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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード9(Final)「カフェ・ノーラと――」

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Finale-1.APERTO(開店中)




 扉を開けて私は外に出た。数段しかない階段を下りて迷宮に降り立つと振り返り、店の全景を眺める。

 デザインこそ変わらない。けれど、何度も壊されて傷だらけのボロボロだった扉はキレイに生まれ変わって、汚れが目立ってきていた外観も今や新築そのものに生まれ変わっている。もっとも、扉はすぐにまたボロボロになる運命なのは変わりないけれど。


「でも、キレイなのは気持ちいい」


 色々とあったあの事件から、数ヶ月が経った。

 戦いを終えた後は歩けないくらい疲労困憊。シオに抱えられ、みんなのお陰で無事に店にたどり着いたはいいものの、すっかり忘れ去っていた、半壊してしまった店を改めて見た時は虚無感と一層の疲労感に襲われて今度こそ気を失いかけた。でもこうしてなんとか再建できた今となればいい思い出だ。貯金はだいぶ減ったけれど。

 店の全景を眺めてしばらくの間こみ上げる喜びに任せて口元を緩めていたけれど、こうしてばかりもいられない。今日からやっとリニューアルオープンなのだから。私はドアにかかっているボードを「APERTO(開店中)」にひっくり返して店の中へと戻っていった。

 さて。

 店が新しくなったといってもやることは変わらない。クレアはいつもどおりカウンターで武器や義体パーツの整備をしているし、ロナは前と同じく、何故か開店前から居座ってコーヒーを嗜んでいる。彼女らを横目で眺めつつ、カウンター横にシオと並んでお客様が来店するのを待った。


「なんだか、お店が広くなって違和感がありますね」


 シオがつぶやいたとおり、店を建て直すにあたって居住区画を含め店を大きく拡張することにした。おかげでカウンター数席とテーブル席が三つだったこじんまりの店がそれなりに一端の店になった。確かにそれも違和感の一因かもしれない。

 だけれど。


「違和感の理由は店の広さというよりもこっちが原因」


 まだお客様もいないというのに、店内は随分とにぎやかだった。というよりも騒がしい。私がキッチンを向いてしかめっ面をすると、シオが苦笑いを浮かべた。


「さっさとその手に持ってる物を置きなさい、セイ!」

「うっせーな。アタシに指図すんじゃねーよ、トリー」

「指図じゃありませんわ! 店の売り物に手をつけるなと言ってるだけじゃないの!」

「ちょっと二番! それアタシのパフェ!」

「いいじゃない、ちょっとくらい食べたって減るもんじゃないし。五番は相変わらずケチね」

「食べたら減るに決まってんでしょうが!!」


 キッチンであれこれと騒いでいるのは私の「妹」たちだ。

 事件のあと、行き場も無く普通の生き方を知らない彼女らを私は「長姉」として引き取ることにした。ここで働きながら新しい生き方を考えてもらう予定だ。改修前に比べて客が増えるとも思わないけれど店舗を広くしたのは、彼女らの居住区を増やすという意味合いが大きい。

 引き取ってからというもの、当初は戸惑いと「母」を失った寂寥で元気を失って部屋に閉じこもってばかりいたけれど、みんなと一緒に過ごす内に徐々に元気を取り戻していった。

 そして今日もいつもどおり元気。それは実にいいこと。なのだけれど。


「とりあえず黙らせてくる」


 今日からは店も通常稼働。スタッフが騒ぐのはよろしくない。私はキッチンに向かった。

 騒ぐ妹たちの隙間をすり抜け、冷蔵庫から食材を取り出して真新しくなった調理台の前に仁王立ちをする。あらゆる魔導を駆使して、一瞬で材料を切って炙って炒めて、フライパンのまま次々に妹たちの口へと料理を押し込んでいく。

 その結果――


「エグいことするで……」


 キッチンに出来上がったのは死屍累々。妹たちは漏れなく全滅したので、邪魔な死体の山をポイポイと奥の居住区画へと放り込んでいく。精霊と離れてなお料理の味が壊滅的なのは悔しいけれど、こういう時には役に立つ。


「これで良し」

「良いんでしょうか?」

「……まあ静かになったんやし、別にエエやろ」


 シオが心配そうに積み上がった妹たちを見てるけれど、大丈夫、問題ない。精霊たちと引き剥がされたとは言っても人間離れした頑丈さはまだ残ってるし、どうせ放ってても三十分もすれば全員復活する。

 と、手を洗ってホールに戻ったところでドアベルが鳴った。


「やっほー、ノエル! 早速遊びに来たわよ!」

「おう、三人とも久しぶりだな」


 入ってきたのはサーラとランドルフだった。相変わらずサーラの探索者姿は見慣れないし、防具に着られてる感じが拭えないので彼女が迷宮にいると不安しか覚えないけれど、今日はランドルフと一緒。であればこれ以上の護衛役はいないし安心だ。


「おーおー、一段と立派な店になったじゃねぇか」

「そんなことより、ほら、ランドルフ」

「へいへい、分かってるって。ほら、ノエル、クレア、受け取りな」


 サーラが脇を肘で突くと、店内を見回してたランドルフが肩に担いでいた大きな袋を手渡してきた。受け取るとズッシリと重い。中を覗いてみると、色んな食材や酒類が積み重なっていた。

 しかも。


「すごい……! これ、どれも最高級の食材ですよ!」

「しかも酒もエエもんばっかやん」

「これは、何?」

「私とランドルフからの開店祝いよ」


 それはとてもありがたい。とりあえずの食材は集めたけれど、まだ十分なレベルとは言えないから。

 とは言っても、これはちょっともらい過ぎな気がする。


「いいのよ。これまでも色々とノエルには頑張ってもらってたし。それにこの間の事件じゃ私たちギルドは何もできなかったから」

「落ち着いたたぁいえ、まぁだまだ世の中予断を許さねぇ状態ではあるがな。それでも世界を危機から救った『人』にせめてもの礼だ。受け取ってくれ」


 結局世界を救ったのはロナたち神族だし、私はそんな大層なことはしていないのだけれど、辞退したところで二人とも受け取らないだろう。あくまで名目は「開店祝い」だ。ならこれ以上拒絶するのも失礼だと思料する。


「感謝する。ありがたく使わせてもらう」


 笑顔を作って二人に礼を伝えると、サーラの顔がほんのり赤らんだ。隣のランドルフもどこか気まずそうに視線を逸らしている。どうかした?


「分かるで、サーラ。ガチで惚れそうになったんやろ?」

「うう……今の笑顔は反則よ……ってことで、はぁはぁ、もう我慢できま――」

「止めろ、ドアホウ」


 顔をいよいよ紅潮させたサーラが鼻息荒く飛びかかってきたけれど、私と接触する直前でランドルフがサーラの頭をつかんで止めた。さすがギルド支部長。元Aクラス探索者なだけはある。


「ちょっと! 何すんのよ、ランドルフ!!」

「やかましいわ。ったく、聞いちゃいたけどノエル相手の時だけとんでもねぇ動きしやがって。ほら、さっさとテーブルで注文するぞ」

「ダメよ、まだ久しぶりのノエル分の摂取がぁぁぁっ……! お願い! 助けて、ノエル!」

「ランドルフ」

「安心しろ。俺がいる限りお触り一つ許さねぇよ」

「ノエルが目の前にいるのに触れないなんて拷問よ! 死んじゃう! だからはーなーしーてぇぇぇっっ……!」


 荷物のようにサーラを肩に担いで一番隅のテーブルに向かうランドルフに手を振る。これで当分身の安全は確保された。


「へぇ、ますますいい店になったじゃんか」

「前の雰囲気も悪くなかったが、新築ってのも悪かねぇな」

「店の良し悪しはどうでもいいし。ノエルたちがいるからこそカフェ・ノーラだし」


 彼女らを見送ってすぐにまたドアベルが鳴った。今度はマイヤーさん、ジルさん、エルプさんの常連さんたちだ。


「いらっしゃいませ。久しぶり」

「ああ、ホント久しぶりだな、ノエル」

「開店が待ち遠しかったぜ。探索終わりにここでのんびりして帰るのが習慣になってたからな」

「楽しみが復活して嬉しい限りだし」


 前の店の経営は、マイヤーさんたちに支えられてたと言っても過言ではない。ぜひまたご贔屓をお願いしたい。


「もちろんだ。また頻繁に寄らせてもらうよ」

「客入りが落ち着いたら注文させてもらうぜ」


 最後にジルさんがそう言い残して、三人は前と同じカウンター席に陣取った。客入りが落ち着いたら、なんて。そんなにお客様が大量に来ることなんて――


「おいっすー、早速来たわよー」


 マイヤーさんたちが去ってすぐにまたドアが開く。今度はアレニアだ。そしてその後ろに少し隠れるように立っているのが一人。もっとも、長身のせいでまったく隠れられてないけれど。


「……やぁ、みんな。久しぶり」


 気まずそうに挨拶をしてきたのはクァドラだ。妹たちの中で唯一彼女だけは生活基盤が外にあって、こうして顔を合わせるのも数カ月ぶりだ。

 彼女がこうしてきまり悪そうな理由は一つ。店を半壊させた原因が、彼女が私を連れ去ろうとした戦闘だからだ。アレニアと一緒に来たことが示すとおり、私もだけれどシオもクレアもみんな彼女に含むところはない。店の再建費用も半分は彼女が出してくれたし、私を連れて行こうとした時も、可能な限り配慮してくれてたと記憶している。だから彼女には感謝しかないのだけれど、クァドラ本人はまだ引きずってるようだ。


「んもぅ……当事者の私たちが気にしなくていいってずーっと言ってんのに」

「そうですよ。あの場は、お互いの立場が違っただけで、僕たちをできるだけ傷つけないよう戦ってくれてましたし」

「だからと言って、ね……」


 ふむ、ならしかたない。


「罰として、クァドラはうちの常連になってほしい」

「え? でも、それは……」

「お、そりゃええやん。ついでにウチが作る装備のモニターにもなってや」

「いいですね。それじゃ、食材集めの時にもたまに付いてきてもらいましょう」

「アタシは護衛役として、深層に潜るのを手伝ってもらうことにするわ。残念だけど私だけじゃ深層で生き残れる自信がないのよねぇ。あー、誰かAクラスで私を守ってくれる優しい人がいたらなー」


 クァドラは私たちの提案に呆気にとられてたけれど、彼女の肩をポンとロナが叩いた。


「諦めな。みんなまた君と一緒に過ごしたいんだよ」

「……これは本当に重たい罰だね。大変そうだ」


 そう言いながらもクァドラは嬉しそうに笑ってくれた。

 たぶんまだ当分は彼女の心は完全に晴れることはないだろうけど、それでもきっと時間が解決してくれる。

 この世界でたくさん会える人がまた一人増えて、私も嬉しくて笑った。






お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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