絡みの新たな動きは今のところ私には届いていなかった。


「諦めてくれたんやったらエエんやけどな」


 私も同意する。私のことは完全に忘れて、リヴォラントのために新たな道を模索しててほしい。


「迷宮内に引きこもっとると、こういう時は状況がよう分からんのが困るなぁ」


 迷宮の外にいればリスクも高まる反面、情報も入りやすいからこちらも手を打ちやすくはなるのだけれど、こればかりはしかたがない。

 誰もいない店内――ロナは除外する――を眺めながらクレアとそんな会話をしていると、バックヤードからシオが少しはにかみながらやってきた。


「うん、中々似合っているよ」

「そ、そうですか?」


 ロナが褒めそやすと、シオが恥ずかしそうに頭を掻いた。

 奥から出てきたシオが身に着けていたのは、真新しい胸当てと手甲。両方ともクレア作で、モールドラゴンや二十五階層まで潜った時に集まった素材で鍛えたものだ。


「付け心地はどないや?」

「すごく良いです。いや、そんな言葉じゃ足りないですね。何て言えばいいんだろう……? 体に馴染むと言いますか、しっくりきます。それにこれ、防御力もかなり高いんですよね? 普通なら硬い装備は重いはずなのに、びっくりするくらい軽いです」

「ウチのスキルもうまいこと発動してくれたからな。しかも手応えも良好。そこらの連中がおんなじ素材使うて作ったもんより数段モノがエエんは保証するで」


 クレアのスキル<逸品制作クリティカル・プロセス>が発動して、しかも彼女が「手応えが良かった」などと口にしたのなら、品質としては最高に近いものだと推量する。


「でも良いんですか? こんな立派なものタダ同然で作ってもらって……」

「かまへんて、何度も言うとるやろ? 新しい加工方法の実験も兼ねた奴やし、素材はシオが自分で倒したモンスターのもんやからな。ま、それで納得できへんのやったら、遅まきながらBクラスにランクアップしたお祝いやと思うて受け取ってや。Bになったっちゅうのにいつまでも駆け出し探索者のスターターキット装備は恥ずかしいやろ?」


 クレアの装備、しかも最高品質に近いものなら、目玉が飛び出すくらいの高値がつくだろうけれど、それを口にするのは無粋というらしい。お兄さんが言っていた。


「えへへ……そうですね。なら、ありがたく頂いておきます。ありがとうございました。これで今日の探索も無事に帰ってこれそうです」


 生存確率はクレアの装備で確かに上がった。けれどどんな装備をしていても、死ぬ時は格下モンスターだろうが一瞬。十分気をつけて。


「そうですね、油断せずに十分気をつけて戦います」

「あとは、アレニアくんが来るのを待つだけだね。ならコーヒーでも飲んでゆっくりしたらどうだい?」


 ロナがすっとカップを差し出すと芳しい香りが私の嗅覚を刺激する。彼女は店員じゃないけれど、やはり彼女の淹れるコーヒーは格別だと思う。私やクレアが淹れてもここまで香りが立たない。今度改めて淹れ方を聞いてみよう。

 コーヒーを飲み、ほぅ、とため息をついてシオが少し頬を緩ませる。どうやら気負いも浮つきも消えた模様。きっとこの様子なら大丈夫。

 そうしていると何かが急速に近づいてくる気配を感じた。おそらくはアレニアだと推測される。


「シオ! ノエル! 二人ともいるっ!?」


 果たして、ドアが勢いよく開いて駆け込んできたのはやっぱりアレニア。シオと一緒に探索に行く予定で、時計を見れば概ね予定通りだけれど、彼女は初めて店に来た時と同じように慌てた様子だった。

 私もシオもいる。何があった?

 尋ねると彼女は私とシオの腕をつかんで店の外へと引っ張っていく。


「良かった、一緒に来て!」

「ちょ、ちょっとアレニア! どうしたんだよ、そんな急いで」

「誰かがモンスターに襲われてるのよ! たぶんB-2かB-1ランク! 見た感じ、結構ヤバげな雰囲気だったの! あのままじゃたぶん……殺される。だから急いで!」


 それを聞いてシオがこちらへ振り向き、私はうなずいた。

 獲物の横取りを疑われるトラブルを避けるため、戦闘に関しても第三者は不干渉なのが探索者共通の基本認識ではあるけれど、そんな状況であるなら話は別だ。

 今の私の存在意義。それを果たすため、応急手当グッズが入ったカバンを手に取ると、私はアレニアとシオの腕をつかんで店を飛び出したのだった。






 バーニアを噴射させ、地面を蹴りながら低空で第十階層を跳んでいく。速度を落とさないようカーブでは壁を走り、その度に背中のアレニアが必死にしがみついてくる。


「アレニア! どの辺り!?」

「っ、その先の右側の通路をくぐり抜けて、左に曲がったところ! たぶんまだ戦闘中! さっきから場所が変わってないから!」


 私に右手で引っ張られているシオが叫ぶと、アレニアも私の背中の上からスキル<鷹の目(サーチャー・アイ)>で得られた情報を怒鳴り返す。

 しかし、場所が変わっていないというのが気になる。アレニア、すでに対象が死亡している可能性は?


「それは無いわ! 死んだらマップからマーカーが消えるもの!」


 了解。であればまだ間に合う。

 体内の魔素を供給して再びバーニアを噴射、加速する。アレニアの指示どおり狭い通路を一気に抜け、壁を蹴って左へと曲がる。

 すると遠くに大柄なモンスター、そしてそれと戦っている男性の姿が見えた。


「ノエル! あのでっかいクモみたいなモンスターは何!?」

「アラクネスキュラ」


 アラクネスキュラは人間の倍くらいある蜘蛛型のモンスター。粘着性の糸や腐食性のある体液を吐いたりしてきて、B-1からA-3に位置づけられる。当然、この階層に本来居るべきでない強力なモンスターだ。


「ダメだ……! 攻撃がまるで通ってない……!」


 走りながら様子を観察すると、男性の動きは中々のもの。アラクネスキュラの攻撃を回避しつつも反撃に転じてショートソードで斬りつけている。が、シオの言うとおりダメージは与えられていなさそう。

 このクラスのモンスターならみんなそうだけど、基本的に表皮や外殻が固い。近接戦であれば魔導による補助が加わった武器、あるいは相当な逸品でなければ十分なダメージを与えるのは難しい。

 おまけにこのアラクネスキュラの特徴として――


「岩がっ……! 地属性魔導!?」


 アラクネスキュラの周りの石や岩が持ち上がっていくのが見え、シオが驚きを露わにした。

 このモンスターは地属性魔導を使用する。だから接近するのも中々容易でないし、岩石を叩きつけられれば大ダメージは免れない。

 アラクネスキュラが大小様々な岩石を発射する。男性も素早い動きで回避していくけれど、小さな一発が彼の脚をかすめ、バランスを崩してしまった。

 そうなると彼に為す術はない。後少しだけ持ちこたえてほしいという私の希望は届かず様々な岩石が降り注ぎ、男性の体を大きく弾き飛ばしてしまったのだった。

お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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