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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード3「カフェ・ノーラのお仕事」

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4-1.何か臭いません?

 休憩を終えると、引き続き私たちは目的である第二十五階層を目指して進んだ。

 時々モンスターとも遭遇したけれど、休息の効果かシオの動きもまたカフェを出た直後くらいまでに回復していた。出てきたモンスターがそれほど手強くなかったというのもあるかもしれないが、火力不足という点を除けば現状でも十分にB-2ランクのモンスターとも渡り合えそう、と改めて感じる。

 さて。

 そうしてさらに二時間ほど進んで、私たちはようやく第二十五階層に到着した。


「特に……変わった様子はありませんね」


 探索者が行方不明になった階層でもあるので異変が起きてないか警戒しながら降りたのだけれど、脚を踏み入れての感想はシオの言うとおり至ってよく見る迷宮の姿だということだ。

 気温が変化していたり、壁の様子になんらか異常が見られるというわけでも、大量のモンスターに歓迎されるというわけでもない。遠くでモンスターのものと推測されるうめき声が微かに響く、ありふれた様子が存在するだけである。


 ひとまず、奥へ行く。


 シオに伝え、引き続き警戒しながら歩を進める。まだ生存している可能性もあるため意識して彼らの声が聞こえないか気を配ってみるけれど、私の聴力でも人間の声を捉えることはない。

 結局、一通り回ってみたけれど彼らの姿はなかった。


「どこに行ったんでしょうね……?」


 分からない。

 しかし、あくまで最後の目撃情報が二十五階層というだけ。もしかするともう少し下の階層なのかもしれない。

 そう判断してさらに下る。二十五階層と二十六階層は緩やかな坂道で繋がっており、いわゆる地続きな構造。そのため、どこからが二十六階層か区別が難しい。情報に齟齬が生じているならば、それが要因と考えられる。

 坂道を下り終え、さきほどと同じように二十六階層を巡っていく。と、数分歩いたところで違和感を覚えた。


「……何か臭いません?」


 同意する。

 意外にもシオはかなり鼻が良いらしく、漂ってくる匂いに気づいた。

 それはホンの微かで、五感が通常の人よりも遥かに鋭敏な私でも意識して嗅ぐことでようやく気づくレベル。

 そして、私が嗅ぎ慣れた匂いだ。


「血……ですよね、この臭い」


 うなずくとシオが顔をしかめた。私は特に何の感想も無いが、シオからすれば好ましくない臭いなのだと思料する。

 匂いの元を辿っていく。そのまま数十メートル程度進んだところで、ついに手がかりを見つけた。


「荷物……! 荷物がありますよ、ノエルさん!」


 シオが駆け寄り私も続く。そこにはリュックが一つ転がり、中身が地面に散らばっていた。

 喰い荒らされた痕もあるそれらを確認すると、明らかに探索者の物と思われる小型のナイフや魔導の描かれた紙があった。ここまでの探索で収集したと考えられる魔晶石も残っている。たぶん、ここで襲われたものと推定される。


「こっちには血の痕が……!」


 そして、乾いた血の痕が奥へ向かって伸びていた。

 点々と、時に線となっている。負傷して逃げていったのだろうか。血液の量からして重傷のレベルと推測。痕がまだ残っているということは比較的最近のもので、おそらくは今回の捜索対象者の血液のものと考えて良い。

 血の痕を追ってシオが小走りで進む。が、程なくその痕が途絶えた。


「あれ? どこに消え……?」


 死体らしきものは周囲にない。血溜まりのようなものもないからモンスターに喰い荒らされたということもないはず。敵を倒してここで治療したのだろうか。

 だとしたら、彼らはどこへ向かったのか。思案していると、私の耳が微かな音を捉えた。


「たす……け……」


 届いたそれは、かすれた人の声だった。くぐもった、助けを求める声。一瞬聞き間違いかとも思ったが、少し間を置いてもう一度聞こえてきたから間違いはない。


「声っ……! どこから――」


 二度目の声は一度目よりも大きかったからかシオにも届いたようで、辺りを探し回り始めた。やがて少し進んだところで人が一人通れる程度の小さな通路を見つけた。


「ノエルさん、こっちです! 急ぎましょう!!」

「待って」


 私の制止に耳も貸さずにシオは急いでその通路へと飛び込んでいく。ここは慎重になるべきだけれど、シオを一人にするのは危険。私も後を追いかけて通路の奥へ脚を踏み入れた。

 狭い通路の圧迫感はすぐに消えて、奥はある程度走り回れるくらいには広い空間となっていた。壁の表面には魔晶石が表出してて、私たちの腰に下げたランタンの光を反射してキラキラと輝いている。深層に行くほど魔晶石の純度は高く、質の良いものが偏在して表出するのは一般的だけれど、ここまでたくさん表出しているのは珍しい。

 シオもこの光景に圧倒されているのか、目を奪われ立ち尽くしていた。実際、一袋でも詰めて持ち帰ればしばらく生活に困らないくらいの財産にはなる。

 だけれど。私は静かに右腕を戦闘モードに変形させた。


「そうだっ、さっきの声の人は――」


 腕の変形音でシオも我に返ったらしく、慌てて周囲を見回していく。すると部屋の隅で、地面に座り壁にもたれる人影を見つけた。


「大丈夫ですかっ! 助けに来まし――」


 シオが駆け寄り声を掛ける。が、ハッキリと姿が見えるくらい近づいたところでピタリと彼の脚が止まった。

 少し遅れて私も近づいて視認。目視で確認することで、シオの脚が動かなくなった理由が分かった。

 立ち込める濃厚な血の匂い。壁にもたれて座っているように見えたその人物は座っているのではなく、ただ壁に支えられていただけだった。

 男性の下半身は食いちぎられたのか完全に無くなっていた。断末魔の叫びを上げたのだろうその顔は大きく口が開いたまま。目は見開かれて、飛びかかってきそうな迫力があると形容できそう。念のため首元に手を触れてみるが、反応はない。

 そしてその男性の近くに、いくつもの人間の体が転がっていた。腕と脚を失ったもの、肩から心臓に掛けてごっそりと食い千切られたもの、頭部を失ったものの合計四つ。

 いずれも――とっくに死体と化していることは間違いない。


「ひ、う……!」


 認識したことで死の匂いが一気に満ちる。シオはその場に尻もちをついて、けれども口元を押さえると慌ててその場を離れて胃の中の物を戻し始めた。

 何度もえづき、咳き込む声が背中越しに聞こえる。無理もない。一部が千切れた死体が散らばっている光景は凄惨と一般には評価されるものだ。そこに腐臭が立ち込めている。慣れていなければ誰もがシオと似た反応を示すだろう。

 ともあれ、彼らが依頼を請けた探索者パーティだと推定される。シオが落ち着くまでの間に私はポケットの紙を取り出して、死体と行方不明者を照合する作業を進めることにした。


「……ゆ、行方不明になってた人たちですか?」


 私の背中越しにシオが恐る恐る死体を覗き込んでくるけれど、まだ顔色が悪い。無理して見なくていい。


「だ、大丈夫です。吐く物は全部吐きましたから……それで、どうなんですか?」

「質問には肯定。全員依頼にあった探索者で間違いないと思料する」


 顔が無事な死体が多く、頭部の無い死体もライセンス証を身に着けていたのが幸いして照合作業はそう難しく無かった。

 数も身元も確認済み。これらを持ち帰ってギルドに届ければ依頼は完了する。

 リュックを下ろし、中から回収袋と遺品袋を取り出す。口を広げて死体と、周囲に散らばっていた彼らの遺品と思われる物品もいくつか回収していく。


「……手伝います」


 シオもしゃがんで遺品を集め始めてくれた。なので彼に遺品を任せて私は死体を袋に詰めていく作業に専念することにした。

 その作業の間、私たちはお互いにただ無言だった。

お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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