マユゲ
ちょっと色々あり、間があいてしまいました……。自分のペースで投稿していくので、遅くなるかもしれないです。
「犬、いないんですか……?」
こぼれ落ちんばかりに目を見開いて、トージに詰め寄った。狂気を感じたと、後にトージは語る。
「いないよ……」
「いない、な……」
叶多は机に倒れ伏した。
「私は、私はどうやってもふもふの補給をすればいいの…………?」
「もふもふ?」
トージが首を傾げる。
そして、ハッと手を打って、バルを見た。ほら、あれ! と言いながら、ワタワタと手を動かす。
バルにもそれが伝わったらしく、ぽん、と手を打ち、
「少し待っていろ」
とだけ言い残して、部屋を出て行った。
しばらくして扉の開く音がしたが、叶多はまだ机に倒れたままだ。
「もふもふだ」
バルの低い声に、叶多はよろよろと顔を上げる。
バルの腕の中に、何かがいる。確かに、後ろ姿はもふもふ。しかし、わんこ過激派の叶多はそんなに甘くはない。
バルの腕の中を覗き込んで、顔を見てみる。
「犬…………!?」
顔は柴犬に近い。キリッとした顔を歪めて、バルの腕の中に収まっていた。叶多としては、あの麻呂眉がないのが残念だが、とにかく可愛い。
顔を歪めているのが可哀想だ。多分、バルに怯えているのだろう。
「おいで」
その犬? を受け取って、ふわふわ撫でる。しかし、背中に妙なでっぱりがあるのだ。
よく見て見ると、翼がついている。
「……翼?」
「あぁ」
いやいや、普通ないでしょ。
心の中で呟くが、ある、翼が。
「飛べるんですか」
「当たり前だ」
叶多は、ぎゅっ、ともふもふを抱きしめて、堪能する。背中に顔を埋めると、腕の中で暴れ出したので、仕方なく止めてあげた。
「あぁー、可愛い…………」
「あのな、こいつの面倒を見てやってくれないか。男に怯えているみたいでな」
ぐるんっ、とバルを振り返って、目を見開いた。
「いいんですか、いいんですね、取り消しできませんよ、ありがとうございます」
怒涛の勢いで言い切ると、犬の頭をそっと撫でる。ふわふわで、短い毛が叶多を癒やす。
「名前は?」
「…………犬っころ」
しばらく間を開けてから、バルが言った。
「は?」
叶多の口から、自分でも驚くほど低い声が出た。冷たい目でバルを睨んで、そのあと表情を緩めて穏やかに微笑みながら犬を見る。
「お前の名前はマユゲね」
「「止めておけ」」
叶多の麻呂眉への執着の結果であったが、二人に慌てて止めに入られた。叶多は不満そうにしていたが、心なしか、わんこはほっとしているように見えた。
譲歩に譲歩を重ねた結果、わんこはマシュマロと名付けられた。