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4 ワイター侯爵夫人マリエ(2)

 ミゼットと呼ばれた看護人は大きくうなずく。


「私は給料が良いので主に夜勤担当をしております」

「時間はどのくらいかしら」


 ルージュは続けて問う。


「私の勤務は夜の九時から十二時間。

 間に休憩を挟みますが、朝昼勤務の担当がやってくるのが八時。

 彼女達に引き継ぎをしてしまう朝の九時までが、私の勤務時間です」

「どんなことをするの?」

「主に病院内の見回り。

 そして夜間に唐突に運ばれてくる患者の応急処置です。

 診断できる先生は数が少なく、大概朝にならないと来ないので大変です」

「まあそうなの。

 ごめんなさいね。

 夜間勤務も可能な医師も探してはいるのだけど、なかなか応募して来ないのよ」

「いえローラインの奥様、病院ができるまでは、夜の患者は捨て置かれるのが普通でしたから、それに比べれば、あたし等が多少なりとも手をかけられるのは良いことだと思います。

 実際夜中のケンカで傷を負った連中なぞ、今までは敗血症で死んでしまうことも多かったんですが、最近はその数もぐっと減りましたから」

「それは良かった。それで、夜の見回りの中で、何を見たの?」

「何というか…… こんなところで絡まるか、という」


 呆れた様な顔で、ちらとミゼットはマリエの方に視線を向けた。


「……ワイターの奥様、幾ら貴女様が病院の出資者とは言え、手術室でなさるのは宜しくありませんよ」


 え、とワイター夫妻の右横の席であったナイティア伯爵一家が目を大きく見開き息を呑んだ。


「そ、それは本当なの、ミゼット…… さん」


 ナイティア伯爵夫人は友人たる彼女の行いとは信じられないのか、発言者に問い返した。


「貧しい平民のあたしの見たことを信じてくださるなら。

 あたしは怒っているんです。

 ワイターの奥様。手術室はいつもできるだけ清潔を心がけている場所なんです。

 手術台も、その他の機材も、皆いざ手術が行われる時には、一斉に大鍋に熱湯を沸かして、煮沸消毒をしなくてはならないんです。

 使っているシーツや布はもちろんですし、台はいつもその都度高価な高濃度アルコールで磨いているのですよ」

「そ、それがどうしたの」


 マリエの額からは汗がだらだらと流れ出していた。やや濃いめに塗った白粉に線が描かれる。


「清潔にする理由には二つあります。

 一つは、患者が汚れた台の上で治療されると後々大変なこと。

 もう一つは、患者があたし達の知らない病気とかを持っていた場合に怖いからです。

 そういう場所なんですよ、あそこは」

「それだけではありません」


 そうもう一人の看護人が口を挟んだ。


「貴女は、そう、プリミヤでしたか」

「はい。夜勤も昼勤も両方しております。

 ただ、私の回るのは、病院の本病棟ではない方です」

「と言うと?」

「子供達の居る側です」

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