6-2.……もう何も言わないわ
「いたぞ!」
「ヤバい、挟まれた……!」
「一旦、外におびき出しましょう!」
どうやら中にいた連中も、爆発音を聞きつけて集まってきたらしい。当然の話だ。むしろこれで動かなかったら、仕事しろと怒られるに違いない。
集まった敵を見て、シオとアレニアが広いところで戦おうと提案してくる。けれど大丈夫、それには及ばない。
私はもう一度ミサイルポッドを展開し、発射した。ただし今度は天井に向けて。
「ちょ……! 下がれぇッ!!」
「巻き込まれるぞッ!」
爆発と同時に天井が崩壊し、瓦礫が私たちと敵の間に降り注いでくる。入口に放った最初の一撃ですでに脆くなっていたらしく、瞬く間に瓦礫は山となって敵の侵攻を遮ってくれた。
「これでよし」
「……やること派手過ぎない?」
「そんなことない」
目的達成に向かって最も合理的と考えられる手段を取っているだけ。
「でもどうするんです? これじゃ僕たちも先に進めませんよ?」
大丈夫。問題ない。
「クレアの反応はどっち?」
「え? えーっと……こっちね。マーカーを見る限り、この壁の向こうにずーっと行った場所」
「距離は?」
「こっからだとだいたい……そうね、二十メートルくらいだと思う」
「了解した」
右腕をガトリングモードにし、銃口を壁に向ける。
そして迷わず私は引き金を引いた。
凄まじい音とマズルフラッシュを撒き散らしながら、腕を上下左右にゆっくり動かしていく。やがて楕円形の着弾痕が壁に作られたことを認めると、私は地面を蹴った。
バーニアで加速し、勢いよく足裏が着弾アートの中心にぶつかる。ズン、と建物全体に響くような音がして――壁に新しい道ができた。
「ここから進む」
「……もう何も言わないわ」
壁をぶち抜いた先は倉庫だったようで、所狭しと物が積み重ねられていた。そのままドアを蹴破り、その正面にあった部屋へ。中にいた作業員らしき人たちが一斉にこちらを向いて騒ぎかけるけれど、銃を向けるとすぐに押し黙った。理解が早くて助かる。
「ここを通過するだけ。そのまま静かにしてれば何もしない」
「言ってること、まんま押し入り強盗でしかないんだけど」
否定はしない。どちらかと言うと盗まれたものを取り返しに来ただけだけど。
ともかくもそのまま部屋を通り抜け、反対側の出口から通路に出た。
直後――左右から剣とハンマーが振り下ろされた。
「死ねぇっ!」
その要求には応じられない。
義手で剣を、左手でハンマーを受け止めながら前に一歩。そのまま力任せに敵の武器を跳ね飛ばし、まずは左の男を蹴り飛ばす。
その隙を狙って右側の男が刺突を繰り出し、さらに私の体格を意識してか体ごとぶつけてくる。が、見かけに反して私の体重は男よりも重い。予想外の感触に彼の顔が驚きに染まり、そんな彼に私は銃口を押し付けた。
「ひがぁァッ!?」
ためらわずに引き金を引く。銃声に入り混じって男の悲鳴が響き渡り、鎧ごと貫かれた彼の体から血が飛び散った。頭や頬に赤いものがペシャリと付き、どこか懐かしさのある温もりと匂いがかつての私を呼び起こそうとしてくる。
敵は抹殺スべし。銃を男の顎に向けたくなる衝動に駆られる。けれど、前にあったエスト・ファジール帝国の連中とは違う。殺す必要はない。
衝動を押し込み、銃を下ろして代わりに回し蹴りをプレゼントする。通路の壁に叩きつけられた彼はグッタリして、うめき声こそ上がるも動かなくなった。
「おおおぉぉぉぉっっっ!!」
「シオ、アレニア。部屋から出ないで」
そこに、先に蹴り飛ばした男が再び襲いかかってくる。狭い通路にもかかわらずハンマーを巧みに振り回し、凄まじい迫力を伴って迫ってきた。
初撃、二撃と下がりながら避け、三撃目で男の脇を抜けて背後に回り込む。それに応じた男のひじが私の顔面を捉えた。
だけどその攻撃も想定済み。のけぞってかわしながら左手を床に突き、バク転をしながら義足で男のひじを蹴り上げる。
「がぁっ……!」
太い男の腕が跳ね上がりゴキ、と音が聞こえた。握っていた、どこか見覚えのあるハンマーが滑り落ち、床に落下音が響くより早く私の右腕から銃声が鳴った。
弾丸が男の腕と体を貫き、血しぶきが飛んでくる。それが顔にかかって再度当時の感覚が揺り戻されてくるのを堪えながら男を蹴り倒す。よし、これで邪魔者はいなくなった。
「ノエ――」
「いたぞ、あそこだっ!」
と思ったのだけれど、またすぐに両サイドから敵がやってきた。けれど、先程ミサイルをお見舞いしたのが頭にあるようで、むやみに突っ込んではこない。
代わりに敵も銃や魔導といった遠距離攻撃を繰り出してきて、一度部屋に引っ込むと目の前の壁を強かにえぐり取ってくる。
「っ……、ヤバいわね。このままじゃ少しずつ距離を詰められちゃうわよ……!」
いくら私でもこの弾幕を突っ切るのは難しい。なのでこの弾幕そのものを黙らせなければならないが……ここは手段をあまり選んでいる余地はない。
しかたない、冥魔導を使うことにしよう。一度軽く目をつむり、髪の毛が軽く揺れるのを感じた。
直後。
「このまま押し込め――な、なんだっ!?」
「しょ、いきなり触手が――」
「どこから現れたんだ、このモンスターはっ!?」
敵の姿を見てなくてもだいたいの位置は分かる。なので相手の背後に影の触手を出して拘束し、注意を引く。
敵を絞め落としたりするほどの力は無いけれど、意識をそちらに向けさせることができれば十分。その隙に私は部屋から飛び出して、銃を左右両方に連射していった。
悲鳴が次々に上がっていく。私の心は動かさない。やがて弾幕が止んだのを確認すると、今度は銃口を正面の壁に向けて連射。最後に壁を蹴り飛ばして孔を開けた。
「今のうちに」
「そう、ですね」
たぶん心が痛むのだろう。シオは倒れた男たちに視線を向けていた。ちなみにアレニアは中指を立てていたけれど。
そんな二人を促して孔に飛び込み、頭を抱えて怯える人たちの横を走り抜けてドアを勢いよく蹴り破った。
「アレニア」
「ええ。たぶん、クレアはこの壁の向こうよ。ドアは――」
「探す必要はない」
クレアはもう目と鼻の先にいるのは確実。ならばいちいちドアのところに回り込むのも煩わしい。
なので。
「伏せて」
二人が「へ?」と声を漏らしたけれど気にしない。迷わず私は――スカートを揺すって手榴弾を転がした。
コロコロコロ……と静まり返った廊下に音がやけにハッキリと鳴り響いて、向かいの壁にコツンとぶつかった。
それと同時。凄まじい爆音を響かせ、衝撃が荒れ狂った。私たちがいた部屋の中も爆風が吹き荒んだけれど、それを壁際に身を隠してやり過ごし、爆音と爆風が収まったのを見計らって顔を出す。
立ち込める煙と埃。それらのカーテンの奥には確かに部屋があって、しかしながら中を窺い知ることはできない。
それでも、分かる。彼女の存在を、よく知っている血の匂いを感じることができる。
同時にあまり濃密でない血の匂いに、彼女が無事だと直感してどこか強張っていた体の芯が解れていくのを感じた。
視線を、感じる。敵対的ではない、それどころかどこか呆れて私をからかうかのような視線だと推測できる。それがクレアのものと確信して、私の口が自然と開いた。
「迎えに来た」
「待っとったで」
打てば響くようなリズムの返事に、私の頬が微かに、けれどゆっくりと緩んでいったのだった。
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