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上げて落とされた

入学式は闘技場で行われる。

そう、父さんとフェーリが暴れ回ってめちゃくちゃにした、あの闘技場である。

入学式の後には、各種族の中でも地位と能力が高い者達が集う夜会が会場を変えて開かれる。保護者と従者同伴ではあるが、実質代表の集いみたいなものだ。

こういう、腹と腹の探り合いみたいなのが起こりそうな場面って、わくわくしませんか?

もちろん私と父さんとユーリも、ランスロットの従者という立場で同伴することになっている。

残念ながらフェーリは、平民という地位の関係からか、夜会には参加できないそうだ。

基本的には生徒は制服、保護者と従者、護衛等は各々の正装で参加することになっている。

「それなんだけどね……私がドレスを着ようとしたら破れたんだよ。おかしいねえ。20年前は確かに着れてたはずなのに。」

母さん、そりゃそうだ。

「だから、全身鎧来ていくことにするよ。」

ばかやろうかな?

「なんでそうなるの。」

「まともな服が思いつかないからねえ。全身鎧なら服を見せないでいいんじゃないのかい?」

だからって全身鎧……全身鎧かあ……。うーん、いつものモンスターの血に塗れた服とか、実用一辺倒のシャツとズボンよりいいのかな。一応リヒトさんの護衛って扱いだし防御力もあるだろうし。

「……流石に、フェイスアーマーは外しなよ?」

「もちろんだよ。さて、そうと決まれば支度しようかねえ。」

私達の一族自体、外界からほぼ隔離されていたとはいえ、こういうきちんとした場で着れる服を持っていないのも困りものだ。

特にこれからは私達の存在も公になるだろうし、正装の1着や2着持っていても損は無いだろう。

「母さん、あの大量に狩ってきたモンスターの素材を使って新しいドレスを仕立ててもらおうか。」

「そうだねえ。私はそういうのには詳しくないからお任せするよ。」

「私も詳しいわけじゃないんだけど、近くの街にいいところがあったらそこで頼んでみるよ。」

「助かる。ありがとね。」

そう言うと母さんは立ち上がり、着替えの為に食堂を出ていった。

夜は夜会のため、昼ごはんはパン一個と軽めだ。

夜会の料理はバイキング形式らしいが、食べ過ぎは禁物だ。

昨日学園の周りにある街を探索した時に、通りのパン屋で買った白パン。1日経っても美味しい。

「なんだ、まだ食べていたのか」

余計な一言と共に入ってきたのはリヒトさん。

その手にはリヒトさんの分のパン。父さん達と一緒に食べ始めたのにまだ食べている私を不思議に思ったのだろうか。

父さん達の1口と私の1口を同じにされては困る。

私の前に座ったリヒトさんが唐突に言う。

「そうそう、家を出る前に言ったことを忘れるなよ?」

「大丈夫ですよ。」

そうは言ったものの、いざどんなことかと聞かれると朧気だ。念の為、自分の記憶を読み返してみる。だいたいこの辺りかな?


「ひとつ忠告しておくが、転生者だと他人に話すなよ」

寮に持っていくための荷物を梱包しているとき、突然にリヒトさんがこういった。

突然話しかけられたので、びっくりして持っていた皿を落として割った。

転生者だと話すなって……お約束だけど、どうしてまたわざわざいってくるのだろうか?

「訳分からんって顔してるな。」

ばれたか。

風魔法で皿の破片を集め、ゴミ箱に流し込む。

「そもそもなんで実質最弱種の人間族が中部大陸に陣取れていて、今回みたいな全種族に呼びかけるような催しを開けるかわかるか?互いに仲が悪い種族もいるのにだぞ?」

……確かに、人間族にはこれといった特殊能力もないし、父さんのせいで経済的にもボロボロになってしまったし。

しかしながらそれ以前でもそこまで裕福な種族ではなかった。

「うーん、何か切り札みたいなのがあるから……でしょうか?」

「そうだな。シア坊もよく知ってるやつだ。」

人間族の切り札的な何か。それだけで他の種族に対してマウントを取れるような?

種族の能力の差を埋められる……ある意味規格外の龍という種族を覗いて、他の種族が警戒するような……。

「もしかして、聖女召喚ですか?」

「その通り」

これといった特殊能力がない人間族を哀れんだ神が授けた逃げ道。

他の種族には伝わっていない極秘の術。その実態は秘匿されていて分からない。

大量の魔力と膨大な時間を要するが、和葉のようなチート級の能力を持つ人間を召喚できる。

和葉の能力、『神域』はあの父さんとフェーリの激突に耐えたような代物だ。詳しい強度はまだわからないが、ひょっとしたら龍の攻撃にすらも耐えられるかもしれない。

戦争とかに転用されたらどれ程の戦果を上げるか分からない。

「聖女召喚がなかったら、今頃人間族はエルフと獣人にじわじわと吸収されて消えてただろうな。」

どちらも人間族と同じ中央大陸に居る種族だし、獣人は身体能力、エルフは魔法に長けている。

武力行使になったら人間族に勝ち目はないだろうし、獣人の直感力とエルフの魔力認識能力があるなら、外交でも不利だ。

「……でも、それが何故異世界人だと言ってはいけないことに繋がるんですか?」

「考えてもみろ、それぞれの種族の中には人間族の事を見下してるヤツらもいる訳だ。あいつら大した能力もないくせに、どうして俺たちと対等に接してるんだ、みたいな考えをする奴も居る。

そいつらは考える。そもそも人間族が台頭できているのはなぜか。考えた末に辿り着くのが聖女召喚だ。」

「もしかして、その人達が私達、異世界出身の人間を利用する可能性があるからですか?」

「その通りだ。だが正直に言うと、各種族の中でもトップクラスの実力がある奴はお前達の異常性が分かるんだ。体がこの世界のものでも、魂が別の世界のものだからどこか歪なんだな。」

「それじゃ隠す意味ないんじゃないですか?」

「いや……そこまでの能力がある奴が龍の庇護下にある者に手を出すと思うか?」

言われてみれば、龍の中で最も若く、最も経験が浅く弱いランスロットでさえも、今の父さんと拮抗できるほどの実力を持っている。

そんな桁違いの強さ、実力があるものが見抜けないはずがない。そして、それに喧嘩を売ることの愚かさがわからないはずがないのだ。

と、言うことはリヒトさんが言わんとしていることは?

「そこまでの実力がなく、龍の危険性も見抜けない者にバレたらどんなことになるか分からないから、ですか?」

「そうだ。有り体に言えば馬鹿だ。」

わざわざオブラートに包んで言ったのに、ひっぺがしていくスタイルなんだあ。

「馬鹿は何をするかわからん。普通はやらないだろうというやらかしをするからこそ、そいつは馬鹿なのだ。そう考えれば、100の天才より1の馬鹿の方がよっぽど恐ろしい。……実際、乙女ゲームとやらの中の『朝の雫団』の所業も馬鹿そのものだったが、恐ろしい結末を招いただろう。」

ユーリを攫うなんて馬鹿の極みのようなことをしたのに、卒業間際の『深淵の魔女』降臨イベントも『朝の雫団』の招いたことだった。

なんだろう、創作物のやばい馬鹿って、黒い例のあの虫くらい生命力に溢れててしぶとい印象がある。

「……気をつけます。」

「ああ、そうしろよ。」

話終わり、颯爽と踵を返して勢いよく扉を押し開けたリヒトさんは、のんびりと廊下を歩いていたランスロットの顔面に扉をぶち当てた。


「……大丈夫です。忘れてませんよ。」

「なんで笑ってるのかはさておき、それならいい。念の為フェーリにも伝えておいてくれ。最も、龍陣営の寮に3日間泊まった人間だ。そうそう危険はないと思うが……そうだな。

あの大量のモンスターの解体を手伝ってもらうという名目で招待して、そこで龍陣営のマントと、ちょっとした魔道具を渡しておくか。」

「それ、下手したらフェーリを危険に晒すことになりませんか?」

自陣営のマントを渡すということは、その者を取り込む、スカウトするということを意味する。

そして高価な魔道具は、捉えようによっては買収とも取れる。

フェーリはそこまで裕福ではない平民出身。しかしながら、現段階では人間族の新1年生トップクラスの実力を持っている。更に言えば、希少な光魔法の使い手。

それにこれは後から判明することなのだが、フェーリの光魔法に対する親和性は最高だ。特性を簡単に言うと、その属性を含む魔法から一切のダメージを受けない。

そんな半端ない逸材を龍陣営が取り込もうとする。それによりフェーリにどれ程の関心が集まるだろうか。

リヒトさんとしては龍の庇護下に置くことでフェーリを護りたいのだろうが、それが逆効果になる可能性は限りなく高い。

「それでもだ。」

まるで心を読んだのかのようにリヒトさんが言う。いや、実際に心を読みやがったのか。

「話し合いを効率的に済ませるにはこの方がいいだろう?」

確かにそうだけれども、信用喪失案件ですよ。

「まあ、シア坊と私の関係だということで許してくれ。」

えー。ちなみに、どこから読んでたんですか?

「シア坊が変なタイミングで笑いだした時だな。」

おっと、リヒトさんの笑顔が怖い。これでお互い様ということにしておいてくれませんか?

「いいぞ。それでさっきのシア坊の疑問だが、その程度の危険性など、些事だ。

このままフェーリを放置しておいた方がよっぽど危険だ。シア坊は我々の庇護下にあるから、1部の馬鹿からの危害のみを気にする程度で大丈夫だった。

しかし、フェーリにおいては特別強い後ろ盾がある訳でもない。つまり、馬鹿だけでない。実力者たちからも狙われる恐れがあるということだ。

故に可能な限り早く龍陣営に引き込んでおく必要がある。フェーリは確かに強いが、どの陣営にもそれを上回る強さのやつが何人かは確実に、居る。」

……それは、だいぶかなり相当やばいですね。

「そうなれば、もう入学式の時から引き込んでおいた方が良いか?ユーリ……いや、何かあった時のためにシロノウチに頼むか。

入学式が終わった直後に、シロノウチとシア坊がフェーリに声をかける。シア坊が居ればフェーリの緊張も薄れるだろう。

そのままモンスターの解体を手伝って欲しいと言う名目……ここは変わらないな。それで寮に連れて来い。念の為に寮には私が結界を貼っておく。

私達が夜会から帰ってくるまで絶対に寮から出るなよ。」

え?じゃあ、私は夜会に出れないってことですか?

「そうなるな。あんなもの面白くもなんともないから、出れないことを喜ぶべきだと思うが。」

うう……腹と腹の探り合い……ドロドロした人間関係……バイキング……。

「バイキング?もし入学式の後に腹が減ったなら、適当なモンスターを捌いて食べていいぞ。」

そういうのじゃないんですよ。バイキングで色とりどりの、味付けも様々の料理をちょっとずつ食べてみたかったんですよ。

「……フゥン?」

はっ倒すぞ、この舌の肥えたおっさん龍め。

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