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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード8「カフェ・ノーラと王立学院」

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5-2.探索者同士の戦いを見せてやろうじゃないか



 さらに別の訓練日。

 今日は模擬迷宮――ではなくて外の訓練場を使った戦闘訓練の日である。

 迷宮で出てくるのはモンスターなのだけれど、さすがに本物を連れてくるわけにはいかない。なので今は生徒たちを分けて私とシオで相手している。

 私と対峙しているのはグレッグにジョシュア、それとシェリルの三人だ。グレッグを前衛で、残り二人が魔導で支援するというオーソドックスな陣形を構成して、先程から私へ攻撃を仕掛けていた。


「く、くらえぇぇ!」


 地魔導が得意らしいジョシュアによって私の足元から岩の槍が飛び出す。それを半歩ずれることで回避すると、避け際を狙ったシェリルが樹魔導を発動させ、一気に成長した芝が私の脚に絡みついた。


「グレッグさん!」

「任せろぉぉぉっ!」


 拳を突き出すポーズをしたシェリルの声に押され、大剣を携えたグレッグが飛び出す。大柄な体を目一杯活かして、鋭さと苛烈さを備えた一撃が私へと振り下ろされる。

 訓練なので刃は潰されているものの、生身の人間に直撃すれば怪我は免れない。訓練前は私の容姿を見てグレッグもためらっていたけれど、何度か試合した今となればそのためらいはすっかり消え去っていた。


「少し遅い」

「なっ!?」


 良い一撃だったけれど、判断、踏み込み速度、攻撃、どれもが少しずつ遅かった。

 瞬時に構成した焔魔導でシェリルの芝を焼き切る。同時に地面から射出した礫を大剣に当てて軌道をずらし、私自身も回避することで、大剣は無人の地面を強かに叩いた。

 無防備になったグレッグの足元を蹴り飛ばし、バランスを崩した彼がたたらを踏む。その肩を掴むと、私はそのままジョシュアとシェリルへ向かって投げ飛ばした。


「うわっ!?」

「ちょ、来ないで――」


 二人が逃げようとするけれど間に合わない。グレッグに押し潰され、三人揃って地面に転がったところで、地魔導による土で彼らの体を押し固めて試合は終了した。


「あー、クソ……上手くいったと思ったんだけどな」

「私も……まさかあんなに早く拘束を焼き切られるとは思わなかった」

「うう、ノエル先生強い……」


 拘束を解除した三人が肩を落とす。けれど私としては驚きの方が強い。さすがは王立学院の生徒で、剣も魔導も非常に優秀と評して然るべきと思料する。


「落胆は不要。みんな優秀。これからも日々腕を磨くと共に、相手の行動に対する対処法をストックしていくと良い」

「対処法をストック?」

「肯定。実戦では相手を観察してそのストックから適切な対処を引き出すようにする。そうすれば勝率も上がってくる」

「なるほど……」

「その上で助言。グレッグ・ワイズマンは足腰を重点的に鍛錬するのが適切。そうすれば速度も攻撃力も安定する。ジョシュア・ジーンは、牽制に魔導を使うなら威力を落として数を増すのも選択肢の一つ。シェリル・クィンは後少し魔導の発動が早いと脅威。魔導の構成と解を頭に叩き込んでおくべき」


 三人とも私のアドバイスに熱心に耳を傾けうなずく。三人とも私に対する侮りは無いし、目にもやる気が満ちあふれて好ましいことだと思う。

 視線をシオたちに移す。ロランとマリアの二人とも魔導剣士タイプらしく魔導で補助しながら鋭く剣を振るっていた。と言っても、補助してるのは主にマリアでロランはひたすら攻撃魔導を繰り出しながら接近戦を試みているだけだけれども。


「このっ……当たれっての!」

「それは無理な相談だなぁ。だって当たったら痛いもの」


 二人の攻撃はお世辞にも連携が取れているとは言い難い。それでも普通の探索者レベルならすぐに倒されてしまうだろう程度には攻撃は素早く、踏み込みは鋭い。

 しかしながらシオは涼しい顔で攻撃をかわしていく。軌道を見切っていることを示すように最小限の動きで。ロランとマリアの表情からも焦りが募っていくのが丸わかりだった。

 やがてずっと回避ばかりだったシオが攻勢に出る。ロランが剣を振り被ったその一瞬で後退を止めて前に出る。面食らったロランが慌てて振り下ろすも、その支点となる腕を手でブロックして逆に跳ね上げた。


「ロランッ!」


 マリアが慌ててフォローに入るもシオは彼女の刺突を半身になって回避して、突き出した手から剣を叩き落とす。急いでマリアも魔導を発動させようとするけれど、すでに視線の先にシオはいない。


「はい、おしまい」


 二人の背後に回り込んで、素早く順に脚を払う。宙に浮いた二人の体をそのまま片手でクルリと回転させ、最後には優しく背中から着地。ロランもマリアも、何が起きたか分かってないようで目を丸くして青空を眺めていた。


「……参りました。さすがお強い。しかしここまで手も足も出ないとは……」

「まぁこれでもB-1クラスの探索者だからね。それに――」


 マリアの称賛に照れたように頬を掻く。そして二人を引っ張り起こすとシオは私たちの方へと振り返った。


「――もっと強くならないと、守りたい人も守れないから」


 ……たぶんシオは独り言のつもりでつぶやいたのだと思料する。けれど聴力の良い私には丸聞こえで、彼の言う守りたい人が私であることはさすがに自覚している。私を思う気持ちが伝わってきて、なんとも言えない恥ずかしい気持ちになる。私は思わず違う方向を向いて風魔導を顔に当て、火照りそうな顔を冷ましたのだった。


「よぉ、どうもどうも」


 そこに、軽い調子で聞き慣れない声の主が入り込んできた。振り返れば、軽鎧と長剣を装備した金髪の男性がいた。髪は短く刈り込んでいて、少しタレ気味の眼差しからは侮りと嘲りがにじみ出ている。それをあまり隠そうともせずに私を一瞥すると、シオの方へと近づいていった。


「あ、はい、どうも。貴方は確か……」

「アザート・ハザロフだ。ユリアンの坊っちゃんに雇われた探索者でね。あっちのチームの指導教官を務めさせてもらってるよ」


 そういえばそういう人間もいた。もう一方のパーティとは殆ど関わることが無いからすっかり忘れていた。何か用だろうか?


「んー、用があるっちゃある、無いっちゃ無いな。別チームとはいえ、一緒に迷宮に潜る仲だろ? なもんでぜひ親睦を深めてこいっていう坊っちゃんのご指示でね。自己紹介がてら挨拶にやってきたってわけだ」

「シオ・ベルツです。指導する生徒は違いますけど、当日は協力する場面もあるでしょうし、ぜひ宜しくお願いします」


 差し出された手をシオが握る。笑みを浮かべてはいるけれど少しぎこちない。どうやら警戒している模様で、私も容易に心を許すべきではないと思料する。


「ありがとうよ。ところでちと耳にしたんだが……アンタ、若いのにこの国じゃそれなりに腕に覚えがある探索者なんだって?」

「いえ、そんな……まだまだ強くならなきゃって思うばっかりです」

「謙遜することはねぇさ。探索者ってのは舐められたらおしまいだぜ? いつだって強気でなきゃな。それは相手が誰だって一緒だ。モンスターだろうが、ギルドだろうが、同じ探索者だろうが――学生だろうが、な」

「含みがある言い方ですね」シオが眉根を寄せた。「何が言いたいんです?」

「なに、ちょいとガキどもに一端の探索者同士の戦いってのを見せてやるのが良いんじゃないかって思っただけさ。大人だろうが生意気な子供だろうが、強い相手には本能的に従うもんだ。レベルの高さを見せつけてやれば、この後の指導が楽になるぜ?」


 そう言うとアザート・ハザロフは背中に差した長剣の柄を軽く叩いた。口元には嘲りを忍ばせつつロランの姿を視界の端で捉えている。彼の雇い主であるユリアンの方を見てみると、遠くから彼もまたニヤニヤと私たちを眺めていた。

 なるほど、理解した。基本的に鈍い私だが、兵器として戦場や暗殺の場に繰り出された経験上、悪意や敵意といった部分には鋭いと自覚がある。

 彼らはシオと私を貶めたいのだろう。戦って勝って自分らの力を誇示し、そしてそんな私たちに指導を受けているロランを間接的に辱めたいのだ。


「ん……せっかくの申し出でありがたいですけど、お断りします。ここの学生さんたちは、僕みたいな人間にもきちんと敬意を持って耳を傾けてくれてますから」


 シオとも目が合ったけれど、どうやら彼もアザートとユリアンの意図を察したらしかった。やんわりと断り、丁寧に挨拶して辞そうとする。だけど、その肩をアザートがつかんで止めた。


「まあそう言うなって。まだ若いアンタにゃ分かんねぇだろうがな、表面上はいい子を取り繕ってても、だ。こういういいとこの坊っちゃん嬢ちゃんってのは、俺らみたいな連中を心の何処かで蔑んでるんだ」

「はぁ」

「だからな? 自分たちが到底手の届かない『たっけー』所に俺たちがいるんだってことを見せつけてやるんだよ。なぁに、どんなに捻くれててもガキはガキさ。強いところ見せりゃ心の底から尊敬を貰えるぜ? そうすりゃ連中だってアンタの思い通りさ」


 アザートがシオの耳元でささやく。けれどシオは興味を示さず、大きくため息をついた。


「それに、聞いたぜ? あっちのちっこい嬢ちゃん、アンタの彼女なんだって? なら彼女にだっていいとこ見せてぇだろ? な?」

「はぁ……先程も言ったとおり、お断りします。あなたと戦う理由はありませんし、特に力を見せびらかす気もありませんから」


 肩においたアザートの手を払う。アザートはシオの背中をにらみながら大きく舌打ちすると、今度はわざとらしく大声でシオを侮辱し始めた。


「あーあー! 情けねぇやつだな! そんなに負けるのが嫌か!? 彼女の前で恥かくのが怖ぇのかよ!?」

「別に。もうノエルさんの前で恥は散々かいてますから」

「そうかいそうかい。ここまで言っても戦っちゃくんねぇか。なら――」


 相手にせず適当にシオがあしらっていると、肩を竦めたアザート・ハザロフの目が鋭くなったのを感じた。そして――彼が突然シオに襲いかかった。




お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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