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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード8「カフェ・ノーラと王立学院」

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1-1.最初の『教育』が大事




 ガチャン! とけたたましい音が店内に響いた。振り返ると、ジョッキのビールが波打っている。どうやらテーブルに置く時に、お客様が勢い余ってしまったようだ。


「そこで俺ぁこうだな……振り上げた斧で敵のドタマかち割ってやったんだよ! そしたらだ――」


 この店だとめったに聞かない音なので、私だけでなくマイヤーさんたちやシオたちからも一斉に視線が注がれているのだけれど、当のお客様は一切気づく様子はなく、三人が銘々に武勇伝を高らかに語り合っている。

 普段から閑古鳥が鳴きまくりのカフェ・ノーラに彼ら初見のお客様がやってきたのは約一時間前。テーブルの上には皿がたくさん並んでいる。来店時の話だと、十四階層からの帰りで偶然当店を発見し、興味を惹かれてやってきてくれたとのこと。真っ赤も真っ赤な経営状態となっているこの店でこうしてたくさん飲食してくれるのは経営者としても非常にありがたい。

 のだけれど。


「ガハハハハッ! そりゃ傑作だ!」

「だろ!? だろ!? そしてだなぁ――」


 店の外にまで響きそうな大声で騒ぐのは好ましくない。もちろん探索者に豪快な気質の人間が多いのは私も理解している。緊張感あふれる迷宮探索が終わった解放感から声が大きくなっているものと推測され、その心情も理解できる。だから少々の大声なら私も目をつむるつもりではあるのだけれど、さすがにこうも大声で、しかも端々に卑猥な話を交え始めるのは、マイヤーさんたち他のお客様もいる手前ご遠慮願いたい。

 くわえて。


「――おっと」


 大げさな身振りをしていた腕が当たり、テーブルの上からジョッキグラスが落下して割れる。もうすでに三回目だ。さらに言えば、先程から食いカスを床に落としたり、汚れた手を椅子の背もたれに拭いつけるのも勘弁して欲しいと思う。


「おーい、嬢ちゃん! 新しい酒だ! すぐに持って来いやッ!」

「あ、はい! ただいま――」

「馬鹿野郎ッ! テメェじゃねぇ! 俺ぁメイド服の嬢ちゃんに頼んでんだ! ガキは引っ込んでろ!」


 私の代わりに返事をしてくれたシオを強面の男が怒鳴りつける。シオは肩を竦めるだけだけど、私は多少の憤りを覚えながら、新しいジョッキを持ってテーブルに向かった。


「お待たせしました」

「おう、待ってたぜ!」


 手渡そうとすると、お客様がジョッキを受け取る素振りをしながら私の腕をつかんだ。


「私はジョッキではありません。それともう少しお静かに願います」

「まぁそう言うなって。迷宮で命張って戦ってよぉ、ちょいと俺も昂ぶってんだわ。こんな迷宮内に店構えてんだ。当然、そっち(・・・)の世話も取り扱ってんだろ?」


 彼の要求は性的欲求の解消と理解した。男女問わず極限状態では生殖本能が活性化されるので彼の要求は理解できる。しかし当店ではそういったサービスは行っていないので地上まで我慢して欲しい。


「ははっ! 嬢ちゃんはおっさんに興味はねーんだとよ!」

「そんなこと言うなよ。な? ちょーっとこのおっさんに付き合ってくれりゃいいんだ。へへ、金なら弾むぜ」

「もう一度警告します。速やかに手を離し、店内ではお静かに願います」

「つれねぇな。大丈夫、まだ()を知らねぇウブな嬢ちゃんだって俺にかかれば――」

「警告しました」


 後ろの方からジルさんの「あーあ」なんて声を聞きながら私はお客様、否、男の首を義手で撫で――そのまま高々と持ち上げた。


「ぐ……が、あ……」


 エドヴァルドお兄さんも言っていた。「男って生き物は馬鹿だからな。最初の『教育』が大事なんだ」と。


「したがって、当店の一番重要なルールを学習して頂きます」


 そう告げ、私は男を床に叩きつけた。「ぎゃひんッ!?」という悲鳴を上げながらバウンドして転がっていき、他二人がそれを唖然と見送った。


「こ……このジャリがッ!」


 別の一人が立ち上がり私に掴みかかろうとする。だけれども腕を振り上げた状態でピタリと止まった。


「そのまま動かないでください。僕も怪我をさせたいわけじゃないので」


 彼の背後。そこでシオが左手に銃を、右手にナイフを背中に押し付けていた。ただし、ナイフは刃じゃなくて腹の部分を押し付けてるところがシオらしい。もっとも、男はその事に気づく余裕もないようで、ゆっくりと両手を上げていった。

 すると視界の端で動く気配を感じる。残った一人を見れば、こっそりと壁際に立てかけてあった武器へ手を伸ばしていた。とは言っても私が動く必要もない。

 天井の照明を影が遮った。細長いシルエットのそれは私の頭上を越えていって、三人目の男の足元で「ドシンッ!」といかにも重量感のある音を響かせて落下した。


「やー、スマヘンスマヘン。ちょーっち手が滑ってもうたわ」


 彼の足元で、ハンマーが床板を貫いてめり込んでいた。それをクレアは軽々と持ち上げてクルクルと手で弄ぶと、肩に担いでからニッと笑みを浮かべた。


「さて……武器は離してもらおか? ま、ウチは別に構わへんねんけど、その場合――ドタマかち割ったってエエってことやんな?」


 笑顔でクレアが尋ねると、お客様は引きつった笑顔を浮かべたままゆっくりと武器から離れていく。せっかくのお客様に手を上げる事態は私としても避けたいので、状況を理解してもらって何より。

 それでも理解力に乏しい人間もいるらしい。私が背を向けているのをいいことに、最初に投げ飛ばした男が立ち上がって掴みかかってきた。


「このガキぃッ!!」


 手加減はしたものの、意識がとんでもおかしくないくらい勢いよく叩きつけたはずなのに。見た目に違わず頑丈らしい。

 なので今度は遠慮なくその脚を蹴り飛ばした。


「ひでぶっ!?」


 体が前に半回転。男が顔面を床に強かに打ち付ける。

 それとほぼ同時。けたたましい銃声が響いて床板が弾け飛んだ。

 変形した私の右腕から立ち昇る白煙。それ越しに、床で呆けた顔をしている男を見据えて私は改めて告げた。


「店内ではお静かに」






お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!

何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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