サネリ
「ここが、お前とマシューの部屋だ」
「はい、ここが私とマロの部屋ですね、マロと私の」
わざわざ言い直して、叶多は言った。麻呂眉は譲れないのだ。
「鍵もつけてあるし、もちろん一人部屋だ。何かあればこのボタンを押せ」
壁に取り付けられたボタンを指差して、叶多をじっと見つめる。
「ハイハイ」
叶多は適当に頷いたが、バルは怖いくらいに真剣な顔で叶多に言い含める。
「騎士団は、やはり男が多い。くれぐれも気をつけろよ」
「……ハイ」
ハイは一回、と教わった叶多は真剣ふうに返事をしておいた。
「それと、」
「ハイ! サネリ・エトゥス、17歳! えっと、これから、叶多ちゃんのお世話と見張りをします!」
騎士団団長の言葉を遮って自己紹介をする、勇気ある少女は、ぴょこぴょこと手を上げながら叶多の顔をまじまじと見つめた。
普通よりも長い犬歯を覗かせて、ニコニコと笑う。
「よろしく!」
「同い年くらいだろう。お前はそんな身だから、見張りが必要でな。それ以外は基本自由だが、城から出る場合は俺に言うように」
騎士団の宿舎は城の端っこにある。バルの話だと、街の中にも別の隊がいくつかいてここの隊が騎士団の本元になるらしい。
「ハイハ……、ハイ」
またハイを二回言おうとして、慌てて止めた。バルが目を細めて叶多を見る。
低い声で、くれぐれも、と念を押して、叶多に与えられた部屋を出て行った。
部屋に残ったサネリはいつの間にかボブの銀髪を揺らしながら、マロをわしゃわしゃと撫でている。叶多は首を傾げる。
何かがサネリのお尻から飛び出して、揺れているのだ。
「尻尾……?」
「あっ……!」
サネリは叶多の声に物凄い勢いで振り返って、後ろを隠した。
「見えました……?」
「うん」
叶多が頷くと、あぁぁぁぁ、と声にならない悲鳴をあげて、床を転げ回る。
「やってしまったぁ…………!」
次は耳も飛び出してしまう。
「お友達、できると思ったのに……」
激しい落ち込みようで、真っ青な顔をしていた。
「友達? 私と?」
ゆるゆると顔をあげて、叶多の顔を見た。正直に言うと、叶多は頭の上で揺れる尖った耳に目を引き付けられている。
「私、お友達、欲しくて…………。ライカンスロープって、力強いし、凶暴だって言われるから、お友達、できなくて」
こうなった叶多の耳にはあまり入らない。なんとなく声が途切れたな、というタイミングでサネリを指差した。
「その、耳触っていい?」
キラキラと目を輝かせて、サネリに迫る。サネリはマロを抱えたまま、後ろに下がる。
「ど、どうぞ」
ぴょこん、と頭だけ、叶多の方に付き出す。叶多はそっと耳に触れる。
くすぐったそうに耳がヒクヒクと動くと、叶多はサネリの頭を撫で始めた。
「あぁ〜…………。夢にまで見た獣人…………」
満足そうな叶多を上目遣いに見上げて、サネリが小さな声で言う。
「ライカンスロープでもいいなら、私とお友達になってください…………」
「いいよ」
叶多が頷くと、サネリは立ち上がった。叶多よりも背が高いので、叶多の手は弾き飛ばされてしまう。
当のサネリはガッツポーズをしてパタパタと足を踏みならした。
「やったぁぁぁぁ…………! 私の命に替えても、叶多ちゃんをまもります……!」
「そこまでしなくていい。あと、敬語止めて」
サネリは動きを止めて、いいの、と聞く。叶多は面倒臭そうに、
「いいって」
と言う。
サネリは感動した様子で、叶多を抱きしめた。