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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード2.5「隣町ギルドの面倒な事情」

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5-5.手紙には何を書けば良いのだろう


 一連の事件が終わっておよそ三週間。

 いつものように背中に大量の荷物を持って私はルーヴェンのギルドを訪れた。

 私の体に比べて多すぎる荷物量に対してか、ドアを開けた瞬間にギルド内にいた人たちが一斉に私に視線を向けてくる。が、この視線には慣れているので気に留めずギルド内にいるはずの人物を捜索する。


「ノエルちゃーん!」


 すると探し人の方から私を呼んできた。右へ振り向くと、サーラがこちらへ手を振っていた。

 ――と思ったら、私は彼女の胸に抱かれていた。


「あーん、相変わらずかわいい! 仕事中もこのままギュッギュッしてたーい!」


 まったく彼女の動きに対応できなかった。ひょっとしたら彼女もまた何かしらスキルを持っているのかもしれない。恐ろしい相手だ。

 とはいえ、このまま無抵抗なら私であっても窒息してしまう。クネクネしながら嬉しそうに押し付けてくる彼女の胸から脱出し、「あぁん……! いけずぅ!」という抗議の声を無視して彼女に仕事を要求する。


「はいはーい。いつもの素材買い取りね? それじゃこっちのカウンターに持ってきてちょうだい。それから、はい」


 私を窓口カウンターへと案内しながら彼女が何かを差し出してきた。

 それは、白地に薄っすらと花の模様が描かれた封筒だ。手紙と推測されるが、誰からだろうと反対側を確認すると、アンネとアルトのミュルデル姉弟の名前が書かれてあった。


「二人そろってわざわざウチに届けに来たの。本当は会って直接渡したかったみたいだけど、月一くらいでしか来ないって教えたら残念そうにしてたわ。素材の鑑定してる間、読みながら待ってて」


 承知したとサーラに返答してリュックの中身を取り出し終えると、私は休憩スペースの空いている席に座り、手紙を広げた。




 三十分くらい経っただろうか。手紙を読み終え、時間潰しにボードに掲示された依頼を眺めているとサーラが換金分のお金を持って私のところへとやってきた。


「はい、これ。この間の不正を暴いた時の報奨金と、エナフで働いた時のお給料分も一緒にしてるから。内訳はこっちの明細を確認してね」

「分かった」

「それで? 手紙には何が書いてあったの?」

「礼と状況の報告」


 ミュルデル姉弟からの手紙は私、それからサーラとランドルフへの礼の言葉から始まり、ついでミュルデル家、それからエナフの現状について記載されていた。

 まずミュルデル家については、無事順調に再建できているらしい。風評被害だけに悪評自体を拭い去ることは困難なようだけれど、それでも私がアントン・ツヴァイクに要求したとおりツヴァイク商会によって借金は帳消しとなり、さらに多額の賠償金が支払われたとのことだった。

 くわえて、アルトたちの父親が作る魔導具は当分の間ツヴァイク商会が買い取ることになったらしい。もちろん定価より高値で、かつ製作者であるアルトたちの父親の名前も明示した上で、だ。職人である父親の腕が確かなのは先日私も商品を見て確認している。悪評もしばらくすれば消えて、また評判の魔導具となると推測する。


「良かったじゃない! ノエルちゃんが骨を折った甲斐があったわね」


 骨を折った、と表現されるほど苦労したわけではないが、ちょっと前まで借金苦で家族がバラバラになっていたことを考えるとサーラの言うとおり良かったと思う。

 フィリップについても書かれていて、無事にと言うべきかフィリップとシルヴィア、それと取り巻きたちはエナフの警察によって逮捕され、収監されたらしい。噂によるとアントン・ツヴァイクに勘当されたことで、私が示した以外にも余罪が次から次へと出てくる状態なのだとか。当分は刑務所から出てくることは叶わず、彼とその仲間による暴虐がなくなったおかげで、アンネたち曰く町の様子も以前より明るくなったとのことだった。

 ちなみにこちらはある程度ランドルフやサーラから聞いた話だけれど、彼らのギルドライセンスは当然ながら剥奪。関わり具合によって処罰の濃淡はあるけれど、結構な人数が処分されたのだとか。さらに町の役人や警察にも結構な逮捕者が出たらしい。これでエナフの行政やギルドもかなり風通しが良くなると思う。


「あ、そうそう、エナフのギルドで思い出した」サーラがパチンと手を叩いた。「あっちの新しいギルド長も正式に決まったんだって」


 フィリップにいろいろと便宜を図っていたエナフのギルド支部長は、本来ギルドが守るべき中立性を積極的に毀損したということで懲戒解雇された。

 サーラ曰く、事件の後で詳しい調査がエナフのギルドに入って明らかになったのは、どうやらフィリップ以外にもあのギルド長は気に入った探索者や職員にも恣意的な評価を繰り返していたということだ。

 本来昇格するはずのない探索者のクラスを上げ、気に入らない探索者にはいろいろ難癖をつけて昇格試験を受けさせない。そんなことを繰り返し、さらには気に入った探索者に勝手に便宜を図って金銭を要求してたのだとか。彼は彼で自業自得であり、フィリップ同様に同情の余地はまったく無かった。

 結局エナフのギルドについても、ランドルフが正式に支部長を兼務することとなった。ただルーヴェンのギルドだけでも管理で忙しいので実質的なトップはエナフの職員に任せることになり、その新しい事実上の支部長にはなんとユハナが選ばれた。

 キャリアとしてそれなりに長いことにくわえ、おっとりした彼女の雰囲気によらず仕事は早くて正確なのだとか。


「人は見た目によらない」

「それ、ノエルちゃんが言うの?」


 サーラのツッコミは脇に置いておいて、これまで単なる一職員だったユハナからすれば大出世だ。サーラとユハナは古くから交流があるらしく、慣れない仕事に四苦八苦しながらもユハナも頑張っているとのこと。彼女にはエナフのギルド建て直しを期待している。

 さて。これで一連の事件については一段落というところだろうか。

 手紙と、素材を換金したお金を仕舞って、ぺちゃんこになったリュックを背負う。


「ちゃんとミュルデルさんに返事を書くのよ? 住所が分からなくても、ここに持ち込めばエナフのギルドまでは送ってあげるから。あそこまで届けば、ミュルデル家まで配達するくらいの便宜は図ってくれるでしょ」


 分かった。ところで――手紙には何を書けば良いのだろう?


「ノエルちゃんの最近の様子でも何でもいいの。何もなければ平穏無事、元気に過ごしてますで十分よ。近況を教えてくれた御礼と、ノエルちゃんが元気に過ごしてるっていうのを伝えるのが主目的なんだから。あ、でも必要な分だけで終わっちゃダメよ? 文字だけだとぶっきらぼうに見えちゃうから。時候の挨拶から始まって、相手の健康とかに触れて、それから――」


 手紙というのは要件だけを伝えれば良いと思っていたけれど、サーラの説明を聞いてるとどうやら結構難易度が高そうである。

 果たして兵器である私に書けるだろうか、とも思ったが、どうせ店は暇だ。時間はたっぷりあるのだからこの際に初めての手紙を書いてみるのも悪くない時間の潰し方ではないだろうか。

 ひとしきりサーラの説明を聞き終えると、私はギルドを辞した。そして人が多く集まる鉄道駅方面へ向かう。

 「初めての手紙書き方講座」のような本を手に入れるべく、私は駅前の本屋の方面へ足を踏み出したのだった。




エピソード2.5「隣町ギルドの面倒な事情」完




お読み頂き、誠にありがとうございました!

明日からは一日一回の更新に変更させて頂きますが、ご承知おきくださいませ。


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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