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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード2.5「隣町ギルドの面倒な事情」

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5-1.サーラを怒らせないよう気をつけよう



 シルヴィアを抱えてルーヴェンの街に戻った翌朝。

 まだ夜も明けるか明けないかといった早朝に私はまた、とある家を尋ねていた。

 街の中心から少し離れたところにある住宅街の、その中でも高級な家が立ち並ぶ地区。そこに比較的新しく建った家の前に立ち、呼び出しベルを鳴らした。

 爽やかな朝らしい小鳥がさえずる音、それと近くを流れる小川の清涼な音が微かに届いてくる。けれど、家主は一向に現れない。

 なので連打。義手の高速振動機能を使用し、壊れるギリギリのラインを狙ってベルを連打する。なお、何のためにこんな機能がついているのかは定かではない。


「――あー、もう! 朝っぱらからうっせぇっ!!」


 すると、このムダな高速連打機能が役に立ったらしく、中から家主の怒鳴り声が響いた。やはり在宅だった。無駄足を踏まなくて良かった。もっとも、それを狙って早朝に尋ねたのだけれど。


「おいっ! どこのクソガキだ、朝から人の眠りを邪魔しやがるのはっ!」


 玄関から顔を出すや否や男が近所迷惑な程に怒鳴り散らすが、気にせず私は彼の顔の前に書類を差し出した。


「私はルーヴェン支部ギルド長直轄臨時委託職員のノエル。貴方にはギルド規則第九条一項違反――探索者クラス認定試験における不正代行、金銭授受、その他の疑いにより、ギルドへの緊急出頭命令が出ている」


 私が告げた途端、それまでどこかまだ眠たげだった男の顔が一気に覚醒に向かった模様。一瞬の間の後、すぐに私の手から書類を奪い取り手を震わせながら読み始めた。



 昨夜、シルヴィアを抱えてルーヴェンに辿り着くと、私はその脚でギルドへと向かった。

 すでに深夜に近い時間帯ながらも相応ににぎわっていたギルドだったが、突然見知らぬ女性を抱えて私が現れたものだから、あっという間に困惑で静まり返ってしまった。

 が、サーラが夜勤当番だったのが幸いだった。お手洗いから出てきた彼女を捕まえて簡単に事情を説明。その後、ギルドの四階を宿舎にしているランドルフを起こしてきてもらい、二人に詳しい事情を話した。

 最初は私の話に困惑気味ではあったものの、目を覚ましたシルヴィアがすべてを白状したので話は早かった。途中、何度もシルヴィアが私を見て怯えていたけれど、キチンと喋れていたので問題は無い。はず。

 ともあれ、事情を理解したランドルフとサーラは憤りながらも迅速に動いてくれた。フィリップの資格に関係した探索者の出頭命令などの手続きを徹夜で片付けてくれて、朝方にこうして替え玉を行った探索者の一人の家に押しかけた次第である。


「至急出頭準備を」

「……で、デタラメだ、こんなの! だいたい、お前みたいなガキの職員が言うことなんてあ、アテになるかよっ!」


 男が吐き捨てながら書類をビリビリに引き裂いていく。破ったそれを私の顔面目掛けて投げつけ、家のドアを勢いよく閉めようとした。

 けれど締まり切る前に私が義足を挟み入れた。


「ギルド命令書の破棄を確認。これにより出頭拒否とみなす」

「うるせぇんだよ、ガキがっ!!」


 男が私を押しのけようと玄関を開け、腕を伸ばしてきた。その拳をかわすと今度は蹴りが顔めがけて飛んでくる。別に自分の容姿を武器にするつもりはないけれど、私を子どもと認識しながらも攻撃をためらわないところに、彼の人となりが推測できる。


「今の行動を攻撃行為と判断。制圧行動に移行する」

「ガキが何言って――ええぇぇぇぇぇっっ!?」


 彼の脚をつかみ、寝巻き姿の男を家の外に放り投げる。立派な芝生の上を男が転がり、それでも彼もB-1クラスの探索者。素早い身のこなしで立ち上がろうとするけれど、それより先に私が跳躍していた。

 彼の視界を私で覆い隠す。私の体は見かけは小さくても重量は成人男性二人分はある。当然男は踏ん張ることもできず再び芝生へ倒れ込んだ。

 男の体を踏みつけた状態で、さらに首に右腕の義手を押し付ける。男はなおも抵抗を試みるけれどそこに、朝にはふさわしくても場にはそぐわない明るい声が届いた。


「サーラ」

「はいはーい、お疲れさま。思ったとおり暴れたけど、さっすがノエルちゃん。制圧が早い」


 フィリップに手を貸すくらいだから男の素行に問題がありそうなことは概ね予想がついていた。なので事前にサーラと相談し、まず私が男を訪問することにしていた。私一人行かせることをかなり渋っていたけれど、彼女は単なるギルド職員。男が暴れると彼女に危害が及ぶことも想定されたため、私が押し切ったのだった。


「ね、君。ノエルちゃんの言うことはアテにならないみたいなことを言ってたけど、私だったら問題ないわよね?」

「う……」

「はい、というわけで」サーラが男の顔を覗き込んで微笑んだ。「替え玉受験に、ギルドの命令書廃棄、出頭命令拒否に職員への暴行未遂。最初は一つだけだったのに、この数分でずいぶんと罪を重ねちゃったわね」

「くそぉ……」

「まあ、でも良かった。君がノエルちゃんを傷つけられなくて」

「……なんだよ。ガキに良いようにやられた俺を馬鹿にしてんのかよ?」

「ううん、そうじゃないよ」


 男が観念したようにため息をついて顔を私たちから背ける中、サーラが男の胸元に手を当て――力いっぱい自分の方に引き寄せて、言った。


「ノエルちゃんを傷つけてたら私、きっと――君という存在をグチャグチャにしてやってたと思うから」


 私からは見えないもののサーラの顔を見た男がガタガタ震え、泡を吹いて倒れそうになっていた。いったい彼女は今どんな顔をしてるのだろうか。たまに彼女が本当に単なる職員か分からなくなる。

 ともかくも、サーラを怒らせないように気をつけよう。彼女の後ろ姿だけを見ながら私はそう思った。




 その夜。再び町が寝静まった頃にエナフに戻ると、途中に寄り道をしてからフィリップの邸宅へ向かった。

 荷物を肩に担ぎ、人通りの少ない道を歩いていく。冥魔導で姿を視認しづらくしているので、途中何人か私を見て振り返ったが特に呼び止められることもない。

 フィリップの、というよりもツヴァイク家の邸宅はある意味当然だけれどエナフの中でも一番の高級地にあった。その中でも一際大きく、そして夜も更けているというのに煌々としていて遠くからでもよく目立つ。

 広大な敷地の壁を横目で見ながら門へと向かう。夜だからなのか、それともツヴァイク家と関わり合いになりたくないからか人通りは皆無だった。根拠はないけれど、理由は後者だと推測する。

 塀が途切れて門が見えてくる。忍び込むこともできなくないけれど、必要な物はすべて持っているのでコソコソする必要もない。若干(・・)派手な騒ぎになることが予想されるが、問題ないとランドルフからは言質を取った。もっとも、口にした後でランドルフが頭を抱えていたけれど、その理由については私の関知するところではない。


「ん……?」


 門の前には男が二人いた。腰には長剣、肩には銃と完全武装。胸当てや手甲なども装着していて、住宅街にふさわしくない姿だ。ツヴァイク家の警戒心が推測できる。

 冥魔導を解除すると、男たちがこちらへ一度銃を向けるも私の容姿を見て銃を下ろした。ただの通りすがりの子どもと思ったのだろう。再び二人で雑談に興じ始めた。

 私が門の前で立ち止まる。すると横目で私に視線を向け、そして肩の荷物を認めると目を丸くして腰の剣に手を掛けた。


「……おい、嬢ちゃん。何か用か?」

「肯定。フィリップ・ツヴァイクに用がある。荷物を届けに来た」

「……まさかその肩に乗せてんのが荷物だとか言わねぇよな?」

「他にもあるけれど、これも大事な荷物の一つ」


 質問に回答すると、正直に答えたにもかかわらず門番二人とも剣を抜いて切先を私へと向けてきた。


「嬢ちゃんが何者(なにもん)かは知らねぇが……なら、それを置いてとっととご主人さまのところへ帰りな」

「それは不可。直接渡したい。フィリップのところへの案内を要求する」

「こっちもそれはできねぇ相談だよ、嬢ちゃん。だいたいだなぁ――顔をボコボコに腫らした男を縛り上げて肩に担いでるような奴を、そうそう通せるわけねぇだろ」


 そう。私が担いでいるのはロープでグルグルに縛られた人間だ。

 彼はアルトの店に関する風説を流布した実行犯で、計画してる場にシルヴィアもいたらしく、私がお願いすると替え玉の男と同様に彼のこともすんなり教えてくれた。

 なのでここに来る前に彼の家を訪問し、フィリップのところへ届けに来た次第。顔が少し(・・)だけ腫れてしまっているが、要求に応じず暴れだしたので取り押さえる時に手荒な手段に出ざるを得なかった。なお、キチンと彼も自分の犯行であることを自供してくれたので、犯人であることは間違いない。


「そう。ならしかたない――勝手にお邪魔する」


 ということで、残念ながらフィリップ邸でも門前払いされたので押し入ることにした。






お読み頂き、誠にありがとうございました!


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