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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード3「カフェ・ノーラのお仕事」

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4-3.不思議な、だけど、嫌ではない

「だ、大丈夫ですかっ!?」

「問題ない」


 私は平然としてシオの問いに応じた。

 多少の痛みこそあれど、この体はそこそこ頑丈だ。四肢は義肢なので交換が聞くし、生身の部分も精霊と融合したおかげでこの程度ではたいしたダメージじゃない。

 敵の作り出した手のひらが程なく消え、体が自由になると再びバーニアを噴射して加速。接近しながらガトリングガンの銃口を骸骨に向け、引き金を引いた――けれども、弾が出ていかない。


「……?」


 しかたないのでひとまず攻撃を避け続けているシオを回収する。

 彼を脇に抱えて、もう一度銃口を敵に向けてみるがやはり何も起こらない。


「た、弾切れですかっ!?」

「いや、詰まった(ジャムった)


 たぶん、さっき手のひらに弾き飛ばされた時に衝撃で変形したものと思料する。

 この間クレアと調整した新しい義手じゃなくて良かった。結構長く使っていた義手だし、これを機に帰ったら交換してもらおう。

 しかし物理的な攻撃手段を失ってしまった。となると、しかたない。


「どうしたんですか、ノエルさん!?」


 空中で静止し、動きを止める。そんな私の様子に異常を感じたのかシオが心配そうに叫ぶ。

 一方で敵も今の状態を好機と見たのかもしれない。冥魔導の黒い矢が次々にこちらへ向かって襲いかかってきた。

 けれども、その程度の攻撃に意味はない。

 揺れる私の髪が明るい金色から黒く変色し、体からも黒い何かが滲み出す。それが敵の矢を次々と飲み込んでいって、攻撃は私に届くことはなかった。


「な、なんですか、これっ……!?」

「私と融合した精霊」


 黒いものは形を変えて、やがて私とまったく同じ姿かたちと化した。

 私が左腕を前に突き出す。すると影もまた同じく左腕を前に突き出した。

 程なく生まれる黒い矢。だけれどもリッチの作り出したものとはまるっきり違う。

 それは矢、というよりも巨大な(バリスタ)という方が近い。なにせ一本一本が私の脚くらいの太さがあり、長さも私の身長くらいになるのだから。

 さらに数も敵のものとは桁違い。天井が見えなくなるくらいの圧倒的な物量でリッチの頭上を覆い、放たれる時を待ちわびていた。


「■■■っ……!」


 骨だけとなっても恐怖を感じるのだろうか、リッチが慄いたようにうめいた。

 上げていた左腕を振り下ろす。その瞬間、すべての矢がリッチ目掛けて降り注いでいった。

 避けることもできず黒い矢に貫かれて骸骨が踊りだす。骨が砕かれ、体が削られていく。さらには矢が地面に達した途端、凄まじい破砕音を響かせて黒い焔が舞い上がると、あっという間にリッチの姿を黒が覆い尽くした。

 敵を構成するあらゆるものを飲み込み、最後には意思を持った生き物のように黒い焔が一際大きく舞い上がってから消えていく。

 黒い焔が消えた後にはすべてがなくなっていた。リッチが存在したことを示すものは何一つも残していない。


「……すごい」


 シオがため息を漏らした。けれど、私としてはこの冥魔導をあまり使いたくはなかった。

 理由は二つ。まず、ひどく魔素を消耗するから。

 融合した精霊のおかげで魔導の性能は破格に向上しているのは間違いない。反面、同時に取得したスキルのおかげで最も基本的な(・・・・・・)魔導でさえこの威力と数であり、実際に蓄えてた魔素を相応に消耗してしまった。

 イミテーション・リッチを屠るには明らかにオーバー・スペック。非合理的だ。精霊と融合しているだけでも燃費が悪いのに、これで後でまたクレアから血を分けて貰わないといけない。

 そしてもう一つの理由は。


(やはり私は――兵器と呼ばれるのがふさわしい)


 この破壊力を目の当たりにすると、そう名乗るのが適切だと思い知らされるから。

 精霊の力を直接行使するというのは、人の領分を超えている。エドヴァルドお兄さんも言っていたし、その当時はあまりピンとこなかったけれど、今となれば私も考えてしまう。

 果たして、私はどれだけ人から離れているのだろうか、と。そして、そんな人から離れた姿をクレアやロナ以外の人に見せたくはなかった。

 とはいえ、ためらってシオを危険にさらすのは本末転倒と理解している。なので今回はこれが最善の選択であり、そこに後悔はない。


「シオ。状況の報告を」

「え?」

「状況の報告。ダメージはある?」


 尋ねるとシオは首を横に振った。であれば良い。

 帰還する。

 短く告げて私は遺体袋のところへ戻る。背を向けて四つの袋を肩に担ぎながら、そういえば、とシオにもう一度声を掛ける。


「はい、なんですか?」


 先程見せた魔導については他言無用を願う。


「……分かりました」


 一方的な依頼だけれど、ありがたいことにシオは理由を問わずにうなずいてくれた。

 感謝の意を彼に伝え、それから改めて彼に尋ねる。

 まだ、店で働きたいか、と。


「店で働く以上、死体回収の手伝いもしてもらうことになる。けれども迷宮の深部に行くほど想定外の事態が発生しやすく、今回のように危険な事案も多い。私も守りきれるとは限らない」

「……」

「なので私は勧めない。諦めて探索者としての活動に専念することを推奨する。よく考えて結論を出してほしい」


 答えを待たずして戦いのあった部屋を出ていこうとする。が、その前にシオから「待ってください!」と呼び止められた。


「……僕の心は変わりません。ノエルさんのお店で働かせてください」

「いつか、死ぬかもしれない」お兄さんのように。「それでも構わない?」

「僕は死にません。ノエルさんを残して、絶対に死にませんから」


 ハッキリと言い切ったシオに、思わず私も目をしばたたかせた。

 シオは少し恥ずかしそうな素振りをしつつも、私を真っ直ぐな瞳で見つめ続けてる。


「今は……その、僕は弱いです。ノエルさんよりずっと。今日だって守られてばっかりでした。だけど」シオが拳を胸の前で握りしめた。「すぐに強くなってみせます! ノエルさんに追いついて、肩を並べて戦えるくらいに、そして――ノエルさんを守れるくらいに!」


 ……驚いた。まさか私の正体を知った上で「守る」と言ってくる人間がいるとは思ってもみなかった。

 私はずっと誰かを「守る」立場だった。けれど彼は、私を「守られる」立場にすると言う。守られる立場になるつもりはまったくないけれども、そう言われたことに反応している自分がいる。


「――ふ」

「ノエルさん?」


 少し笑いが漏れてしまった。笑ったのはいつぶりだろうか。記憶にないから、ひょっとすると兵器となってからは初めてかもしれない。


「失礼。別に侮辱の意図はない」


 弁明し、私は彼へと近づいた。そして顔を見上げ、結論を伝える。


「条件付きでカフェ・ノーラの店員に採用する。実力については今後に期待している」

「――あ、ありがとうございますっ!」


 シオが破顔して拳を握りしめ、今にも飛び跳ねようというところでピタリと動きを止めた。


「……ちなみに、条件ってなんですか?」


 心配しなくても単純な話。条件は――死なないこと。

 私が示した条件を聞くとシオは少しキョトンとした顔を見せた。それから彼は微笑み、私に手を差し出した。


「分かりました。絶対に死にませんから、これからも宜しくお願いします」


 眼の前に差し出された手。そこに私は手のひらを重ねて――紐を握らせた。


「……紐?」

「初仕事。遺体を運ぶのを手伝ってほしい」


 リッチの攻撃を受けたせいでどうやら腕の機構にもトラブルが生じたらしく、右手がうまく握れない。なので新入りに早速仕事を押し付けてみることにした。軍でも新入りはいろいろと仕事を押し付けられていたし、私もその慣習に従ってみた次第である。

 渡した二体の遺体袋と私を見比べ、シオが言語による形容が難しい表情を浮かべた。が、私は気にせず半分の遺体袋を抱えて背を向けた。

 後ろから届く「はぁ……」というため息。それを聞きながら、左手で自分の胸に触れた。

 よく分からない、不思議な感覚。だけど、嫌な気分ではない。

 自然と口元がほころぶ。そしてそのほころびを残したまま、私は前へと歩き始めたのだった。






エピソード3「カフェ・ノーラのお仕事」完

お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シオが気持ち悪い。 なんというか、言動が世界観及び歩んだはずの人生観と一致していない。シオの言動は現代日本の高校生のもの。この世界観なら一緒の職場で一緒にいたい、ではなく常連になりつつ…
[良い点] とても面白い。ただこれに尽きる。 [気になる点] 女主人公ものあるある、ぽっと出の男が女主人公に惚れて強引に迫る展開。その瞬間から物語の展開が男主人公になる…
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