ヤラセとハッタリ
「うわあああああ帰りたいぃぃぃいでもこの世界の人間を見捨てられないいい……あ、聞くだけでいいから!その気になったら帰れるよ、とかそういうアドバイス要らないから。」
龍の寮の私とユーリの部屋。ユーリたちは今頃他の部屋の掃除とセッティングをしていることだろう。
客人が来ると言うので、とりあえずこの部屋に家具や茶器等の最低限のおもてなしグッズをぶち込んで何とか体裁を整えた部屋だ。
今日の客人は聖女と、ヒロインの皮を被った化物……訳が分からない。
そして、聖女は今まさに机に突っ伏して足をバタバタさせ幼児退行の真っ最中だ。
なんだかんだ理由をつけて取り巻きの白ローブ達を部屋からおいだし、消音結界を貼った途端このザマだ。
こんなので聖女としてやっていけて……るんだろうなあ。いくら聖女でもある程度の信頼がないとあんなに信者たちに敬われないもん。
「と、いうかお酒ないの?お酒。あなた達も16歳なら飲めるでしょ?」
この世界は飲酒が15歳から許可されている。社交の場で飲めないとどうとかって理由だったような。
「あるけど……ちょっと取ってくるね。」
椅子から降りて扉を開ける。椅子は高いし扉は重いし、どうも私に優しくない。どれも力が強くてでかい奴向けの作りをしてる。
実際この寮は力が強くてでかい奴がほとんどだけど。
扉を押し開けると、すぐに何かにぶつかった。
白いローブを着た男……聖女教の信者だ。ドアの前待機とかガチ勢すぎるでしょ。
「何をする気だ?」
「ちょっと、聖女様に頼まれたものを取りに。」
「同行しよう。変な物が混ぜられると困る。」
う、うおおおお狂信者めんどくせえええええ。
さっきも部屋の隅から隅まで文字通り調べられたし。
気持ちはわからんでもないが……3人だけで喋る事を許可してくれただけありがたいと考えるべきか?
白ローブを引き連れて、大体の荷物が置いてある玄関入ってすぐの広間に向かう。
廊下にも一定間隔で白ローブたちが散らばっていて、すっげえ怖い。お前らはホラーゲームの敵か?あと視線が怖い。
白ローブ達の視線に打たれながら広間に着いた。
広間にうずたかく積まれた、どう見ても私達が持ってきた量と釣り合わない荷物たちは、きっと父さんがインベントリから追加で出したんだろう。
ランスロットがでかい机を軽々と片手で運んでいる。えげつない体幹と力だ。
「お、おい。」
白ローブが言う。
「何故主人……あの龍……ランスロット様はお前達の主人だろう?何故働いている?」
「え、人手が足りないからですけど。」
訳が分からないというように顔を顰める白ローブ。
「というか、主人とかでは無いです。対等な関係……友達ですよ。」
割とでかいため息が聞こえる。ランスロットに聞こえてたらやばいとか思わないのか?
「龍と人間が友達だと?最強種たる龍と?」
大分皮肉が混じった言い方だ。種族単体で見れば人間は恐らく最弱種。多少の羨望もあるのだろう。
「あの人間同士の戦いを見ていたはずなのに、まだ龍という最強種に対する劣等感が拭えてないんですか?じゃあ逆に聞きますけど、あの二人が龍と戦って負けると思いますか?」
考える様子を見せる白ローブ。
「……力が対等ならば対等の立場になれるということか?」
「それはちょっと違います。紛らわしい例え方をしましたが、別に龍が最強って訳じゃなくて、人間にも可能性があるってことを伝えたかっただけです。そもそも、私はそこまで強くないですし、ランスロットと戦っても真正面からなら普通に負けます。それでも対等であれるのは、龍が寂しがり屋だからです。」
渋面になる白ローブ。考えが顔にも態度にも出すぎでは無いだろうか。
「考えてみてください。力があるが故に誰も自分達と仲良くしてくれない。辛くないですか?」
「でも、あいつらは龍だ。人ではない。」
「種族が違っても考えは同じということもあるんですよ。
最も、龍も一枚岩ではないので、龍こそが世界を統べるべきである……とか考える派閥もいるみたいですけど、それは1部で今は他の種族とそれなりに良い関係を築いていきたいというランスロット達の派閥が最も力があるので抑えてくれてます。それに、敵と考えるよりは友達……仲良くなれる可能性がある存在として考えた方が気持ち的に楽なんじゃないでしょうか?」
「……分かった。」
未だ渋面のままの白ローブだが、この論議の平行線っぷりを理解したのかしぶしぶ頷いた。
「あ、ところでランスロット。お酒どこにあるかわかる?」
「それならここら辺の木箱の中じゃないのか?」
片手にテーブル、片手に山のような椅子を持ったランスロットが足で木箱を指し示す。
先程の論議の事で頭がいっぱいで、何も考えずに荷物の山からその木箱を引っこ抜く。すると、どこかを支える重要な役割をしていたのか凄い勢いでこっちに向かって崩れてきた。
やばい。
「危ない!」
そう言って両手の荷物を投げ捨て、私の上に覆いかぶさったランスロットは瞬時に龍の姿になり、崩れる荷物を体を張って食い止めた。
「ランスロット……!」
「お、おい!大丈夫か!?」
私を庇って荷物の下敷きになったランスロットがゆっくりと身を起こした時、私の剥き出しになった足首にその指が触れ、思考が流れ込んできた。
『よっし!完璧に上手くいったぞ!わざと崩れそうな場所の木箱を引っこ抜かせて、風魔法で自然に荷物を崩して荷物の下敷きになりかけたシアリーンを俺が助けるというシナリオ!これであの人間の龍への好印象がアップしたはず!』
「お前、鱗全部ひっぺがしてハダカデバドラゴンにしてやろうか。」
「え、あ、ピャァ。ご、ごめんなさい!」
さっきまでのかっこよさはどこへやら。このクソボケドラゴンめ。人の命をなんだと思っているのだろうか……。多少の認識の差異はあれど、基本的には仲良くできると思いたいのは私の思い込みなのか?
「それで?あなたはえっちゃん……シアリーンのなんなんですか?」
シアリーンが出ていった瞬間、私は切り出す。
目の前の女性。特に危なそうには見えないが、友達が変なやつと関わっていたらぶん殴ってでも止めるのが私の役目かと思っている。
特にシアリーン……えっちゃんは、前世の私の唯一の友達だったから。
「うーん、いきなり喧嘩腰ぃ。おっと、ごめんなさいそんなに睨まないで。なんてったらいいだろ。シアリーンとはとある事件をきっかけに協力関係になったの。」
協力関係……友達とかではないのか。シアリーンは確か男だったはずだから恋人の線も考えていたのだが。割と遠めの関係なのか?
「そもそも、あなたは何者ですか?」
黒髪黒目の女性。純和風の顔立ち。そして先程ほざいていたことと、聖女と言う立ち位置。この世界の人間とは考えにくい。
「そういえば、言ってなかったね。私は竹中和葉。大体11年前にこの世界に聖女として召喚された。今じゃすっかりおばさんだよー。よろしく!こっちが名乗ったから次はそっちの番だよね?」
「……私は、フェーリ・リーシャルカイン。シアリーンの前世の友達です。」
「よろしくするつもりは無いのぉ?」
机に突っ伏したまま子供じみた話し方をする和葉……私にはこの態度で十分だと言われているようで不快だ。
「初対面の相手には警戒してて越したことはないと思います。と、いうかあなたが警戒して無さすぎだと思うんですが。」
「はっはっはー。私にはチートじみた結界魔法があるからねー。フェーリちゃんとシロノウチさんの戦いでも壊れなかったあの結界、私が貼ったものなんだよ?」
そんな簡単に手の内を晒して大丈夫なのか。それに、私とシロノウチの戦いを見ていたはずなのにこんなに余裕な態度でいる……まだ隠しているものがあるのか?見たところ、あまり筋肉はついていないし肉弾戦は得意では無さそうだが。
ずっとにこにこ、にやにやしている。うーん、無闇に喧嘩をふっかけるべきじゃなかったなあ。
全てにおいて相手をよく観察することが大事。基本だったでは無いか。
「私、前世のシアリーンのお話も聞きたいなあ、教えてくれる?」
肩肘で頭を支え、笑みを浮かべてこっちを見てくる。あー、こいつはやばい奴だな。めちゃくちゃ怖い。
肉体面の強さでしか判断していなかった自分の未熟さを痛感しつつ、私は口を開いた。
更新遅くなってすみません。予想以上に今回入れるはずだった内容が長くなって途中で切ったので、今回少し短めです。