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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード2.5「隣町ギルドの面倒な事情」

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2-2.見苦しいものを見せて申し訳ない



「今が好機」

「……え?」

「逃げるなら今のうち。私なら問題ない」


 私がうなずくと女性は慌てて立ち上がり、胸元を押さえながら「ありがとう」と礼を述べて通りの方へと逃げていった。

 これで彼女の方は大丈夫。後は。


「テメェ……」フィリップが起き上がる。「昨日のことといい、もう許さねぇ。ガキだろうが構わん。犯しまくってテメェの泣きわめく声を聞いてからぶち殺してやる」


 三人とも見るからに怒り心頭。フィリップは特に顔を真っ赤っ赤にして腰に差してあった剣を抜き取って、他の二人も同様にポケットからナイフを取り出す。もはや私を殺すことで頭の中はいっぱいと推定する。

 取り巻き二人はともかくとして、本人の言を信じるならフィリップはAクラス。私と対峙するのは今回で二回目であるわけだし、力の差を感じ取ってもよさそうなものだけれど、それも考えられないくらい怒りに飲み込まれているのだろうか。

 ともあれここから逃げることは容易だけれど、彼らがやる気に満ちあふれているようなので私もお付き合いすることにする。


「……『若さってのは適度にガス抜きしてやらねぇと暴走するのさ』」

「あぁ……?」

「なんでもない。独り言」


 今のはエドヴァルドお兄さんの言葉だけど、彼らもエネルギーと性欲がありあまり過ぎて、先程みたいな犯罪行為に走ったのかもしれない。この町は今日を限りで私とは縁が切れる場所だけれど、エネルギーを発散させて町の平和に貢献できるのであれば彼らに付き合うのもやぶさかではない。

 果たして、真っ先に襲いかかってきたのは金髪の取り巻き。ナイフを力任せにブンブン振り回して斬りかかってきた。それを一歩、二歩と下がって避ける。

 そしてナイフを持った腕が振り切った瞬間を見計らって、踏み込んだ彼の軸足を蹴り飛ばした。すると男の体がグルンと一回転。空中に浮いた体に、力を調整した裏拳を叩き込めば、私の後ろに吹っ飛んで顔面から地面を滑っていく。


「このっ!」


 続いて赤髪の男。最初の男よりも戦い方を知っているのか、ナイフを素早く突き出してくる。とはいえ、探索者なら駆け出しでもなんとかなるレベルではあるのだけれど。

 二度、三度と首や体をひねるだけでかわし、最後にがら空きになった懐に入って胸に掌打を当てると、男は数歩たたらを踏んだだけだった。どうやら手加減が過ぎたようだ。相手がモンスターだったら遠慮なくできるけれど、力加減が難しい。

 その隙に斬りかかってきたフィリップには前蹴りで蹴り飛ばし、ちょっと待っててもらう。仮にもAランクなのであまり手加減をしなかったら地面と並行に飛んでいって民家の壁にめり込んでしまったのだけれど、きっと大丈夫だろう。


「フィリップさん!? クソッ!」

「もう逃さねぇぞ!」


 後ろから金髪、そして前から赤髪が同時に迫ってくる。挟み撃ちになったことで私を倒せると思ったか、二人とも少し顔がにやけていた。だけど私を舐めないでほしい。


「――フェイク・シャドウ」


 小さく詠唱。直後に二人のナイフが私の顔面に届く。刃が貫き、けれどもたちまち影で作り出した偽りの私は消え失せた。

 しゃがんだだけの私が見上げると彼らは何が起こったのか分かっておらず、そろって相手の顔を見合ってキョトンとしていた。冥魔導とはいえ子供だまし程度のものだけれど、思った以上に引っかかっていて私の方が驚きである。

 固まったままの二人の腕を跳ね上げる。彼らの手から離れたナイフがクルクルと空中を回り、それを私がキャッチ。ナイフを縦に振るうと、それなりに値が張るものなのだろうか、悪くない切れ味であっさりとズボンのベルトが斬れた。

 ナイフを捨て掌底で二人の顎を跳ね上げ、まず赤髪の方を通りへ向かって蹴り飛ばす。さらに金髪についても胸部のシャツを掴んで同じ方向へと放り投げた。


「ひでぶぅっ!?」


 彼らの体が弾みながら滑っていき、最後に一回転して止まった。が、ベルトが役目を放棄したせいでズボンとパンツが地面との摩擦で脱げてお尻が丸出しになってしまい、通りからは悲鳴が上がった。最後のは不可抗力。見苦しいものを見せて申し訳ない。


「こ、こ、このガキがあああぁぁぁぁっっ!」


 そして残ったのはフィリップだけ。完全に冷静さを失った形相で剣を振りかぶり、私を頭から叩き斬るつもりで振り下ろしてきた。別に斬られるつもりはないのだけれど、仮に私が一般人であって殺人となってしまったらどうするつもりなのだろう? ギルドにいろいろと便宜を図ってもらっているし、親が名士というから町にも融通は利くものと推測されるが、さすがに殺人まではかばえないと思料するが。

 ともあれ、振り回す彼の剣戟を避けながら動きを観察。さすがに探索者なので動きの基本はできているけれど、剣の振りは特別速いわけじゃないし、踏み込みも鋭いわけじゃない。せいぜい駆け出しを卒業したB-3クラスくらいの実力だろうか。

 強いスキルを保持している可能性を否定出来ないので慎重を期して避けていたが、何かを使う素振りは一向にない。

 なのでこれ以上の戦闘は無意味。そう判断し、私の方から踏み込んだ。


「死にさらせぇっ!」

「遠慮する」


 振り下ろされた腕を受け止める。剣が途中で止まり、フィリップは尚も力を入れて私を叩き潰そうとしてくるけれど単純な力ではやはり私の方が強いらしい。怒りも相まって顔は真っ赤だけれど、私がつかんだ腕をひねり上げると悲鳴を上げて剣を落とした。


「あでででででででっっっ! こ、んのぉ……!」


 悲鳴を上げつつも私に向かって手を伸ばしてくる。意外と根性と呼称されるものはあるのかもしれない。

 私は戦闘を継続する意志ありとみなして左腕で彼の腹部に掌打を打ち込む。苦悶の声を出して前かがみになったところでその顔を右脚で蹴り上げた。

 彼の体が空中に浮かび上がりそのまま縦に回転する。仰向けになって地面に倒れたところで私は彼の両足を掴み上げ、そして――


「のおおおおおおおおおぉぉぉっっっっっ!?」


 回転しながら体全体を持ち上げる。なんと言ったか――そう、確かジャイアントスイングだっただろうか。彼の頭が路地の壁にギリギリ当たらないよう気をつけながら、このまま彼の取り巻き同様通りの方へと放り捨てようとした。

 のだけれど。


「あ」


 思わず声が出た。

 グルグルと回転していた彼の体が私の意志に反してポーンと通りへと飛んでいった。私の手元にズボンとパンツを残して。どうやら彼は、性欲を発散するためにベルトを外してそのまま締めずに私と戦っていたらしい。

 下半身を守るものを置き去りにして飛行した彼は、壁にぶつかりながらもとりあえず当初の目論見どおり路地から通りに出てはいった。だけれど下半身は丸出しだ。なので。


「きゃあああっっ!?」

「へ、変態よっ! 変態がいますっ!」

「おい、あれ、もしかしてツヴァイク家のフィリップ坊っちゃんじゃねぇか?」

「こんな昼間っからパンツも脱いで何やってんだ?」

ナニ(・・)しようとして、女に振られたんじゃねぇの? いい気味だ」


 昼間のそれなりに大きな通りなので通行人もそこそこにいる。方々から悲鳴が上がるけれど、段々とクスクスという笑い声も増え始めていった。


「くそっ……お前ら! 何見てやがるっ! どっか行けっ!」


 フィリップも凄んで怒鳴り散らしはするものの、鼻血を垂らしながらかつ下半身裸なので残念ながら迫力もない。その姿に余計町の人たちの押し殺した笑い声が増していった。どうやら名士の息子ではあるけれど、彼は町の人たちには好まれてない模様。推測だけれど、ギルドでそうだったように町の人たちに対しても横柄な態度を取っているのだと思う。


「返却する」


 路地から出てズボンと下着を手渡すと、彼はひったくるようにして奪い取り私をにらんでくる。意図してなかったとはいえ、なんだか申し訳ない。


「テメェ、覚えてやがれっ!」

「フィ、フィリップさん、待って下さいよぉ!」


 ズボンを抱えて前を隠しながら彼は走り去っていく。近くで尻丸出しで倒れていた取り巻きたちも、ズボンを引っ張り上げながら彼を追いかけていき、その姿を町の人たちは笑いながら見送った。

 必要以上に騒がしてしまったけれども、事案は完了したと判断。彼らに襲われてしまった女性はこちらとは反対側の通りへと逃げたので無事は見届けていないけれど、おそらくは無事だと思う。

 ポケットから時計を取り出して確認すると、すでに列車の発車時刻になろうかという時間だ。しかたない。また次の列車に乗ることにしよう。

 しかしそうなると、数時間の猶予ができてしまった。とはいえ、この町ですることはない。

 本でも買って料理の勉強でもしていようか。そう思いつき、私は路地に置いてあったカバンを拾い上げて本屋を探しに行こうとした。

 ――のだけれど。


「な、なあっ!」


 後ろから呼び止められて振り向く。

 するとそこには、私と少年がじっとこちらを見つめていたのだった。




お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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