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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード9(Final)「カフェ・ノーラと――」

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5-2.私は止める、貴女たちを





「なに……?」


 彼女らの行動が理解できない。そう思ったけれど、すぐにその意図が分かった。

 妹たちは苦悶の顔を浮かべながらも剣を自分の心臓目掛けて押し込んでいく。けれど血は一向に流れることはなくて、代わりに一層まばゆい光があふれ出した。

 六つの光がそれぞれ新たな魔法陣を描き出す。半径数メートルはある大きなそれは恐ろしいくらい緻密で、細かくぎっしりと術式が刻まれている。解析など到底不可能で、果たして彼女たちはいったいどのくらい前からこの術式を編み続けていたのだろうか。


「……?」


 やがて私自身も胸の内で昂ぶりのような魂の鼓動を覚えた。見上げれば、妹たちを取り巻く魔法陣が互いに一本の線で繋がっていって、相互に輝きを増していく。


(共鳴……)


 そんな言葉が頭に浮かんだ。まさしく共鳴だ。彼女らの魂――人間と精霊の双方の魂が共鳴し、震え、そうして凄まじいエネルギーを生み出そうとしていると直感した。

 そしてそれは私も例外ではなくて、彼女らの連携魔法陣の枠組みから離れていてもなお私の魂が揺さぶられている。このまま黙って彼女らの「儀式」を見ているだけなら、きっと私も巻き込まれる。


「……分かってる」


 私の中の冥精霊が囁いてくる。その囁きにうなずき、私は精霊の力を解放した。翼が一層黒い光を放ち、義手を変形させる。


「私は止める。ヴェネトリア、貴女たちを」

「ええ、止めてみせなさい。私は――押し通るまでよ」


 ヴェネトリアも白い翼を大きく羽ばたかせ、白精霊の力を本格的に解放した。手には光る剣を持ち、ビリビリと私の肌が痺れる。

 光と闇。「親」と「子」。この世界を滅ぼしたい彼女と、この世界で生きたい私。私たちはひどく対照的であり、混ざり合うことはない。

 私も彼女も背後に大量の魔法陣を展開していく。にらみ合い、じっと静かに時を待つ。

 やがて――どちらともなく私たちはその場から消えた。次の瞬間には、眼の前にお互いがいて、拳が、剣が障壁を叩き、魔導と魔導がぶつかり合う。

 そうして激しい戦いが始まったのだった。






 黄昏始めた瑠璃色の空に閃光が何度も瞬いた。

 黒と白の塊が何度も離れ、何度もぶつかり、何度も弾け飛ぶ。その度に凄まじい衝撃が辺りに叩きつけられ、地上付近でぶつかった時には付近の物が一気に吹き飛ばされていった。

 そんな近づくものすべてを拒絶する戦場に、一台の車が向かっていた。

 ブリュワード王国の最南端。海に大きく突き出した岬の先端へ紅い車が猛スピードで突き進んでいく。やがて車で行ける限界に到着すると急停車し、包帯を巻いたクレアたちが飛び出した。崖のギリギリまで駆け寄り、遠く離れたノエルたちを認めるとその戦いの様子を眺めながらクレアはキセルを取り出した。


「……まさに人ん枠を超越した戦いやな」


 飄々とした口調ながら、その眉間には深いシワが寄っていた。横に並んだシオとアレニアも似た表情を浮かべる。

 近づいたと言っても、まだ海を挟んで数十キロはある。その距離でもノエルたちの戦いが見えるのは間に遮蔽物がないのと、それだけ二人の放つ力が苛烈だからだ。

 自分たちが近づけるのはせいぜいここまで。今、繰り広げられているのは、顕現した精霊同士の戦いだ。純粋な人間の枠では強者である三人といえども、ノエルたちはまさに次元が違う。近づいたところでできることなどなく、すぐに吹き飛ばされ圧倒的な力の余波で摩滅するだけだと分かっている。

 それでも。


「ノエルさん……」

「なんとか海を渡って近くまで行けないのかしら?」

「無理や。海を挟んであっち側は聖フォスタニアとエスト・ファジール。どこもかしこも戦争おっ始めたせいで、民間の船は国境をうかつに渡れへん」

「じゃあ……ここから見守ってるしかないっての?」


 アレニアに食ってかかられ、クレアは視線を逸らした。アレニアも八つ当たりと自覚してか、悔やむように明後日へと視線を向ける。


「自分たちで船をチャーターしたらどうでしょう?」

「船の操舵はどないする?」


 クレアに問われてシオは視線を海面に落とした。

 天候のせいか、ただでさえ海は荒れていた。まして、近づけば上空で戦っているノエルたちの余波で海面がさらに荒れ狂ってるだろうことは容易に想像ができる。シオは船の操縦などしたことはないし、たぶんクレアとアレニアも同じだろう。素人の操縦で到底海を渡れるとは思えなかった。


「何か方法は……?」


 独り言のようにシオがつぶやき、だが必死に考えたところで容易に妙案は生まれない。かと言ってここで黙って眺めているだけなどできようはずもない。

 ノエルたちの戦いに直接介入などできそうもない。それでも、できるだけ近くで。そうすれば何か手助けできることがあるかもしれない。

 やはり危険を承知で、自分たちで船を操縦していくのが最も早い気がする。シオは顔を上げてそう提案しようとした。だがそこに聞き慣れた声が届き、言葉を飲み込んだのだった。


「ノエルの近くに、行きたいかい?」







お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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