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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード7「カフェ・ノーラと恋の詩」

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4-5.呼び出すまでもなかったみたいだぜ?




 先に動いたのはシオだった。

 トリーの強さは未知数。シオより強いのは肌で感じていたが、どのくらい強いのかは底知れない。そんな相手に受けに回るのは悪手。為す術なくやられるだけだ。助かろうともがくのならば、自分から動くしかない。

 今出せる全力を。風魔導も駆使して一瞬で加速を終わらせ、一般的な探索者ならば、間違いなく反応できない速度でシオはトリーに接近した。

 拳をトリー目掛けて振るう素振りを見せる。だがそれはフェイント。身をかがませるとシオは彼女の足元を払いにいった。


「っ……!」


 が、彼の脚は空を切るばかりだった。

 シオとしては完璧なタイミングだと思った。しかし脚に何の感触もなく、見れば一歩下がったところでトリーがニヤニヤしながらシオを見下ろしていた。


「終わりか?」


 挑発を聞き流しながらシオは再び疾走(はし)る。無理に距離を詰めず、かといって動きを止めず、一定の距離を保って冷静に様子を窺う。

 トリーはポケットに手を突っ込んだまま棒立ち。見るからに隙だらけなのだが、攻撃が通らないだろうことは想像がついた。

 それでも決断し、背後に回り込んでから攻撃を繰り出した。が、後ろに目がついているようにあっさりとかわされ、代わりに彼女からは鋭い蹴りが飛んできて、シオの鼻先をかすめていった。


「ひゅう、やるじゃん」


 トリーの口から感嘆がこぼれた。ずいぶんと上から見られてるような言い方だが、事実、手加減を相当にされているのだろう。それでも今の一撃をまともに喰らえば、骨が砕けるくらいの威力はありそうだった。

 冷や汗を噴き出しながらもシオは即座に反撃を試みた。下がらずに蹴りを繰り出し、かわされてもまた一歩踏み込んで拳をトリーの頬へ。完全に見切られているようで、最小限の動きで避けられ続けるが、構わず前進を続けた。


「でも、まだ足りねぇよ」


 攻撃の合間を縫ってトリーの一撃がシオの顔面を捉えた。一見シオ以上の細身だが、蹴り一発でシオの体は大きく吹き飛ばされた。

 強かに全身をコンクリートに打ち付けながら転がり、止まってすぐに体を起こすも視界は揺れていた。グラグラと足元がふらつき、ダメージの深刻さをシオも自覚した。

 それでも諦めるわけにはいかない。シオは再び走り出した。


「いいぜっ! その愚直さ、嫌いじゃないぜ!」


 トリーは歓迎の声を上げ、だがまっすぐにトリーへ向かっていたシオは、不意に直角に折れ曲がり彼女から離れる方向へ走り出す。

 逃げるつもりか、とトリーは歯噛みした。が、シオは転がっていた何かを拾い上げると再度トリーの方へ向かい始めた。

 シオが拾ったのは拳銃。先程何処かへ流されていった黒服たちの物だろうそれが一丁だけ残っていた。その引き金を迷わず引く。残っていた弾丸がトリーの頭目掛け飛んでいき、しかし彼女の目の前で急減速して届く前に落下した。

 銃弾を止めたのは風魔導による不可視の壁だ。圧縮した空気によって受け止められ、トリーに届くことはなかったが、構わずシオは二度、三度と引き金を引きながら距離を詰めていく。


「はっ! 無駄だぜ!」


 トリーの言う通り一つも彼女には到達しない。だがシオは気にした素振りを見せなかった。

 あと一歩で彼女との間合いに入るという刹那、突如として拳銃を投げつける。当然トリーによってあっさりと払いのけられるが、それを隠れ蓑にしてシオは拳を突き出そうとしていた。


「甘ぇよっ……!?」


 だがそれすらもフェイク。

 半ば失望も覗かせつつトリーはその攻撃に余裕ぶって応じようとしていたが、直後に激しい閃光が襲いかかった。

 それは辺り一面を白に染め上げるほどにまばゆい光。とっさにトリーは目を閉じた。だが、まぶたを突き破って差し込んでくる強い光に視力が一瞬奪われた。

 彼女の動きが止まる。自身も視力を半ば奪われながらも、シオはトリーの無防備となった背後に回り込んだ。そしてナイフを握りしめる。

 彼女を、殺す。シオはその覚悟を決めていた。そうしなければ助かる道は無いと確信していた。

 トリーの細く、白いなめらかな首筋。そこを見定めると、シオは少しためらいを残しながらも鋭く右腕を突き出した。

 刃先が肌を斬り裂き肉に飲み込まれて血があふれる。その光景をシオは幻視した(見た)

 だが実際にその感触がシオに伝わることはなかった。ぼやけた視界の中でも存在感のあったトリーの姿が、気づけばどこにもなかった。

 そして。


「残念だったな。ま、良い線行ってたぜ?」


 自身の背後からそんな言葉が届いた。直後に強い衝撃と痛みを感じる。体が宙を舞い、浮遊感を覚えた。

 為す術はもはや無かった。浮かんでいた体が地面に叩きつけられ、シオはそのまま動かなくなったのだった。

 シオが気を失ったのに伴って、辺りに満ちていた光が消えて元の暗がりが戻ってくる。トリーは目を何度か瞬かせながら転がって動かなくなったシオの方へと歩いていき、静観していたセイもまた、シオに近づいていった。


「お姉さま。念のため聞いておきますけれど、殺してはいないですわよね?」

「……私をバカにすんじゃねぇよ。ンなヘマするかっての」


 実を言うと、殺してはダメだということを少し忘れていた。が、それでもちゃんと手加減はしたはずで一応確認すると、シオの胸元が小さく上下していた。呼吸こそ浅く、口元や鼻からは少し出血が見られるものの、重傷というほどでもない。

 かがみ込んで様子を見ているトリーに、セイがいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「でも少し焦ってたんじゃありませんこと?」

「だからバカ言うんじゃねえっての」トリーがブゥン、とセイの頭を小突こうとしてかわされた。「けどただの人間にしちゃ十分強かったと思うぜ。生き汚さも悪くねぇ。鍛えりゃたぶん、もっと強くなる」

「あら、珍しいですわね。お姉さまがそこまで褒めるなんて」


 最初はからかい半分だったが、奮闘したシオを褒め称える姉にセイは小さな驚きを見せ、トリーはそんな反応に気恥ずかしそうに鼻を鳴らした。


「ンな事よりさっさとづらかろうぜ? この後は『四番』に、店まで手紙を運ばせるんだろ?」

「その手筈ですわ。コード00。長姉たる彼女には、ぜひともお母さまのところに来ていただかなければなりませんもの」

「居場所は分かってんだろ? こんなガキ使っておびき寄せるなんざ面倒くせぇことせずに、無理やり連れてくりゃいいじゃねぇか」

「その理由については、先日もお話しましたわよね? 迷宮内での戦闘になれば、不慣れなワタクシたちにも相当の被害が出る可能性がある、と。万が一のことが起きて、ワタクシたちに欠損が起きれば計画そのものに多大な支障が出るわけですし、なにより、お母さまを悲しませてしまいますわ」

「分かった、分かったよ。ったく……面倒くせぇなぁ」

「全体を通して考えれば、力づくの方がリスク満載でよっぽど面倒ですわ。お姉さまは、暴れるだけじゃなくてもっと合理的でスマートな方法というのを学んでくださいな」


 始まったセイの小言をトリーは聞こえないふりをした。別に考える能力が無いわけではないのだが、どうにもトリーの性には合わない。セイのやり方を否定するわけではないのだが、策を弄するよりも力でどうにかなるのならどうにかする方がよっぽど「合理的」だと思う。

 が、これ以上小言が伸びるのも面倒なので、そんな考えを自身の胸の内に抑え込んだ。そして、横たわっているシオを抱えあげようと手を伸ばした。

 その時。


「――っ!?」


 トリーが唐突に飛び退いた。轟音が響き、自身がいた場所を見れば獰猛に飛来した何かが激しくえぐり取っていた。


「お姉さまっ!?」

「……どうやら呼び出すまでもなかったみたいだぜ?」


 視線を地上から上空へ。トリーとセイが見上げたその先には。


「……」


 巨大な銃口を向け、無言の中にも怒りをにじませているコード00――ノエルが空中に佇んでいたのだった。




お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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