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7 ナイティア伯爵令嬢エンドローズ(1)

「まあ酷い顔色。とりあえずそちらの長椅子に」


 広間に幾つか置かれていた長椅子には背もたれがない。

 元々軽いブフェ・パーティをする程度の場所であったので、どちら側からも座ることができる様にその型を選んでいたのだろう。

 その一つを窓際に引っ張り出してきて、そこにエンドローズ嬢を寝かせる。

 ルージュは使用人に爽やかなレモン水を用意させる。ナイティア夫人が支えながらそれを飲ませると、彼女は冷たいそれを勢いよく飲み出した。


「申し訳ございません、もう一杯いただけますでしょうか……」


 令嬢は恥ずかしそうに求める。


「……む、ちょっと、ライドナ君」

「はい」 


 院長は男爵を呼ぶと、小声で耳打ちした。

 そのまま院長はエンドローズ嬢の側に寄ると。


「ん、まあ…… お嬢さん、ちょっといいかな。舌を出して」


 院長は母親に支えられたままの彼女をその場でできる程度に軽く診察する。


「最近食欲が無いとかは?」

「ええ、……気持ち悪くて」

「そうかね、お母君」

「ええそうです。それが……?」

「お嬢さん、……失礼だが、覚えはあるかね?」

「……」


 エンドローズ嬢は院長の問いに、うつむいて口をつぐむ。


「……あの、先生、どういうことですか?」

「こちらから申し上げた方がいいかもしれませんね」


 一緒に診察の様子を見ていた男爵が口を挟んだ。


「エンドローズ嬢、失礼ながら、貴女は妊娠しているのではないですか?」


 ぱっ、と彼女は顔を上げた。


「そ、それは本当かねローズ!」


 父親が駆けつけてくる。

 他の客も、何だ何だと長椅子の近くにと寄ってきた。


「そうでしょう。エンドローズ嬢、貴女のお腹の子の父親は、このひとですね」


 ルージュは自分の夫を指した。するとエンドローズ嬢は大きな目に涙を一杯ためて、こくりとうなずいた。


「私だけ…… 私だけとおっしゃって下さったのに……」

「それで今の話にショックを受けたのですね。

 お察しいたしますわ。

 一体全体、彼は貴女にどう言い寄ったのです?」


 ルージュは彼女の前に腰をかがめ、優しい口調で問いかけた。


「君が……! 君がそんなことを…… 娘に!」


 背後では伯爵がティムスの頬を拳固で殴っている。

 かつて学校時代にボクシングをやっていたらしい伯爵は、実に見事な一撃をティムスの顔面に与えた。


「ナイティア伯爵、今はそっちのことは後に致しませんか? 

 ご令嬢のお体が心配です」

「それはそうでしょうが……! 

 まさか! 

 エンドローズ、お前、結婚前の娘がそんなことを……」

「だってお父様、ティムス様は奥様と離婚して私と結婚してくれるとおっしゃったんですもの……」


 言いながらエンドローズ嬢は泣きじゃくる。


「その辺りを少し詳しくお話しして下さらない?」

「申し訳ございませんルージュ様! 娘が何ってことを……」


 夫人もぺこぺこと頭を下げる。


「いえ、まあこの男があちこちに手を出してあられもなく三人で何やらやっていたこともあからさまになっている以上、そこに関して、今さら私がどうこう言っても仕方がありません。そもそも今日は彼と離婚しようという話ですし」

「あの、それでは、ティムス様と結婚しても宜しいのですか?」

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