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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード4「カフェ・ノーラと過去の亡霊」

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3-2.やあ、小さなお嬢さん

 ギルドを出て私は足早に街を歩いていく。夕方も近く、買い物客が段々と増えてくる。その隙間を縫いながら手早く食材などを買い込んでいった。

 みるみるうちにしぼんでいたリュックが膨れ上がっていき、次第にすれ違う人からの視線も感じ始める。けれどどれも単に私に対する物珍しさに過ぎず、警戒は必要なさそうなので気に留めずにいた。

 そうして概ね買い物が終わり、警戒は杞憂だったかもしれない、と思い始めたところで私は気づいた。


(来た)


 雑踏の奥、約十五メートルくらい離れた場所から感じる微かな視線。道端にいた野良猫を撫でるふりをして立ち止まれば、その人物もまた立ち止まって人混みの中に姿が消えていった。

 尾行の腕は上々。諜報員としての実力は水準以上と推定される。視線や気配の消し方といい、おそらく尾行に気づける人間はほとんどいないと思料する。

 けれども相手が周囲に溶け込むまでの一瞬の間に、私の目はその姿を捉えていた。

 長身痩躯で髪はやや短く金色。顔は面長でややタレ目。精霊と融合したことで鋭敏になった感覚は日常だとうるさすぎて邪魔になることが多いけれど、こういう非常な事態の時には役に立つ。改造された自分の肉体に今ばかりは感謝した。


(思った以上に早い)


 昨日サーラに尋ねて今日、こうして私を追いかけている。もう数日かかるかと想像していたけれど、情報収集能力は侮れない。

 さて、真っ先に近づいてきたこの男はどこの国の諜報員か。猫から手を離し、再び歩きながら考える。

 聖フォスタニア王国かエスト・ファジール帝国か。国力を考えればその二国の可能性が高いのだけれど、他の可能性も除外できない。

 しかしいずれの国にせよ、私の対応は決まっている。

 リュックのベルトを握りしめ、私は走り出した。ただし速度は控えめ。雑踏を加味して、尾行している男がギリギリ見失わないレベルを意識して人混みを縫っていく。

 走りながら振り返れば、男が少々慌てた様子で追いかけてきているのが分かる。だけれどもあくまで冷静さは失っていないようで、むやみに距離を詰めてくるようなことはしない。


(思ったとおりで助かる)


 相手の優秀さに感謝しながらしばらく付かず離れずの距離を維持していたけれど、不意に私は路地へと曲がった。細く、大人がギリギリすれ違えるくらいの本当に狭い道だ。そこを二度ほど曲がるとすぐに行き止まりに行き着く。

 道を失って家の壁を前にすると、私はリュックを地面に置いた。それからすぐに義足のバーニアを噴射し、左右の壁を蹴りながら登って民家の屋根に隠れた。

 息をひそめていると、やがて遅れてやってきた男の姿を捉えた。リュックが巨大なおかげで、姿は直接見えなくても私がそこにいると思っているのだろう。ジャケットの胸ポケットに右腕を入れつつ誰もいないリュックに話しかけ、ゆっくり近づいていっていた。

 今。口に出さずにつぶやくと、私は腕を変形させ家の屋根から飛び出した。

 音もなく着地。気配に気づいた男が振り向く。が、それより前に彼の背中に銃口を押し付けた。


「銃から手を離し、両腕を上げて」


 銃口を通じて男の緊張が伝わってくる。だが取り乱すことはなく、ゆっくり、けれど私の様子を窺いながら指示通り両手を上げていった。


「やあ、|小さなお嬢さん《Kleines Fraulein》……できれば物騒な代物をしまって貰えるとありがたいのだけれど」


 それは貴方次第。ムダな抵抗をしなければ私もムダな行動をしなくて済む。


「……了解したよ。私もムダに痛い思いはしたくないからね」

「賢明な判断。用件を」

「迷宮内に住んでいるという人物のことを耳にしてね。どんな人だろうと興味が湧いて、その人物にアプローチしたかったんだ。いろいろと聞き込みをしてると、君に行き着いた。だからぜひ話をしたいと思ったのさ」

「なら尾行なんて真似をしなかったらいい」

「目立たないところで声を掛けるつもりだったんだ」

「銃に手を掛けながらする話は、ずいぶんと面白いものと推測する」


 私の指摘に男は苦笑した。そして首だけ振り返って私を見下ろす。容姿を見て、軽薄そうな笑みを浮かべていた男の表情が次第に曇っていった。


「腕に仕込まれた銃に、その義足……ひょっとして君がコード00――ノエルさんってことでいいのかな?」

「……」


 製造コードで呼ばれるのは久しぶりだ。そこまでの情報を得ているということは、やはりこの男、侮れない。

 私は否定も肯定もしなかったが、男は容姿から私がノエルであると確信を得たようだ。が、男はため息をつくと「何てことだ」と空を仰いだ。声色から察するに、ひどく困惑してるように私には聞こえる。


「ジョークの部類だと思ってたけど、まさか本当に少女だったなんて……」


 私の情報は数多く仕入れていたが、どうやら私が女性の、しかも十代だとは思ってもいなかったらしい。だけど、彼がどれだけ困惑しようと私には関係ない。

 銃を押し付ける腕に力を込める。


「貴方の所属している国を」

「……それはまだ教えられないかな?」

「素直に答えないなら結構」


 押し黙った男の脚を義足で蹴り飛ばす。

 男の口から押し殺した悲鳴が漏れて膝が折れ、頭の位置が私の目の前にまで降りてきたところで左手で髪をつかみ押し倒す。そのまま馬乗りになると、銃を背中ではなく頭に押し付けた。

お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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