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5 ワイター侯爵夫人マリエ(3)

「皆様、ご存じだと思われますが、ワイター・ローライン総合病院は、単に病院であるだけでなく、親の居ない子供や、親に見捨てられた子供をも預かっている場所です。

 私は昼は看護人をやっておりますが、夜勤は子供達の方の棟で番をしている一人です。

 道ばたで飢えている子供達を集めて、栄養をつけて、そしてきちんと最低限の教育を行い、社会に送り出すというこの施設はもっと広がってもいいものです」

「ありがとうプリミヤ。

 そうなの。

 実際この事業は子供が産めなかった私にとって、とても心休まるものでもあるわ。

 そしてやってみて思うの。

 子供の頃、ひもじい思いや、暴力や、強烈なものを見て育つと、それがまた大人になった時…… ってね。

 だからせっかくのこの身分を利用して、今もっとそういう施設を増やすべきだ、と貴族院の方でも話題に上げているのよ」

「ありがとうございます。

 本当に、あれで救われた子供達がどれだけ多く居るのか…… 

 いえ、それだけではございません。

 ある程度裕福な家でも、子供を見捨てているところでしたら、見つけて引き取っていらっしゃる。

 彼等は既に多少なりとも歪んでしまっていることもありますが、そんな彼等には、また別の医師がついたり…… 

 いえ、まあ今日の話題はそこではありませんね。

 そう、その子供達の棟は、案外夜になると人気が無いことが多いのですよ。

 ところがここ一年ほど、子供達の間で、幽霊が出るお化けが出る、と泣き出す子が結構居ましてね。

 うめき声がするとか。

 それで私達夜勤組が何人かで見回りに行ったんですよ。

 そうしたら、見事に、うめき声ならぬ嬌声が上がっていたということで。

 私達は慌てて灯りを消して、そっと覗いてみたら、子供達が昼間学んだり遊んだりする広間で、あの子達の大きな積み木を椅子代わりにして絡み合っている姿が。

 そして私達の中の一人が、あれは夫人だ、と言ったのです」

「嘘よ! 見間違いに決まってるわぁ!」

「そう、その非常に通る声でした」


 プリミヤは静かにうなずいた。


「物見高い私達ですから、またそんなことがあるのではないか、とメンバーをあれこれ替えて回っていたのですが、何ってことでしょう。

 どちらかのお顔に見覚えがある者ばかり。

 なのに貴女方はまるでお気づきにもならない! 

 私も怒っています。子供達の遊び場で、そんなことを……」

「そう、私も彼女達に言われて、確認に行ったことがあるよ」

「……院長博士」


 マリエの顔から血の気が引いた。


「ご足労ありがとうございます。博士」

「いやいや、肝試しの様なものだと看護人達に駆り出されてな。まあ行ってみたら、だよ。確かに、貴女と」


 そしてティムスの方を向き。


「君だったね」

「嘘ぉぉぉぉ!」


 ぶるぶる、とマリエは頭を大きく振った。

 その拍子に、現在流行の髪型にまとめたそれが、一気に崩れた。


「色々と皆証言してくれたね」

「貴方……! 違う、違うの、これは……!」

「ラベンダーとジギタリス」


 ワイター侯爵はテーブルの上の花を改めて眺める。


「またどうしてそんな似たイメージのものを組み合わせているのかと思ったら。『不信』と『不誠実』。

 ああ全くもって、今のマリエにぴったりじゃないか」

「貴方……」

「単なる浮気だったら、まあ私も許したかもしれないがね。

 そう、アガタが言っている程度なら。

 だけど病院、そして子供達の棟でまで盛っているなんて、何処までゲテモノ趣味なんだ?」

「もうしません、しませんから許して、貴方が、貴方に見捨てられたら」

「いや無理だ。この病院に下手な噂が立つのは困る。

 子供達の施設など、特に王室からも良きものを、と言われているしそのうち視察に来るという話もある。

 そんな場所を使って遊ぶなんて言語道断。マリエ、お前とは離婚だ」


 そう言うと侯爵はルージュに向かい。


「申し訳ございませんが、こちらからあれの実家であるサマイデ伯爵家の方へ電報を願います」

「貴方何を」

「お前を引き取ってもらうためだ」

「そんな! 私は自分のものを持ち帰ることすらできないって言うの!」

「結構な使い込みをもしている様だな」

「……」


 ぐぐぐ、と喉の奥が詰まった様な音を彼女は立てた。

 そしてやがて、ぐっと手を握るとうめく様な声で。


「そうまでおっしゃるなら…… 仕方ありませんわ…… けど!」


 指を自身のテーブルの右斜めの席に突きつける。


「あの女も同罪ですわ! ライトナ男爵夫人ヘヴリナも!」

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