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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード4「カフェ・ノーラと過去の亡霊」

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2-3.言うとくけど、バレバレやで?

 ノエルを見送って手を振っていたが、やがて彼女の大きな荷物が見えなくなるとシオは小さくないため息を漏らした。


「行っちゃった……」


 叶うならば彼女の荷物を分けてもらって一緒に外へと付いて行きたかった。けれどあそこまでハッキリと断られた以上、食い下がるのも露骨に下心が見えてしまうようで、諦めの悪い彼もあっさりと引き下がるしか無かった。

 店内に戻るとクレアはカウンターの奥でキセルを吹かせ、ロナは席で本を読みながらコーヒーを自分で淹れて飲んでいる。

 店にミノタウロスの巨体が寝転がっている点を除けば雇用を迫って通い詰めていた時から見慣れた光景であり、これがこの店のいつもの姿。ノエルだって常にホールに出ていたわけではないのだが、店からノエルがいなくなっただけでずいぶんと寂しくなったような心地をシオは覚えた。


(ダメだダメだ……!)


 いくら一緒に働けるようになったからといっても、こんな風にノエルが店を離れるタイミングがあることは分かっていたことだ。シオは頬を軽く叩いて気合を入れ直す。それから、店のど真ん中で倒れているミノタウロスを見下ろした。

 せっかくノエルから直々に仕事を仰せつかったのだ。ならばその仕事、きっちりこなして見せなければ。


「ふんっ!」


 まずは彼女が倒したモンスターの処理からだ。そう思ってシオはミノタウロスの脚を両手でつかむと、力をめいっぱい込めてバックヤードの方へ引きずり始めた。


「手伝おか?」

「い……や……大丈夫で、すっ!」


 そうは言いながらも、重い。一般の人に比べればシオも非力ではないが、探索者としては体格も小柄で、単純な筋力もまだまだ成長途中だ。

 ならば。カウンターの横まで引っ張るとシオは一度手を離して、呼吸を整えるために天井を仰いだ。


「これも鍛錬ですから。探索者としてもっと上を目指すためにも自分を鍛えないといけないですし」

「ふーん、さよか。シオがエエんならウチも別にエエねんけど」


 クレアがキセルをくわえなおし、もう片方の手でスパナをクルクル回してもてあそびながら眺める中、シオは肩を大きく回すともう一度ミノタウロスの脚を持ち上げた。

 だが。


「しっかしアレやな。こないにシオに想うてもろうとるのに、ウチの姫さんはいけずやな」


 これみよがしなクレアのつぶやきを聞いて、シオの手からミノタウロスの脚が滑り落ちた。そしてその固いかかとが思い切りシオのつま先に突き刺さった。ちなみに今のシオは探索者向けのブーツではなく、ちょっとおしゃれな靴を履いていた。


「ほぐわぁっっっ……!!」

「おうふ……大丈夫かいな?」


 クレアが痛そうに顔をしかめながら声を掛けるが、シオは痛みに震えながらも大丈夫だとばかりに手を上げて応じた。

 シオは後悔した。ノエルと一緒に働くから、と街の少し高めの店で買ったおしゃれな靴を履いていたのだが、それが完全に裏目に出た。そもそもこうやってモンスターが時々襲撃してくるのは聞かされていたのに、こんな戦闘に使えない靴を履いている時点でいかに自分が浮かれポンチのお花畑状態だったかが分かる。

 だが反省は後。それよりも――


「な、なななななんの事でしょう? べべべ別に僕はノエルさんのことはななな何とも思ってませんよよよよ?」

「わっかりやすいベタな動揺、ありがとうなぁ」


 クレアがニヤニヤ顔をしてくるが、シオはかすれた口笛を吹いて明後日の方向を向いた。が、額からはおびただしい汗が流れ落ちていた。

 おかしい。僕は一言もノエルさんのことは口にしてないはずなのに。どうしてバレてるんだ。

 シオは混乱の極みにあったが、クレアはそんな彼の様子を見ると頬杖をついて呆れた視線を送った。


「言うとくけど自分、バレバレやで?」

「……本当ですか?」

「むしろ隠せてると思うてたところがびっくりやわ」


 まさかと思いつつシオはロナへと視線を向けると、彼女もまたいつものように朗らかな微笑みを浮かべながら大きくうなずいた。


「こ、この事をノエルさんは……?」

「あの娘は人の心を察するのが致命的に下手やからなぁ。心配せんと、たぶんバレとらんで」


 それを聞きシオは胸を撫で下ろした。これで彼女にも知られていたら自分はとんだ道化である。恥ずかしすぎて、雇用初日にして荷物をまとめなければいけないところだった。


「んでんで? あの無愛想な娘のどこを気に入ったん? 大丈夫、どうせ客なんておらへんしノエルにも話しはせんからお姉さんたちに教えてや」


 気がつけば、ロナもいつの間にかシオのすぐそばの席にまで移動していた。しかもご丁寧にシオのコーヒーまで準備し、クレアも「これはお代や」と目の前に美味しそうなパフェを差し出してくる。

 二人とも聞き出すまで自分を離さないつもりだ。揃って好奇心を隠さないクレアとロナに、シオはついに観念した。

お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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