表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/177

1-1.プロローグ-1


 薄暗い迷宮の中を、少女が一人歩いていた。

 迷宮という場所に不釣り合いなメイド服を着ており、外見もまだ十歳になろうかという頃合いで体格も相応に小柄。

 しかしながら少女は巨大なリュックを背負っていた。

 身長を遥かに超すリュック。しかし彼女はまったく重さを感じさせない足取りで迷宮の出口に向かって進む。

 歩きながら、彼女はふと頬に付着した液体に気づいた。左頬のそれを鈍色をした右親指で拭うと薄く伸びてさながら赤い化粧のよう。だが、彼女はそれ以上気にした素振りも見せず、歩みを止めることはなかった。




 その数十分前。


 少年たちの頬を、汗が流れ落ちた。


「はぁっ、はぁっ……!」


 ブリュワード王国の都市ルーヴェンにある迷宮。その第五階層の中で少年たち三人はモンスターと対峙していた。

 三人の目の前にはリザード。トカゲ型ながら、二足で立つそのモンスターは人間と同程度に大きい。迷宮の上層階では比較的ありふれた敵ではあるが、まだ駆け出しの探索者である少年少女にとっては十分な強敵。実際、双方ともに傷だらけで疲弊していた。


「――来るぞっ!」


 前衛に立つ少年が仲間に伝えたとおり、リザードが雄叫びを上げ襲いかかってきた。

 少年を引き裂こうと鋭い爪を振り下ろし、その力任せの一撃を少年は長剣で受け止める。必死に脚に力を入れて踏ん張り、歯を食い縛りながらかろうじて敵の前進を止めることに成功した。

 それを認めたもう一人の少年がすかさず敵の側面に潜り込む。リザードが爪を振り下ろし、先端がかすめて浅く頬を斬り裂く。それでも痛みに気づかず、両手に持った二本の短剣を敵の体に突き刺した。


「頼んだっ!」

「うんっ、任せてっ!」


 会心の連携。リザードに有効なダメージを与えられたことを確信し、少年二人はもう一人の仲間にトドメを託してその場を飛び退く。


「焔を司る精霊よ、我にその力を貸し給え――フレアっ!!」


 詠唱が終わると、指輪をはめた少女の右手から焔が現れた。辺りを明るく照らし、離れた位置にいる少年らにも熱が伝わってくるほどに高温。それが、うねりをあげてリザードに襲いかかっていった。


「■■■ァァァッッ――……」


 命中。敵が瞬く間に焔に飲み込まれ、少女は「やった!」と喝采を叫んだ。

 焔の奥でシルエットが悶え、あがく。やがて聞こえていた敵の悲鳴が次第に小さくなっていき、地面へと倒れる。同時に焔が消えて迷宮に薄暗さが戻ってきた。

 しばらく状況を注視。しかしリザードは立ち上がらない。少年たちは一斉にへたり込んだ。


「あ……危なかったぁ……」


 すでに少年たちの体力は限界に達していた。今の攻防もいわば、最後の力を振り絞ったようなものだ。これで立ち上がられたら逃げることすら怪しかったかもしれない。


「早く素材剥いで帰ろう。今日はもう疲れた」

「ああ、そうだな。よしっ! んじゃ帰ったら素材を売って、その金で――」

「……ねぇ、みんな」


 戻ってからのことを考えてはしゃぐ少年を他所に、少女が声を震わせながら入口の方向を指差した。

 水を差された少年が口をとがらせて「なんだよ?」と振り向く。するとそこには、リザードが唸り声を上げて立っていた。先程倒した個体とは違う、ダメージ一つ負っていない新たな個体。それが少年たちの前に立ち塞がっていた。

 慌てて立ち上がり剣を構える。しかし少年たちにまともに戦えるほどの体力は残っていなかった。

 けれども、やらなければならない。でなければ待っているのは――死だ。彼らの頬を冷たい汗が流れ、過った悪い想像に喉が鳴った。それでも震えそうになる脚を叱咤し、新たな戦いを開始しようとした。

 その時、また少女が気づいた。


「ね、ねぇ! 後ろ!」


 後ろからも敵が現れたのか。絶望的な心地を覚えながら少年二人は振り向いた。

 だが、そこにいたのはモンスターではなかった。

 まず目に入ったのは巨大なリュック。少年たちの背丈を超えるほど大きく、それが一人で歩いているように見えたがそうではなかった。

 少年たちが二人がかりで持っても押しつぶされそうな迫力があるが、それを一人の少女が背負っていた。それだけでも異様だが、さらに少女の容姿が彼らの目を惹いた。


「こ、ども……?」


お読み頂き、誠にありがとうございました!


本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらぜひブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ幸いです<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ