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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード7「カフェ・ノーラと恋の詩」

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6-2.「存在」としての在り方が違う




「……違う」


 果たしてそうつぶやいたのは自分か、それとも隣のトリーか。無意識に漏れたそれがどちらのものにせよ、おそらくは二人とも同じものを感じ取ったとセイは思った。

 あれは、誰だ。

 姿形こそノエルであるが、半ばすでに確信していた。あれはまったくの別物だ。瞳から感情が見て取れないだとかそういった違いはあるが、そんなものは些末。「存在」としての在り方が違うのだと直感した。

 自分たちも人間とは別のステージにいると自覚はある。しかし「アレ」はさらにその上にいる。融合している魂が膝をついて屈服しそうになるのを、人間としての意思がかろうじて二人を支えていた。

 黒混じりのまだらな金だったノエルの髪色が、全部漆黒へと変わっていく。宵闇よりも更に濃い黒だ。二人を一瞥すると、ノエルは立ち上がろうとしてバランスを崩した。義足が壊れて立ち上がれないのだが、当の本人は首を捻っている。

 けれどもう一度試みると、ノエルはスッと立ち上がった。見れば義足の周囲を黒い固形状のものが覆っていて、それが支える役割を果たしているようだった。

 一度は外した視線を、彼女は再びセイたちに向けた。その目を見た瞬間、二人は悟った。


(――来るっ!)


 瞳が湛えていたのは、明らかな敵意。二人は反射的にお互いを押しのけた。

 突如として背後から黒い矢が二人がいた場所を貫いた。気づけたのは奇跡にも等しい。そう思えてしまうほど直前まで何も気づかなかった。

 空を飛べないセイだが、水の膜で落下速度を調節して着地する。だが息をつく暇もなくその場を飛び退いた。

 足元から黒い影が追いかけてくる。それに囚われてはならない、と彼女は走る脚を止めない。逃げながらも彼女はノエルを取り囲むように無数の氷の槍を展開し、その鋭い切っ先を一斉に発射した。

 逃げ場など無い程に高い密度で槍がノエルを襲う。しかし、精霊と融合したセイのそれがノエルを串刺しにすることはなかった。

 彼女を中心として黒いドームが広がったかと思うと、氷の槍がすべてあっけなく砕け散る。その光景にセイは衝撃を受けたが、呆けている余裕などありはしなかった。

 四方の地面から飛び出した黒い影が飲み込もうとしてくる。その一つが彼女のつま先にかすかに触れた途端、自身の体から力が抜けていくのを自覚した。


「ぐっ……」


 このまま地上にいるのはまずい。彼女はそう判断すると、空中に氷の足場を作り駆け上っていく。そして、そこで見えた景色に違和感を覚えた。


「なに……?」


 目を凝らして遠く街を眺め、彼女は気づいた。

 街の灯りが、消えていっていた。

 日がほぼ沈んだ曇天の空はすでにかなり暗い。当然街の至る所で魔導灯が灯され、ネオンサインがあふれて煌々としているのが普通だ。人が活動を営んでいる象徴とも言えるそれが、次々と消失していっていた。


「おいおい! どうなってんだよっ!?」

「なぜ……何が起きてるんですの?」


 想定を遥かに超えた事態が起きているのは間違いない。だが何が起きているのか、セイには理解が及ばなかった。

 その時、パンッと何かが弾ける音がした。振り向けば、セイが作り出した大きな水球が弾けて、中に拘束していたアレニアとシオが地面に投げ出されていた。


「うっ……どうなってんのよ……?」


 拘束から解放されたはいいものの、脚から力が抜けていく。アレニアはうめきながらも、弟分たるシオを抱え上げてなんとか逃げ出そうとした。しかし力が入らず、いつもならなんということもないシオの体がやたら重い。数歩歩いただけで彼女はその場に崩れ落ちた。

 その様子を見ていたセイの頭の中で照明が消えていく街の姿と、先程黒い影に触れた時に感じた、自身の体から力が抜けていく状態が結びつく。


「まさか……魔素を、吸い上げているとでもいうんですの……?」


 黒い影は様子を窺うようにセイの眼下でうごめいている。しかしそれとは別にノエルを中心に影は見渡す限り全体を薄く覆い尽くしていた。

 ノエルの様子を窺う。目では見えないが、確かにセイは水の流れにも似た魔素の流れをかすかに感じ取った。それはすべてある一点――ノエルへと吸い込まれていっていた。

 再びセイの瞳がノエルのそれと合う。そして彼女の口元が、小さく孤を描いた。

 次の瞬間、ノエルの背から巨大な黒い翼が広がった。禍々しく、畏怖さえ感じるその翼を一度準備運動をするようにはためかせ。

 気づけば、セイの目の前にノエルがいた。


「っ!」


 反射的に腕を振るった。トリーのようで優雅さに欠けるが、それしかできなかった。

 だが、それもあっさりとかわされる。代わりに、彼女の口元がノエルの左腕で押さえつけられた。

 急激に抜けていく力。彼女は確信した。ノエルは、魔素を吸収する力を持つと。

 果たして、そんなことが可能なのか。いくら精霊と融合しているとはいえ、そんなもの人の身で保つはずがない。そんなことが可能なのはそれこそ、精霊そのもの――


「六番!」


 抜けていく力に、セイは思考すらままならなくなっていた。が、そこにトリーが割って入ったことで彼女は解放された。

 氷の足場にうずくまり、荒く肩で呼吸をする。戦闘しているであろうトリーの声を聞きながら呼吸を整え顔を上げ、そこで彼女は言葉を失った。

 繰り広げられていたのは一方的な戦闘だった。トリーがどれだけ拳を振るおうともノエルには当たらず、代わりに子猫をあしらうかのような態度で弾き飛ばされるばかりだった。

 離れたところで風魔導を発動させても、その全てが効果的な攻撃とはならない。風の刃をあらゆる角度から放ってもノエルの展開するドームに吸収され、竜巻を起こしたところで翼を羽ばたかせれば稚児のいたずらのように一蹴されている。

 残念ながら「格」が違う。セイは苦渋の決断を下した。


「お姉さま! 撤退しますわよっ!!」

「クソがっ! ここまでコケにされて引けっかよ! せめて一矢――」

「撤退って言ってんでしょうがっ!」


 珍しく語調を荒げたセイに、トリーは気圧されて押し黙った。ノエルを牽制しながらも距離を起き、バツが悪そうにセイの隣へ戻ってくる。


「……悔しいですけれど、ワタクシたちではノエルお姉さまには太刀打ちできませんわ。今の彼女はワタクシたちとは次元が違う。戦うにしたって相応の準備が必要ですの。トリーお姉さまも分かっているのでしょう?」

「……わぁってるよ」


 ふてくされたような態度だが、とりあえずは撤退に合意してくれたものとして、セイはノエルへ顔を向けた。

 ノエルはトリーを追ってくるようなことはなく、二人から興味を失ったのか、地上に降りて再び足元から魔素の吸収を再開していた。

 問題なく撤退はできそうだ。が、結局本来の役割を果たすことができなかった。セイ自身もほぞをかむ思いだが生きていればまだ「お母さま」の役には立てる。そう思うことで苛立ちを鎮め、このままノエルを刺激しないよう帰還しようとした。

 しかしその時、ノエルへと流れていた魔素が止まった。

 今度は何をするつもりなのか、とセイは身構えた。だがノエルはセイたちとは違う方向へと体を向けた。どこかへ行こうというのか、顔は空を見上げて遠くを見据えているようで、それを示すように、ただでさえ大きかった翼がさらに広がっていく。

 やがて彼女の体が少し浮き上がっていき――


「う……ノエルさ……ん……?」


 そこに、目を覚ましたシオの声が響いた。






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