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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード2.5「隣町ギルドの面倒な事情」

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5-3.貴方の悪行はすべて明らか

たまには朝更新



「このクソガキィ……またテメェかぁぁぁっっっ!!」

「ガキではない」


 初対面ならともかくもすでに三度目。いい加減私が子どもではないと覚えてほしいのだけれど、どうやらそのつもりはないと推測できるので私ももう諦めることにする。


「昨日はよくもやってくれたなぁ……テメェのせいで愚民どもにまで笑われたじゃねぇか!」

「……恥ずかしかった?」

「当たり前だろうがっ!」


 屋外で下半身を露出させて交尾に励むのに、見られるのは恥ずかしいという。よく理解できないけれど、普通はそういうものなのだろうか。疑問に思うものの、別に彼の性癖に興味はない。なので彼の周囲へと関心を移す。

 部屋にいるのはフィリップの他にも、先程部屋から飛び出したのと同じ様な探索者仲間と推測される男性が六人。そしてメイド服を来た女性が四名いて、フィリップの左右で不安気な顔を浮かべていた。

 アルトの姉の件もあるけれど、まずフィリップへの要件を済ませることにする。


「彼を返却する」


 フィリップに近づき、それから肩に担いでいた男を床に転がすと、フィリップとその取り巻きの男たちが息を飲んだ。


「ガディ・フィルシャー。彼から事情は聞いた。フィリップ・ツヴァイクの指示でミュルデル家の魔装具を模した海賊品を生産・販売したこと、およびミュルデルの魔装具に関する悪評を意図的に流布したことを証言している」


 すると女性の一人が「えっ?」と驚きの声を上げた。

 声を出した女性の顔を見る。黒いミディアムヘアで、パッチリした目と少し気が弱そうな雰囲気。そして鼻のところにある、わずかなそばかす。特徴からしておそらくは彼女がアルトの姉、アンネ・ミュルデル。なるほど、アルトが姉を町一番の美人だと自慢していたけれど、一般的な美醜の評価基準に照らし合わせてもその評価は間違いではないだろう。

 視線を正面に戻すと、フィリップが悪評を広めた実行犯のフィルシャーをにらみつけ、歯ぎしりさせながら体を震わせていた。彼に怒りをぶつけるのはお門違いではないだろうか。


「ふ、ふ……さて、なんのことか知らねぇな? 俺はコイツがどこのどいつかも知らねぇ。どっか他所のライバル店がウチを貶めようとして適当こいてるに決まってるさ」

「しらばっくれてもすでにムダ。貴方の悪行はすべて明らかになっている」


 告げながら、懐から書類を取り出して彼に差し出す。


「ミュルデル家に関することだけでなく、ギルドに関する不正も全部明白。Aクラス認定試験における替え玉受験、クラス認定試験官との内通による書類の偽造。その他、ギルド職員への恐喝、暴行および探索者への恐喝、暴行、傷害、器物破損。またエナフ支部ギルド長への贈賄。

 すべてシルヴィア・ロヴネルおよび関係者による証言と証拠をギルドは得ている。処分は決まってはいないが、探索者資格の即時停止、剥奪にくわえギルド全支部からの永久追放は免れない。処分に対して納得がいかない場合は不服申立てが可能。ただし申し立ての受理はルーヴェン支部のみ可能である。それから――」この部屋にいる探索者たちをグルっと見回す。「この場にいる者についても同様の、または関与の嫌疑が掛かっているとみなされる。顔は記録したので追って出頭命令その他が発せられる見込み。以上、確かに通達した」


 何とか余裕を取り繕っていたフィリップだけれど、私が通達すると顔がみるみる内に青ざめていった。他の探索者たちも顔を見合わせ、どこかソワソワし始める。逃走を計画しているのかもしれないが、下された処分は世界中どのギルドでも有効なので無意味。刑事罰は免れても探索者として活動できないのであれば、事実上ギルドの処分は達成されたと考えても良い。

 とりあえずフィリップに対する要件は終わった。後はアルトの姉を無事に連れて帰れば依頼は完了だ。


「アンネ・ミュルデルは誰?」


 もうだいたいの目星はついているけれど、念のため尋ねる。するとメイド服たちの視線が一人に集中した。やはり先程声を上げた女性だった。


「貴女をここから連れ出すよう依頼を受けている。付いてきて」

「で、でも私は借金の……」


 アンネが未だ書類を手に震えているフィリップをチラリと見た。彼女自ら借金の担保としてフィリップに買われた形なので、私と一緒に逃走することで借金の取り立てが再び始まるかもしれないと気にしているのだろう。


「心配は不要。ミュルデル家の負債は、ツヴァイク商会による不当な競争妨害によるものであり、故に賠償請求は可能。そもそも、金銭による身柄の交換は人身売買とみなされ違法。したがってここでアンネが職務を放棄しても問題はなく、ギルドにおいて身柄の保護も可能なので心配はいらない。

 他の人間も同様の理由で働いている場合は逃走あるいは保護が可能。フィリップに貴女たちを拘束する権限はない」


 一緒にいた他のメイドたちにも伝えると、彼女たち同士で相談する声が聞こえてきた。


「ほ、本当に大丈夫なの?」

「私たち、帰れるの?」

「確定ではないがほぼ間違いない。フィリップは破滅。貴女たちの証言があれば容疑が堅固なものになる」


 女性たちが抱き合って喜ぶ。どうやら彼女らもアンネ同様不当な方法により連れてこられていたようだ。ならばアンネ一人だけを連れ出す理由もない。助けられるのであれば彼女らも一緒に連れて行こう。

 と思ったのだけれど。


「っ……!」

「きゃあっ!」


 フィリップが突然アンネを強引に引き寄せた。女性陣から悲鳴が上がる中、彼は傍らに置いてあった剣を鞘から抜き去り、そしてアンネの首元に刃を添えた。


「許さねぇ……」フィリップがうめいた。「許さねぇ許さねぇ許さねぇ許さねぇ……テメェだけは許さねぇぞ、クソガキィ……!」

「すべては自業自得」

「うるせぇっ! ……そうさ、テメェの言ったとおり俺は破滅だ。だが、まだだ。まだ終われねぇ。終わってたまるかよ……!」

「抵抗はムダ。速やかなアンネの解放と武装解除を要求する」

「イヤだね。テメェをここでぶち殺して逃げる。金はあるんだ。逃げおおせりゃまだどうにでもなる」


 フィリップは薄ら笑いを浮かべ、それから動揺していた他の探索者に怒鳴った。


「それと、テメェら! 今更テメェらだけ逃げようなんて許さねぇからな……散々人の金で良い思いしてんだ。逃げんならこのガキぶっ殺してからだ。いいなっ!?」


 どうやら彼の発破は功を奏したらしい。実際にフィリップだけを置いて逃げようと考えていたのか、探索者たちの中には気まずそうに顔を逸らす人もいたものの、怒鳴り声の後には全員が私に向かって武器を構え直していた。


「敵対行動を確認。制圧モードに移行する」


 この期に及んで抵抗するつもりなのは非合理的で残念。だけれど、相手がやる気ならしかたない。速やかに制圧することにする。


「おらぁ! 殺れっ!」

「く……おおおおぉぉぉぉっっっ!!」


 フィリップの号令にしたがって、探索者たちが机やソファを乗り越えて押し寄せてくる。剣を上段に構え、銃口を私に向け、詠唱を口にし始める。

 そんな彼らに対し、私は右腕を掲げ――そして銃口を露わにした。

 現れたのはガトリングモードの腕。円形にいくつもの小口径の銃口が並び、それを見た瞬間、私に迫ってきていた連中が動きを止めた。


「……」


 彼らの額からさっきまでとは違った冷や汗を確認。今にでも飲んだ牛乳がすべて大地に還る直前の顔をしているけれど、敵対行動を取っている以上もう遅い。


「――スイッチ」


 私は迷わず引き金を引いた。

 ガトリングガンに魔素が通う感覚を覚え、高速回転を開始。小さな弾丸がブラバラララララララララララララララララララララララララララララララララララララ――と、耳をつんざく轟音を連続的に響かせて発射された。


「…………」


 フィリップが口を開けた間抜け面を晒している中でマズルフラッシュのまばゆい光が一際室内を明るくしていった。探索者たちの体が発射された弾丸に叩かれ、握っていた剣や銃は手から叩き落されて詠唱は中断。強制的に踊り狂わされていく。

 無数の発射音と打撃音だけが部屋を支配し、やがて私は引き金を緩めた。

 分間二千発の弾丸に強かに打ちのめされた取り巻き探索者たちがその場に崩れ落ちていく。どうやら全員気を失ったらしい。通常の弾丸ではなくて制圧用の非殺傷性ゴム弾頭に変更していたとはいえ、あれだけの数を撃ち込んだので当然の帰結ではある。

 探索者たちが白目向いて倒れたことで制圧は完了と判断。立っているのは、メイド服の女性陣、そしてフィリップ一人だけとなった。




お読み頂き、誠にありがとうございました!

続きは夜に掲載します。


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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