表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード2.5「隣町ギルドの面倒な事情」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/177

2-1.今朝、解雇を宣告された


 出勤早々、私を待ち受けていたらしいギルド長が言い渡した瞬間、ギルド内が静まり返った。


「まだ二日、契約が残っていたはず」


 ランドルフから聞いていたのは全四日間。引き受けたからには最後までやり遂げる所存なのだけれど、ギルド長はでっぷりとしたお腹の上で腕組みをしてわざわざ私を待ち伏せていた。眉間にシワが寄って口も「へ」の形に歪んでしまっている。だから期待は望み薄だと私でも分かった。


「いや、もう十分だ。ご苦労だったね。ささ、とっととルーヴェンに戻りたまえ」


 ぞんざいな口調で追い払うような仕草をしてくる。どうやら私は相当に嫌われてしまったらしい。このギルド長とは、初日に挨拶をしただけで特に何かをした覚えはないのだけれど。


「理由の説明を要求する」

「理由? 説明の必要などない。不要になったから帰れと言っているのだ」

「帰るのは承知した。けれども貴方の言っていることは不合理。契約に反することをしているのだから通常は合理的な説明が必要」

「やかましいっ! さっさと私の前から消えろ!」


 怒鳴るばかりで説明をするつもりはない模様だ。かなり怒っていて対話の継続は不可能と判断し、私はそれ以上説明を要求することを諦めた。

 私としてもそこまで拘る気もないため、「それでは失礼します」と一言だけ彼に告げて背を向けた。


「まったく……ああ、どうやってツヴァイク様のご機嫌を取ればいいのやら。クビにするだけで怒りを鎮めて頂ければいいんだが……」


 出口に向かって歩いていると、私のムダに高性能な聴力が彼の独り言を捉えた。ツヴァイクとは誰だろう、と一瞬考えたが、そういえば昨日騒いでいたフィリップのファミリーネームがツヴァイクだったと思い出す。ツヴァイクというファミリーネームを以前にどこかで聞いたことがある気がするけれど、それはともかくも、なるほど、事情はなんとなく理解した。

 要は私に対してクレームが入ったということなのだろう。ユハナ曰く、フィリップはこの町の名士の息子。さらに、本当かどうかは疑わしいものの彼自身Aクラスの探索者。昨日の行動を見る限り、それらを笠に着て傍若無人でわがまま三昧だった。

 くわえて、「Aクラスだ」と連呼していたので相当にプライドも高いものと推察する。そんな彼が公衆の面前で私に放り出されたのでプライドが傷つき、ギルド長に私をクビにするよう迫った、というところか。

 ギルド長もフィリップたち親子には頭が上がらないと容易に推測できる。だからといって、ギルド規則違反を黙認し、注意をした私を言われるがままクビにするのはギルド長としていかがなものかと思うけれど。


「でもこれで早く帰れる」


 私の本拠地はルーヴェンであるし、エナフのギルドをクビになったところで困ることは一切ない。いや、そういえば報酬はどうなるのだろうか。そこだけは気になるところだ。後でランドルフに確認しておこう。


「ん? なんだね、私に何か用――お、おい、君たち。私を取り囲んでどうするつもぉぉぉぉぉぉぉっっっ!?」


 ギルドを出たところで、程なくギルド長の悲鳴と職員や探索者たちの怒鳴り声が聞こえてきた。が、全員が無秩序に叫んでいるせいで何を言っているか聞き取れないし、そもそも中で何が行われていてもすでに私は無関係で興味もない。そもそもうるさいのは嫌いだ。なので私はすぐにその場を離れたのだった。




 ギルドから与えられていた宿舎に戻り、荷物の整理を済ませる。とは言っても持ってきたのは着替えのメイド服が二着に下着、それとクレアから渡された義手と義足の簡単な整備道具くらい。なので帰る準備はすぐに終わった。

 時刻はまだ十時を過ぎたくらい。帰りの列車の時刻を調べると、次の電車はお昼過ぎで時間がある。なのでクレアに頼まれたお土産を探しに町へと出かけた。

 お土産とは言うけれど彼女はお菓子などの名産品には興味が無い。

 頼まれたのは珍しい迷宮素材に義手などを弄くるための工具、あるいは武器や防具。だけれどもルーヴェンは大きな迷宮都市なのに対して、エナフは小さな町だ。迷宮もルーヴェンよりも相当に小さい。お店を一通り見て回ったけれども、どれもルーヴェンで手に入りそうなものばかりだった。だから残念ではあるけれども、クレアのリクエストには応えられそうにない。


「ロナには……コーヒー豆」


 店先に並んでいたお菓子をクレア向けに適当に購入し、ロナ向けにはコーヒー豆を購入した。幸いコーヒー豆は、普段店に置いていない産地のものがあった。しかしながら何故カフェのオーナーである私が、客であるロナがカフェで淹れるコーヒー豆を購入しているのか。これが分からない。

 そうしていると時間も良い頃合いになっていた。これから鉄道駅へ向かえばちょうど列車が到着する時間になるはず。それなりに満たされた旅行カバンを握って私は駅へと向かっていた。

 その途中だった。


「きゃ……ちょ、いや……!」


 微かな女の人の声が聞こえて振り向いた。けれど、そこにいたのは普通に歩いている人ばかり。特に様子がおかしい人は見当たらない。

 聞き間違い? 確かに声は小さかった。でも私の聴覚はしっかりと声を捉えた。普段は邪魔でしか無い聞こえの良さだけれど、こういう時に気のせいということは滅多にない。

 改めて周囲を観察しながら来た道を戻っていく。


「……、……!」


 するとさらに小さな、けれども強い語調の声がした。それも複数。それから一拍遅れて何かを叩くような音。いずれもくぐもっていて言葉の内容までは私の耳を以てしても聞き取ることができなかった。

 でも、ただ一つ聞き取れた単語があった。


「たす、け……――」


 助けを求める声。間違いない。声の発信源は、右。少し前方にある路地と推定。そこに足を踏み入れると少しだけ聞こえてきた声が大きくなった。

 足元を見下ろす。何かを引きずったような痕があった。それと女性ものと思われるバッグが一つ落ちている。

 路地に入り、さらに左へ。一層道幅は狭くなって行き止まり。両隣は窓の無い石造りの家の壁になっていて、陽も当たらない空気が澱んだそんな場所にたどり着いて。


「……あ?」


 そこで、男性三人が女の人を組み敷いていたのだった。


「あぁ……?」


 私の気配に気づいて三人組が振り向く。三人のうち、両側にいる二人は知らない顔だけれど、真ん中の人間には見覚えがある。というよりも、さすがに昨日の今日で忘れるほど私の記憶回路はまだ狂ってはいない。


「フィリップ・ツヴァイク」

「ちっ……誰かと思えばまたテメェか」


 私を見るなりフィリップが不機嫌そうに顔をしかめた。それから手に持っていた瓶を傾け、喉を鳴らして飲み干していく。匂いから推定するに、おそらく中身はお酒。うす暗いため分かりづらいものの、三人とも顔が赤い。地面を見れば何本も同じ瓶が転がっていて、標準的な男性の摂取量と比較して多量のアルコールを摂取した模様だ。

 フィリップが半分以上残っていた酒を一気に空っぽにし、満足そうに息を吐いた。それから何かを思い出したのか、ヘラヘラと笑いながら私を見た。


「そういえば昨日はずいぶんと世話になったなぁ。ところで……今日はどうしたんだ? 仕事はサボりかぁ?」

「否定。今朝、解雇を宣告された」

「解雇!? 解雇ってぇとクビか! はっはぁ! そりゃかわいそうに!」


 フィリップが大仰な仕草で恣意的に驚いてみせる。憐憫を口にしてはいるが、対照的に表情は嬉しそうである。


「同情は不要。おかげで早くルーヴェンへ帰れる」

「はっ、強がんなって」

「強がりではない。本心」


 彼がギルド長を通じて私をクビにさせたのは明白だが、その行動原理は昨日の件に対する意趣返しである可能性が濃厚。そこから推測するに彼としては私の悔しそうな表情を期待していたのかもしれない。


「ガキが……スカしてんじゃねぇよっ!」


 が、戦争中の訓練プログラムの賜物で、残念ながら私の感情はそう容易には動かない。表情も一切変わらないのが面白くなかったようで、再度舌打ちをすると酒瓶を私目掛けて投げつけてきたのでそれをキャッチする。


「ゴミはゴミ箱へ」

「メイド服着てメイドの真似事してんだ。テメェが捨てときな」


 別に真似事をしているわけではないが、代わりに捨てる分には構わないのでそのまま持っておく。

 それより。


「何をしている?」

「見りゃ分かんだろ……って、ガキにゃまだ早ぇか」

「私は十七。ガキではない」


 彼の言うとおり行為自体は推測が可能である。

 三人ともズボンのベルトを緩めて今にも下ろしそうではあるし、組み敷かれた女性の胸元ははだけて乳房が露出している。通常はベッドの上で行うものと思料するけれど、中には野外での行為を好む人種もいるのは知っている。実際、昔エドヴァルドお兄さんとの仕事中に、暗殺対象者がそういう行為をしている現場に出くわしたこともある。


「ならそれこそ見りゃ分かんだろ。へへ、このお嬢さんが俺たちと遊びたいんだと。しかも外が希望ときた、とんだ変態さ。俺たちも暇でな。だから相手をしてやってんだ。なぁ?」


 フィリップが同意を求めると、両脇の男性二人も緩んだ顔で肯定した。だけど女性の様子から推定するに、彼らの主張には無理がある。

 服は引き裂かれて、口のあたりにはアザ。少し血もにじんでいる。暴力を奮われた可能性は高い。そういったシチュエーションを好む人間もいるらしいけれど、それならば彼女が助けを求めた理由が不明。


「ってわけだ。分かったらとっととフィリップさんの前から消えな」


 取り巻きが凄みながら近づいて手を伸ばしてくる。けれど私に触れる直前に、義手でその腕を掴んだ。


「うぇ?」

「説明に論理的整合性が欠如している」

「のわぁぁぁっっ!?」


 取り巻きの男を右手で持ち上げ、投げ飛ばす。悲鳴を上げながら飛んでいってフィリップたちを巻き込んで転がり、そして組み敷かれていた女性の体が自由になった。



お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ