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その聖女召喚、本当に大丈夫ですか?

消化不良のまま次回に続くので、次回と合わせて一気に読むのをオススメします。

Twitterに執筆垢を作ったのでフォローして頂けたら嬉しいです。

「さて、5年前に起こった事件についてだが。」

シアリーン達の暮らす、ある意味他種族から隔離された北方大陸より海を渡って南に南下した所にある中部大陸。ここは人間、エルフ、獣人でだいたい三分されている。

その中の人間の国々のある意味まとめ役となっている大国、クリスタ王国。王立大魔道学院がある場所でもある。

5年前の事件で通じるほど、あの事件は国の中枢を大きく揺さぶった。事態がある程度収まるまで5年かかった程である。

5年前、国、種族問わず手広く根を張っていた複数の裏社会の組織が一斉に瓦解した。

それと同時に、裏社会に疑心暗鬼や混乱が……多少異常すぎるほどに発生した。

曰く、「どこかの組織の仕業だ。」「こんなことが出来る組織があるのか?」「ならば一体どいつがやった?」「あいつらに喧嘩売って無事だった奴はいないと言うぞ?」「俺達はあいつらと繋がっていたが、直前までそんな様子はなかった……」など。

人間は元々他種族より種族としての性能が多少劣っており、故にこすい手を使ってでも他種族と並ぶために、裏社会との繋がりも強かった。

なので混乱は大きかった。市場の変化、物価の変動、手に入らなくなったものも多い。今でもその影響は残っており、5年でなんとか収まったのが奇跡と言っていい程だ。

そして、この件の1番恐ろしい所は、誰がこの事件を引き起こしたのがわからないという点である。

裏社会のどこの組織がやった、あいつが怪しい、と噂はされているものの、確実な犯人がわからないのだ。故にまた起こるかもしれない。裏社会との繋がりを断つ事が最善だが、それをしてしまえば種族が危ぶまれる程裏社会との繋がりは太い。

この事の危険性は承知していたつもりであったが、やはりどこかで大丈夫という油断もあったのだろう。

裏社会との繋がりはじわじわと無くして行く、でこの件は片付いた……という話にしていたはずだが、今更国の主要臣下が集まって何を話そうと言うのか。

「……皆も知っての通り」

この会議を主催したベルトホルト宰相が口を開く。

「この5年で我々は国のあり方を大いに考えさせられることとなった。いつまでも裏社会に頼っていてはならない。……そのためには、表に立つ代表が必要だ。」

宰相の言いたいことはわかるが……

「一体、誰を?」

誰ともなくそうつぶやく。

正直、今の人間種にそれほどの影響力……民に裏社会からの脱却を促せる程の影響力を持った英雄は居ない。

「居ないならば、連れてくれば良い。」

その宰相の一言で、何かを察したもの数人。

「しかし、あれは……」

「返す方法も分からないというのに……」

「何処の馬の骨とも分からないような奴を……」

それらの意見に頷く宰相だが、決心は変わらなさそうだ。

「聖女様を召喚する。」

ざわつく会議室。

聖女召喚とは、古来より伝わる秘術。召喚された女性は決まった能力ではないが、例外なく英雄的力を持つ。

数千年前の聖女、トヨはそれ自体が神格化されており、『聖乙女教』という宗教ができるほどだった。

「しかしながら、聖女召喚はかなりの時間がかかる術です!そう簡単に……」

「簡単だと思うのか?」

宰相の雰囲気が変わる。

「私が!簡単な決意で聖女召喚と言う結論に及んだと思うのか!」

椅子を引き倒し、立ち上がる宰相。兵士が慌てて抑えようとするが、それを手で制し、叫ぶ。

「聖女召喚は、知っているか皆!異世界より何も知らない素質ある乙女を、手前勝手な事情で家族から引き離し!この世界に強制的に連れてきて、そのまま二度と大事な人に会えなくする……クソみてえな術だ。」

結婚指輪の嵌った左手を固く握りしめる宰相。

彼には確か、5歳になる娘が居たはずだ。

「こんなことはしたくない……こんな術はあってはならなかった!我々が逃げ場所にしてしまうから!この世界の事は本来この世界で解決するべきだ!

それをわかっていない奴は居ないと思うがな!」

そっと目を伏せる者数人。彼らはきっと聖女召喚をすることで何とかなるならばよかったと、一瞬でも思った者達だろう。

自分達が解決するべき問題を、異世界から来た哀れな乙女に押し付けるのはなんと外道の所業だろうか。

「ベルトホルト宰相、今の状況は、そんなに悪いのかね。」

「ああ、悪い。いつ同じこと……市場から物が無くなることが起きるか分からない恐怖で、商人たちが物を抱え込み、物価がどんどん高くなっていて、貧しい人々が飢え始めている。

この5年で国庫も悲鳴をあげている。人々に絶対の安心を与えられる存在が居なければ、このまま物価は上がり続けて最終的には国が立ち行かなくなる。」

「……本当に、それしか、ないのか。」

それが、会議室にいる者達の総意だった。

「召喚にはどれくらいかかる?」

「確か半年」

「国はどれくらい持つか?」

「10年はいけるが、多く見積ってだ。最悪5年」

「それはひどい」

聖女召喚に向けて一気に傾く会議室。

果たして聖女程度でこの状況を打破することが可能なのだろうか。


父さんが居なくなった。

それ自体は別にさしたることでは無い。ぶらりとどこかに行くことなど日常茶飯事だ。しかし、普段は長くても数ヶ月で帰ってくるのに今回は1年経っても帰ってこない。

私達は6歳になっていた。

あまりにも帰ってこないので、流石に母さんもリヒトさんも心配し始めた。母さんは、シロノウチが帰ってこないとおちおち狩りにも行けやしない、と冗談めかしていたが、かなり不安なはずだ。

リヒトさん達と協力して、捜索することを決めた。

かなりの広範囲を1度に検査する事が出来る最上位探知能力、『龍の遠吠え』。当然龍のみが可能な種族としての特性だ。

先に父さんと血が繋がっている私をスキャンして感覚を掴むと、更に精度が上がると言うので協力した。

その結果、ありえないことが判明した。

父さんの存在がこの世界から消えている。

わけがわからないよ。

その後も方向、メンバー、条件、範囲を変えて10回程念入りに探査してもらったが、結果は同じ。ランスロットの老害婆さんは、性格こそあれだが能力は申し分ないのだが……

「本当に存在がきえてる、としか表現できないね。私しゃ何回もあんたの父と会っているからこの世界にいる限り、見つけられないはずがないんだけど。

死体になってても見つけられる自信はあるよ。それでも無理ってことは、本来ありえないんだけどねえ。」

少し首を傾げると、言った。

「……あんたという例があるからねえ。」

婆さんはこちらの事情を全て把握しているようだ。言ってないはずなのに。やべえババアだ。しかし、父さんがこの世界に居ないなんて、考えたくもなかった。

それじゃあどうすればいいんだ、と言うか父さんはどこに行ってしまったんだ。私達を置いて?思考が負の泥沼にハマりかけた時、ババアが言う。

「そう言えば、半年くらい前、人間の国で聖女が召喚されたらしいね。だいぶ噂になってたよ。」

「それがどうし……」

まて、父さんは初めは本当に数ヶ月で帰ってくる予定だったんじゃないだろうか。

聖女召喚……無駄に歳食ってるババアが言うからにはなにか関係があるのか?そこら辺も明言してくれよババア……。とはいえ、ここまでヒントらしいものをもらってわかりませんでしたとババアに泣きつくのも笑われそうで嫌だ。

なにより、あと少しでわかる気がする……聖女召喚は、聖女を異世界から召喚してくるんだろう。

世界間のバランスとか大丈夫か?バランス……くそが。何となくわかったぞ。これでいいか?ババア。

ババアの方を向くと、ババアは妙に芝居がかった大仰な仕草でゆっくりと頷いた。


龍の神殿から帰ってきて以来、シアリーンはずっと資料室に籠っている。

1人で寝るのはやだ!兄さんと一緒じゃなきゃいや!と駄々を捏ねていたユーリを何とか寝かしつけ、私は資料室に向かった。

コンコンとノックして扉を開けると、もこもこの羊のような後ろ姿が見える。もう既に成長の遅れが見られる小さな体で一生懸命何かをしているようだ。

資料室の重厚な机の上には、どこから持ってきたのかわからない天秤ばかりが置いてあった。

「失礼するよ」

「なんだ、母さんか」

何をしているのやらと思えば、メモ帳に魔法陣を書き出しているようだ。

「そろそろ寝る時間だよ」

「うん」

「ユーリはもう寝たよ」

「うん」

何を言っても生返事しか帰ってこない。

「何をしてるんだい?」

「できることを増やしてる」

「何のために?」

「決まってる、父さんをこの世界に戻すためだ。」

予想していた返答だったが、目頭が熱くなる。この子は、この世界に父が存在していないと知ってなお諦めていないのだ。

「これはあくまで仮説なんだけど」

シアリーンが天秤ばかりを引き寄せる。

皿の上にはラズベリーが乗っていた。台所のものだろうか。

「世界っていうのは、こんな感じでそれぞれバランスを保って存在している。でも。」

左の皿のラズベリーを右の皿に移す。当然計りは右に傾く。

「こんな風に、物体が移動してしまうとバランスが崩れる。さっきのラズベリーの移動が聖女召喚。」

なるほど。この世界の人間が聖女召喚をしたせいで世界のバランスがおかしくなったと。

「だから、バランスを整える必要がある。」

さっき動かしたのと違うラズベリーを左の皿に乗せる。天秤が釣り合った。

「まさか、それがシロノウチだっていうのかい?」

だとすれば、シロノウチは召喚された聖女の代わりに異世界に行ってしまった……?

そんなことはありえないと否定する自分がいるが、目の前には異世界から転生してきた息子がいる。

完全に否定することはできない。

「もちろん、そうじゃないかもしれない。父さんは多分数千人分の記憶を溜め込んでいるはず。

そうなると、存在自体の大きさが変わってくる。」

「どういうこと?」

「うーん、通常状態のモンスターと別のモンスターを取り込んでパワーアップしたモンスター。どっちが強いかって感じかな」

「完全に理解した。ウン千体の記憶を取り込んだ奴と、聖女じゃ釣り合わないってことだろ?」

「そう。そう考えたら、聖女が父さんレベルの力を持っているか、今まで召喚された聖女達の分の反動が一気に来たか……

最悪は、これをきっかけに父さんが世界から排除されたという可能性だ。」

そう言うとシアリーンは、天秤ばかりの右の皿から一際大きいラズベリーをつまみ、口に押し込んで噛み潰した。

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