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軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます  作者: しんとうさとる
エピソード6「カフェ・ノーラと深層の研究所」

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6-1.身柄を回収に来た





「――アレが、アルブレヒトさんの研究所ですか……」


 迷宮の窪みに身を潜め、私の後ろからシオが前を覗き込んだ。

 私たちがいるのは迷宮二十二階層。いわゆる深層と称されるところで、Aクラス以上の探索者がパーティにいなければ立ち入ることができないエリアである。

 危険度の高い、探索者であっても限られた人間しか入ることのできない場所。そんな所にあって、ここから見える建物の扉は明らかに異質だ。

 迷宮の雰囲気とは明らかに馴染まないと評されるだろう、まるでビルの入口のような観音開きの扉。金属製のそれは見るからに頑丈そう。迷宮の構造を活かして建造された入口部分は狭く、人が二人なんとかすれ違えるくらいしかない。奥には元々広い空間があって、そこを活用してるのだと推測する。

 空間を目一杯活用すればモンスターが新たに生まれる余地はないし、入口も限られているから戦力をそこにさえ集中させれば対処も容易になる。うまいやり方と私は評価する。建設には莫大な資金と、危険に身を晒してくれる工夫(こうふ)が必要となるけれど。


「あの奥にクレアがいる。それは間違いない?」

「間違いないわ。さすがに中の構造までは分かんないけど、マーカーを見る限り奥にクレアがいることは確かよ」


 目を閉じて、スキル<鷹の目(サーチャー・アイ)>で確認しながらアレニアが断言した。

 ならば予想どおりクレアはアルブレヒトたちに連れ去られたと判断して問題ないと思料する。当たって欲しかったわけではないけれど、広大な迷宮内で迷子になっているよりはずっとマシだと思う。


「クレアさんがあそこにいるのはいいですけど……どうします? 入口は他に無さそうですし、ずっと門番らしい人がいますけど」


 シオの言うとおり、一箇所しか見当たらない入口には門番らしい探索者が二人いた。一人は知らない顔だけれど、もう一人の方は見覚えがある。シュル……なんだっただろうか。名前は忘れたけれど、ギルドで暴れていた男だったと思う。寄ってくるモンスターも多くないのだろうか、あくびをして緊張感は無い。


「しばらく待機して、門番が交代するタイミングを狙います?」

「それか、モンスターをおびき寄せてアイツらと戦わせてみる? そうすれば潜入しやすくなると思うけど」


 シオとアレニアがそれぞれ提案してくれる。どちらも悪くない案だと思料する。

 けれど――ここはもっと手っ取り早い方法を採用したい。


「アレニア。再度確認したい。あの建物の中にクレアがいるのは間違いない?」

「ええ、確実よ。断言してあげる」


 ならば問題ない。さっさとクレアのところへ向かうことにする。


「詳細なナビゲートをお願いする」

「え? あ、ちょ、ちょっと! どこ行くのよ、ノエル!?」


 アレニアが止めようとしてくるけれど、聞こえないふりをして私は通路の窪みから出ていく。そこから特に身を隠すでもなく、まっすぐにシュルなんとかたちのところへ。後ろからアレニアとシオが追いかけてくるものの手で立ち止まるよう指示して、私一人で門番たちのところへ向かう。

 近づいていくと、かなり離れた位置でも私の存在に気づいたようで、彼ら門番二人はそれぞれ武器を構えて警戒を始めた。シュル(なにがし)もやる気のない態度を一変させて緊張感をまとわせたけれど、やってきたのが私だと気づいた瞬間に顔を引きつらせた。


「……よぉ、また会ったな。アルブレヒトさんの研究所に何の用だよ?」


 ヘラヘラとした口調で引きつった表情を隠し、旧知の仲の様に気安く彼が尋ねた。この様子からして、彼もクレアの件には関係していると考えてよいだろう。


「クレア・カーサロッソの身柄を回収に来た」

「クレアって……ああ、あの店で働いてる女のことか。もしかしていなくなったのか? だとしたら残念だがな、ここにはいねぇよ。他を当たんな」

「下手な小芝居は無用。ここに彼女がいることは分かっている。速やかで誠実な対応を期待する」

「おい、嬢ちゃん」もう一人の、強面の門番役がズイと前に出た。「ここにアンタが探してる人間はいねぇし、アンタが来ていい場所でもねぇ。さっさとどっか行きな」

「最後通告。クレアがいることは判明している。賢明な判断を求める」

「しつけぇな。いねぇったらいねぇんだよ!」

「そちらの態度は理解した。なら――」


 義足からミサイルポッドを露出させて――


「こちらも勝手に探させてもらう」


 ――そしてミサイルを発射した。


「はああぁぁぁぁぁっ!?」


 悲鳴を上げて門番の二人が飛び退く。さすがはAクラス探索者、反応が速い。けれども、私のミサイルは別に二人を木端微塵に吹っ飛ばすためではない。

 白煙を上げながら飛んでいったミサイルは二人の間を通り抜け、そのまま入口玄関の扉に着弾。

 直後、爆発音が鳴り響いた。

 爆風が髪をたなびかせ、音が耳をつんざく。真っ黒い煙が立ち込めてそれを風魔導で吹き飛ばせば、頑丈そうだった扉は周囲の壁ごと跡形もなく吹き飛んでいた。モンスターの襲来は想定していても、さすがにこの攻撃は想定外だろうと思料する。


「こ……馬鹿か、テメェはッ! いきなりミサイルぶっ放す奴がいるか!!」

「ここにいる」


 シュル某が抗議してくるけど、そもそも人を誘拐するような連中が問うて良い常識は無い。


「失礼する」

「行かせるかよ!」


 無視して中へ向かう。が、さすがにそのまま通してくれるつもりはないらしい。

 武器を構え、左右から同時に迫ってくる。上級探索者らしくシュル某の動きは鋭く、もう一人の方も大柄な肉体に似合わずシュル某に劣らない速度で距離を詰めてきた。

 だけれど。


「邪魔」


 彼らと遊んでいる暇はない。

 シュル某の剣戟を義手で受け流し、一拍遅れて繰り出された大男のハンマーをかわす。体の位置を入れ替え、シュル某の背後へ回り込む。彼も即応して剣を薙ごうとするけれど、刃が私に届く前にその腕を止めた。

 驚く彼の顔を間近で見上げながら掌打を叩きつける。完全に無防備になっていた彼の体があっという間に遠ざかり、シオやアレニアの隣を転がりながら壁に激突。そのまま動かなくなった。


「っ……! この野郎ッ!」

「野郎ではない」


 生物学的には私は女性なのでそのことを主張しつつ大男の振り下ろした一撃を避ける。先端の金属部が凄まじい音を立てて地面をえぐり取るが、モンスターのそれと同じで当たらなければどうと言うことはない。

 懐に潜り込み、しかし私の行動を読んでいたのか、男が膝を私の顔面へと突き出した。

 若干不意を突かれはした。が、問題なく処理できる速度である。

 膝に手を突いて、膝蹴りを逸しながら逆立ちの体勢になる。そしてそのまま両足を男の顎めがけてまっすぐに伸ばす。


「んがっふぅっ!?」


 スカートが大きく広がって目視できないけれど、男の声と伝わる感触から判断するに目論見通り男の顎にヒットした模様である。

 倒れていく男を尻目に空中に跳躍し、今度は私が膝を男の腹に突き立てる。体重の乗った一撃がめり込み、男の口から「ひびぃっ!?」という形容しがたい声が漏れたかと思うと彼もまた意識を失った。

 さて、これで片付いた。


「……生きてますよね?」

「殺してはいない」


 銃で撃ち抜いたわけでもないし、少し(・・)力を入れて戯れただけ。派手な音を立てたから賢いこの階層のモンスターも警戒してしばらく寄って来ないはず。仮にも上級探索者であるので、放っておいてもすぐ目を覚ますだろう。

 それよりも早くクレアを探したい。破壊した入口に脚を踏み入れると、左右に別れた通路の両方から慌ただしい足音が響いてきた。






お読み頂き、誠にありがとうございました!


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何卒宜しくお願い致します<(_ _)>

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