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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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7-1.その願い、叶えてあげよう






「しっかしずいぶん派手なお迎えやな。そないにウチに会いたかったんか?」

「一刻も早くクレアの無事を確認したかった。そういう意味では肯定。つまり……そう、この気持ちは心配。心配していた。だから最短ルートで迎えに来た」

「涙が出そうなくらいありがたい話や。せやけど、部屋に入る時はちゃんとドアをノックするんやで?」

「善処する」


 クレアといつもどおりのやり取りを交わしていくと、私の中で巣食っていた不安が解消されて安心感があふれてくる。観察する限り、彼女に異常は見受けられないし――


「脚、怪我をしてる?」

「これはアンタが吹っ飛ばした壁の破片で切ったんや」


 ――怪我もしてなさそうで何よりである。もう一度言う。怪我はしていない。

 もっとも、クレアの体はベッドに拘束されたままであるし、腕には針が刺さっている。目視できる情報から推測するに、何かを投与されてるのではなく血液を抜かれているだけなので慌てる必要は無いだろうけれど、急ぐに越したことはない。


「ケホッ、ケホッ……クレアぁ! 無事ぃッ!?」

「おー、アレニアとシオも来てくれたんか。無事やで。わざわざおおきに」

「……無事みたいね」


 咳き込みながらも焦った様子でアレニアが叫ぶけれど、対象的に呑気な返事が返ってきて「心配して損した」と漏らした。それでも顔を上げた彼女の口元は嬉しそうに弧を描いていた。


「……やれやれ。せっかく建てたってのに、僕の研究所がメチャクチャになってしまったじゃないか」


 部屋の隅から声が響く。

 そちらに目を向ければ、うずくまっていた男性が立ち上がり、続いてアルブレヒトがメガネを掛け直しながら立ち上がって白衣の埃を払っていく。


「不可抗力。貴方の雇用した人間が私を招き入れてくれれば手荒なことをする必要は無かった」

「そもそも招待もしてない客を招き入れる必要が無いとは思わないかい?」

「肯定する。だから押し入った」


 そしてこれ以上の問答は不要。クレアの元に向かおうとするけれど、その時足元に何かが着弾した。目視ができず、しかし魔素の揺らぎは感じたのでおそらく風魔導による一撃で、アルブレヒトの前に立ちはだかっている護衛――確か、ヒュイと言っていた――によるものと推定する。


「それ以上近づかないでもらいたい……他の人間はどうした?」

「ノエルがとっくにのした(・・・)わよ。だから時間を稼いでも無駄だと思うんだけど?」


 ヒュイの問い掛けに、私に代わってアレニアが銃を構えて答えた。ヒュイは一瞬目を見張るけれど、いつまで経ってもやってこない仲間、そして私が開けた壁の孔を見てアレニアの言葉が嘘では無いことを理解したようで、下唇を噛んで眉間にシワを寄せている。


「クレアを返してもらう」

「嫌だ、と言ったらどうするんだい?」

「力づくで奪い返すだけ。貴方たちがそうしたように」


 告げながらヒュイとアルブレヒトに銃口を向ける。シオも剣を構え、状況は三対二。いや、アルブレヒトは戦う人間ではないから三対一と考えていい。

 常にアルブレヒトの側に控えていることからも、ヒュイの実力は他の護衛たちより一段高いところにあると考えられる。だけどそれを加味しても状況は私たちに圧倒的に有利。そのことはヒュイも理解しているようで、表情には焦りと推察される感情が滲んでいる。

 だというのに。


「……何がおかしいんですか?」


 シオがヒュイの後ろをにらんだ。アルブレヒトの顔に、ヒュイの様な焦りや恐れといった類の感情は認められず、それどころか口元が少しにやけている。


「何か悪巧みでも思いついたって顔ね」

「いやいや、そんなことは無いよ。でも、そうだねぇ。ちょっといい事を思いつきはしたかな?」


 そう言うと、アルブレヒトがヒュイの背中に「ねぇ」と呼びかけた。


「君は義理堅い人間だ。高い報酬さえ払えば職務を全うするし、僕は君の要求に十分以上の報酬を支払った。そうだね?」

「……ええ、そうです」

「だから君は僕を守るために全力を尽くし、僕の指示に応じる。間違いないかな?」

「……はい。なので、状況は不利ではありますが、貴方を何としても逃して――」

「ありがとう。それさえ聞ければ十分さ」


 アルブレヒトがヒュイの言葉を遮って。

 一発の銃声が鳴り響いた。


「え――」


 衝撃に揺れる体。思わず漏れた声。それらは私が発したものではなく、私の後ろにいるアレニアやシオのものでもない。

 アルブレヒトが放った銃弾。それが、彼を守るはずのヒュイの体を貫通していた。

 グラリ、とヒュイがよろめいて膝を突く。左の脇腹を押さえ、苦痛に顔を歪ませているけれど、そのおかげで後ろにいたアルブレヒトの姿が露わになった。

 好機。そう考えて地面を蹴る直前、アルブレヒトの銃口がベッドに向けられた。


「おっと、動かないでおくれよ? 君らみたいに野蛮に戦うことはできないが、僕だって人間の頭を吹き飛ばすことくらいはできるんだからね?」


 彼の指は引き金に掛かっていて震えはなく、ヒュイを撃ったことによる罪悪感や恐れといった感情はまったく表情から見て取れない。彼にとって引き金は、間違いなく軽い。こうなると私もうかつに動くことはできない。


「あ、アンタバカァ!? 味方を撃ってどうするつもりよ!?」

「バカとは心外だね。僕が考えもなしにヒュイを撃ったとでも思ってるのかい?」


 彼の言うとおり何かしらの策を持っているのは間違いないはず。彼自身の戦闘力が無いのは明らかで、なのでその不利を覆すだけの策が。けれど、それが分からないし、何より――彼に人を害することへの一切のためらいが無いのが厄介だ。


「……ノエル、ウチのことは気にせんでエエ。どうせ殺すつもりはないやろし、多少撃たれたって構へん」


 そういうわけにはいかない。私はクレアを守らなければならない。それは私の義務だ。多少の傷は許容せざるを得ないだろうけれど、死ななければいいというものでもないし、下手にアルブレヒトを刺激して後遺症でも残る怪我を彼女に負わせてしまえば守れたことにはならない。私の後悔がまた一つ増えてしまう。

 アルブレヒトの様子を伺えば、余裕のある態度を崩していない。聞こえてくる心臓の音も平常そのもの。ここで私が動けば、見せしめにクレアへ銃弾を一発か二発くらい撃ち込んでもおかしくない。


「賢い判断だ。君のような子は嫌いじゃないよ?」


 こういう顔を「人を喰った顔」と言うのだろうか。ニィと、笑ってこんな状況にもかかわらずふてぶてしさや不敵さを失っておらず、不気味ささえ覚える。

 アルブレヒトは銃をクレアに向けたまま、傷口を押さえてうずくまるヒュイの傍でしゃがみ込んだ。左手にはいつの間にかチューブを持っていて、それを辿っていけばクレアが繋がれているものとは別の機械へと伸びている。


「ア……ルブレヒ、ト……なぜ……?」

「その質問に答える前に、こちらから質問させてもらうよ。

 ヒュイ、確か君はもっと強くなりたいと言っていたね?」


 アルブレヒトが尋ねるとヒュイが咳き込みながらうなずいた。Aクラスに位置しているだろうに、まだ強くなる願望を彼は持っているらしい。貪欲で向上心があり素晴らしいことだと思うが、アルブレヒトもまた私同様に「素晴らしい」と賞賛し、ニコリと笑みを彼へと向けた。


「なら――その願い、僕が叶えてあげよう」


 そしてアルブレヒトは――チューブを彼の傷口へと突っ込んだ。






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