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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード8「カフェ・ノーラと王立学院」

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8-3.貴女は――何?




 地上への道のりが平坦だったか。そう問われたなら私は「Nein」と応じる。

 生徒たちを守りながらこの異常な迷宮を進む。それは私が想像していた以上に困難だった。けれども、生徒たちがただ守られるだけの存在では無かったのも想定外。だからこそ順調に進むことができた。

 みんな小さな怪我は多数。私とシオはともかくも、疲労は肉体的にも精神的にも限界に近い。学科長もだんだんと魔導の威力が落ちてきたように思う。


「今、何階層だよっ……?」

「たぶん二階層になったくらいだ! みんな、頑張れッ! 一階層までくればほとんど敵はいないはずだ!」


 グレッグの励ましに、全員が力を振り絞る。彼の言う通り、一階層までいけば、モンスターの数はグンと減少するはず。

 何度目か数えるのも面倒になる敵の襲撃を蹴散らす。地上が近づいて敵も数が減ってきているようで、圧力も落ちてきている。大丈夫、このまま行ける。

 そうして二階層目も終わりに近づこうとしていたその時、再び大きな振動が迷宮全体を襲った。


「っ……! これまでより大きい……! みんな頭上に気をつけて――」


 シオが注意を促す。だけど言い終わるよりも早く――足元が突然割れた。


「んな――」

「危ないッ……!」


 ちょうどひび割れたところに立っていたロランが足を取られてバランスを崩す。さらにそこに、崩れ始めた天井が落下してくるのが見えた。

 銃では破壊しきれない。そう判断し、精霊の力を即座に呼び出して冥魔導を発動。巨大な黒い矢が突き刺さり、岩石は木っ端微塵に砕け散った。

 細かな破片がロランを傷つけていき、頭部や脚からつぅと血が流れるもかすり傷。無傷で救出したかったけれど――


「致命傷を避けられただけ今は良しとするべき」

 

 今為すべきことに集中しろ。お兄さんの口癖を思い出し、私はバーニアを噴射した。

 また岩石が落下してくる。それが押しつぶす前にロランを抱えあげ、救出に成功。呆けているロランを地面に下ろした。

 それはいいけれど。


「道が……!」


 マリアが立ち尽くしていた。眼の前に広がるのは、崩落した瓦礫の山。道を完全に分断し、そして私たちパーティも分断されてしまっていた。


「ノエルさんッ! 無事ですか!?」

「状況報告。ロランが負傷するも軽傷と思料。こちら側には他にマリア・ライトがいる。そちらの状況を」

「こっちは全員無事です! すぐに助けに――」


 何度目か分からない大きな振動が揺らす。頭上からはパラパラと小さな欠片が断続的に落下してくる。


「シオは先に生徒たちを外へ。私たちもすぐに追いつく」


 しばしの無言が返ってくる。シオの性格を鑑みるに葛藤していると推察する。けれど、今優先されることは彼も理解しているはず。


「……信じてますよ」

「問題ない。生徒たちは必ず連れて戻る」


 足元から轟音が響く。やがてシオたちが離れていく気配を感じる。その去り際にグレッグやシェリルたちから口々に「絶対に帰ってこいよ!」という旨のメッセージをもらった。もちろんそのつもりだし、嘘を吐くつもりもない。

 何としても生徒たちは外へ帰す。それが私の責務だ。


「ロラン、傷の状態は?」

「これくらいかすり傷だよ」頭から流れる血をロランが拭う。「それに……どうせもう未来は決まってるんだ。この程度の怪我を気にしたってしょうがねぇよ。しっかしユリアン……まさかアイツと一緒の場所で死ぬなんて、思ってもみなかったけどさ」

「悲観の必要はない。貴方たちは無事に帰す」

「この状況でかよ」


 ロランが鼻で笑った。どうやら彼はすでに諦めているらしい。マリアも瓦礫の前で立ち尽くしたままだ。私という存在を考慮しなければ、そう思うのも無理はない。


「気休めは要りません。先生の魔導の凄さは理解していますが、この状況では――」


 泣き出したいのを堪えた顔をマリアが向けたその時、また大きな揺れが私たちを襲った。

 そして――一気に足元が崩れ落ちた。


「あ――」


 一瞬で地面が崩壊し、ぽっかりと巨大な孔が生まれた。当然、私たちは全員投げ出され、ロランやマリアも悲鳴を上げる暇もなく黒い虚空に吸い込まれるように落下する。

 この事態は想像していなかった。が、私はすぐさまバーニアを噴射。加速して二人が伸ばした手をつかみ、抱き寄せた。

 視線を下に向ければ、もうすぐそこに地面が迫っていて、いわゆるゾッとする感覚が背中を走った。こういうのを肝が冷えるというのだろうか。ともかくも間に合って良かった。


「このまま一度着地する」


 バーニアで速度調整しながら着地し、見上げる。落下したのは目算で三十メートルくらいだろうか。だとすると、到達の証があった最奥部よりもずっと深いことになる。おそらく、誰も認知していない空間。元々あったものなのか、それとも迷宮の振動で新たにできた空間なのか気になるところではあるけれど、どちらにせよ長くいたいところではない。


「あ、ありがとうございます」

「謝辞は不要。教員として生徒を助けるのは当たり前」


 幸い、今は振動は収まっていて頭上からまた新たな何かが振ってくる気配はない。シオたちも心配しているはず。早く脱出して、彼らを安心させてあげなければ。


「ここを脱出する。私に捉まることを要請――」

「おや、もう行ってしまうのかい?」


 声が届いた。

 ハッとしてそちらを見る。そこには人が数人通れる程度の細い通路が伸びていた。そして、暗いその奥から人影がこちらに向かって歩いてくる。

 コツコツと、靴が地面を叩く音を響かせて、やがてその顔が視認できるようになるとマリアとロランが息を飲んだ。


「まさかこんなところで会えるなんてね。ふふ、運命論は嫌いだけど使ってしまう人の気持ちが分かったわ」


 奥から現れたのはクラリスだった。いつもと同じ屈託のない笑みを湛えてこちらへ近づいてくる。マリアとロランは、よく見知った彼女の姿に思わず表情を崩しているけれど、ほぼ反射的に私は右腕を彼女へと向けていた。


「ノエル……先生?」


 ロランの声がするが、私は彼女から目を離せない。どうしてこんなところに彼女がいるのか。どうして平然としているのか。いつもと変わらぬ態度の彼女に私は奇妙な違和感を覚え、そしてそれを裏付けるように私の中の精霊がうずくのを感じた。


「そう身構えなくても結構よ」

「貴女は――何?」

「『誰』ではなく『何』か。私に限らず人はあらゆる側面を持っている。故に、その質問に端的に答えるのは難しい。だけど」


 向けられた銃口に一切の動揺も怯えも見せず、クラリスは私に近づいてくる。

 そして彼女は答えた。


「ある側面のみを切り取って回答するのであればこう答えるわ。私はヴェネトリア・トリステメーア。『貴女と同類』であり、そして――『あなたの生みの親』である、と」






お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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