それだけ。
夜明はおそらく知っていたのだ。
あの8月のライブが最後のライブになることを。
それでも、“次”を手繰り寄せたくてあの言葉を残したのかもしれない。
彼女はいつの間にか現れて、いつの間にか消えていった。そう多くの人の目には映っているだろう。特に、彼女のファンでなかった人には。
彼女が本当にいたのかさえ、今となっては確認のしようもない事実なのかもしれない。
いや、そんなことはないか。
僕は、そう思って机の引き出しをあさる。ない。
財布の中。ない
本棚。
そうだ、本に挟んでおいたんだ。
誰かが来た時にそれが見つからないように。
なんでか、彼女のライブに行ったことが恥ずかしいことのように思えて、隠しておいたのだ。
見つけた。
彼女のライブのチケット。
「本田夜明」の文字が、たしかに印刷されている。
去年の8月8日。
彼女は確かにそこにいた。
僕は彼女と目が合った。
彼女のあふれるばかりの生に、僕は確かに関わっていた。
僕は確かに彼女からなにかを受け取っていた。
何かはわからないけど。
僕が彼女にできたことなんて何もないけど。
それでも、彼女の短く輝く人生は、僕になにかをくれた。
それだけで、いいのかもしれない。
まあ、僕はただの大学生で、彼女のようにはなれないけど。
彼女の生に何か意味があったと、証明できるのは生きている僕らだけ。
だからって、何もできないけど。
ただ、昨日より少しだけ、僕も生きてみようと思った。
それだけ。




