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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード3「カフェ・ノーラのお仕事」

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2-2.エグいことするで

「へえ、これは――」

「おおっ、Bクラスライセンスやないの! 昇格したんか!? すごいやないか!」

「えへへ……ありがとうございます」


 シオがはにかみながら頬を掻いた。私も覗き込むと確かにカードにはシオの名前、そしてB-3クラスの文字が書かれてあった。


「ふふん、実は私も」

「アレニアもかいな? 二人とも頑張ったんやな。おめでとさん」

「ありがと。まあ私の方は結構ギリギリだったんだけどね。シオなんてもうC-1ランクのモンスターじゃ相手にならないくらい余裕で合格よ。筆記は危なかったみたいだけど」

「受かったんだからいいだろ。それに実技試験中は必死で余裕なんて全然無かったし。っていうか、アレニアだってギリギリって程じゃ無かったじゃないか」

「まーね。ていうか、アンタに付き合ってあんだけ毎度死にそうな目に遭ってれば嫌でも実力つくわよ」


 改めて二人を観察してみれば、防具類に古い傷跡は無数にあるけれど手足や顔にはほとんど傷は無かった。ここに来るまでにまったくモンスターと遭遇しなかったはずもないので、実際二人の実力はBクラスには十分なのだと推測される。

 思い返せば、この数週間で二人の負った傷も段々と少なくなっていたような気がする。最初の方ではアレニアも死にそうになったと言ってたけれど、今日は息一つ切らしていなかったし。


(それにしても……)


 モールドラゴンに襲われてカフェに駆け込んできたのがまだ一ヶ月半前。その段階では通常のC-2クラスレベルの実力だったと推定されるから、驚異的と言っていいスピードでの昇格だ。ひょっとしたらルーヴェンの記録更新かもしれない。ここまでのポテンシャルは想像していなかった。素直に称賛に値する。


「愛の力って言うのは偉大だね。これだから君ら人間は面白い」


 ロナがニコニコしてつぶやいた。前も誰かが言っていた気がする。シオが何をそこまで愛しているのかは不明だけれど、何にせよここまで成長できるのであればその「愛の力」は素晴らしいことだと思う。

 ともあれ、そういうことであれば。


「ならこれはお祝い」


 ずっと手に持っていた料理のお皿をシオの前に並べていく。注文されて作ったものではあるけれど、今日のところは代金は受け取らずサービスにしてしまおう。


「うわ、すごい美味しそう……私も頼めば良かったかも」

「いいんですか、こんなに立派な料理をタダで頂いても?」


 構わない。特別なものは準備できないけれど、こんなもので良ければぜひ召し上がってほしい。

 そう伝えると、彼の顔がほころんでいくのが分かった。カウンターの奥から「エグいことするで、ホンマ……」というクレアの声が聞こえてきた気がするけれど、きっと気のせいだと判断して無視した。


「それじゃ遠慮なくいただきます」


 湯気の立ち上る肉をナイフで大きく切り分け、豪快にかぶりついて――シオの動きが止まった。


「シオ?」


 アレニアが首を傾げて肩を叩くも、シオからの反応は鈍い。心なしか、笑顔で固まった彼の顔から汗がにじみ出してるように見える。ひょっとして猫舌だったりするのだろうか。だとしたら食べるのを急かしたようで申し訳ない。


「い、いえ……ダイジョウブデス」

「あー、ムリせんでええんやで?」

「問題アリマセン。食ベキッテミセマス」


 何故か笑顔のまま急に片言になったけれど、止まっていたナイフと口がまた動き出し、次第に加速していく。

 皿の上の料理やスープがみるみるうちに減っていき、次々にシオの胃の中に消えていく。私の料理をここまで食べてくれる人は初めてだ。お腹が減っていると言っていたけれど、これならクレアたちにも文句は言わせまい。

 胸を張ってクレアとロナの顔を見る。すると、かわいそうな子を見る目を向けられた。おかしい。思っていたのと彼女らの反応が違う。

 私がいぶかしがっていると、カチャ、とナイフとフォークが静かに皿に置かれた。見ると、どの食器も中身がほぼ空になっていた。

 シオの顔を覗き込めば、眠っているんじゃないかと思うくらい穏やかで満ち足りた顔をしていた。満足いただけたようで、料理を作った私としても非常に鼻が高い。


「シオ? シオさーん?」

「……」

「おーい、もしもーし?」


 けれどもどうもシオの様子がおかしい。アレニアがさっきから顔の前で手を振っているのだけれど、まったく反応がない。


「ちょっと失礼するよ」


 ロナが席を立ってシオの診察を始める。頬を軽く叩いたり鼻をつまんだりして、それからまぶたをこじ開けるとペンライトで瞳を確認。一通りの作業を済ませると、彼女は振り向いた。


「うん、気絶してるね」

「……つまり?」

「毒を喰らいきったその代償、かな?」


 ロナが告げると、恐ろしいモンスターに遭遇した時のような顔で震えながらアレニアが私から距離を取った。

 つまりは――今日も私の料理は大失敗だったらしい。


「……愛の力って言うのは偉大だね」


 ロナがコーヒーを飲みながら、さっきと同じセリフをつぶやいた。けれど、私にはニュアンスがまったく違って聞こえた。たぶんそれは気のせいではない。

 静かに皿を回収し、残ったわずかな料理をつまむ。


「やっぱり美味しい……」


 どうしてこの美味が伝わらないのだろう。深淵にして謎すぎる命題に首をひねりながら、私はキッチンへと消えていったのだった。

お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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